
気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第8回は、株式会社UMITO Partners(ウミトパートナーズ)の村上春二さん。ウミトパートナーズは、ウミとヒトが豊かな社会を掲げて事業を行っている。その背景にある村上さんの思いと今後目指す世界とは。
目指すはサステナブルな漁業の創出
「ウミトパートナーズは、一言でいうと『おいしい漁業が続く社会』を目指しています。限りある海洋資源を守りながら、きちんとビジネスとして儲かる漁業を作ることが、消費者がおいしい魚介を食べ続けられることにつながると思っています。
具体的な業務内容としては、持続可能で適切に管理された漁業を実現するためのサポートです。海洋資源管理に関する豊富な経験と科学的な知識をもとに、生産現場に対して持続可能な水産物として認証されるエコラベルの取得や資源管理のコンサルティングを行っています。次に生産現場とシェフのマッチング。思いのある生産者さんと、そのストーリーを届けたいシェフを繋ぎ、商品開発を行います。また環境に優しい魚やシーフードの調達リストの提供もしています。
『サステナブルな漁業』と言っても明確な定義があるわけではありません。私は『環境と経済と社会のバランスが取れていること』を一つの定義としています。資源、つまり海の中にどれだけ魚がいるのか。生態系が守られているか。自然に悪影響を与えていないか。それがサステナブルな漁業の一つの基準だと思っています」
猪猟師の父の元、自然と環境問題に関わる道へ
「父は磯釣りが趣味で、自分も幼い頃から一緒に釣りに行っていました。猪狩猟にも同行したり、食卓に猪肉があがったりして、いわゆる食育というか、自然共生といった概念が当たり前の家庭で育ちました」
高校卒業後はグラフィックデザイナーになりたいと渡米したが、デザインは自分でも勉強できると考え、ビジネスの道へ。ところがそこにもあまり面白さを感じられず、今度は自然地理学の勉強をするようになった。アラスカでキャンプやヒッチハイクなどをする中で、次第に「自然を守りたい」という気持ちが芽生えてきたという。
日本に帰国後はPatagoniaへ就職するも、限りある時間でより大きなインパクトを与えられることがしたいと退職。ポートランドの環境団体であるWild Salmon Centerの日本支部長を務めた後、全水産物を守るためのNPOやシーフードレガシーを経て、2021年にウミトパートナーズを立ち上げた。
ウミとヒトへ良い影響を与えること
「Wild Salmon Center時代から生産現場の方々と事業を作ってきました。当時は、『環境を守りたい』という意識が強かったんですが、環境問題は人の問題だと気づいたんです。環境のために何かしたいと思ったら、人に何かしないといけない。生産現場の人が『やりたい』と思わなければ本当にサステナブルな取り組みにはならないんです。政策や市場のお金だけ動かしても現場の納得は生まれない。コンサルティングといっても上から偉そうなことを言うだけの人にはなりたくなくて、私は現場に徹底的に寄り添うことを決めています。漁師ともシェフとも行政ともフラットに手を取り合う、パートナーという立場だと思っています」
ウミトパートナーズの強みは「ビジネス」「サイエンス」「クリエイティブ」。「サイエンス」に基づいた「ビジネス」を「クリエイティブ」に伝えていくことによって、海の未来をよくしていきたいという。
「それが生産現場のサステナビリティにつながっていくと信じています。そういうアプローチで、より生産者の人たちの未来につながるように、現場目線でやっていければなと思っています。これが僕の責任だと思います。
とはいえ、いきなり現場に飛び込んでも、すぐに信頼を得られる訳ではありません。また漁業の課題は千差万別なので、クリエイティブな課題解決が求められます。なので私たちは日本全国の漁港を横断し、少しずつ結果を出しながら信頼関係を築くよう努めています。自分たちの足で歩くことで、海の変化や資源の変化に一番に気づくことができます。行動と成果が目に見える近さで仕事ができることは、この仕事のやりがいの一つだと思っています」
今後はエンドユーザーに直接届けられる商品展開へ
10月にはヒルトン・シーフードレガシーと、サステナブル・シーフードの調達を通じて持続可能性の向上を目指す協働パートナーシップを結んだ。今後は地方行政とも手を組み、地域活性化や地域づくりに繋がるような挑戦もしていくという。また、漁師とシェフのイベントやレストランでのコラボメニューの開発などを通じ、生産者にエンドユーザーの顔が見える仕掛けもしている。中目黒にあるレストラン「Audace(アウダーチェ)」では、ウミトパートナーズが監修したサステナブルシーフードメニューを提供している。
「今の時代はサステナブルやSGDsといった言葉もよく聞かれるようになり、少しずつ流れは来ていると思います。とはいえ生産者さんにどれだけ思いがあっても、全て伝えきることは難しい。そんなストーリーを私たちがシェフやレストランに繋ぎ、お客様に伝えてもらっています。サステナブルメニューを別建てで用意しているお店は多くはないので、わざわざ探してきてくれる人もいますが、メニューを見て初めて知って注文されるお客様も多いそうです。そういう方達に生産者のストーリーを伝えられることは嬉しいですね。
他にもシェフの方と組んで、素材の品質を上げるために、例えば神経じめなどの技術を教えたり、商品開発の話もいくつか進んでいるので、今後は一般消費者の方に直接届けられる機会が増えそうです。楽しみにしていてください」
【取材協力】
村上春二さん
株式会社UMITO Partners 代表取締役社長
https://umitopartners.com/
取材・文 / Kikka
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