
シュローダー「2022年市場見通し:日本株式」
アセットマネジメント企業・シュローダーが「2022年市場見通し:日本株式」を公開した。
前田 建氏
日本株式運用総責任者
内需中心に回復が続くマクロ経済環境
足元では新型コロナウイルスの変異株、オミクロンによる感染再拡大が懸念されているが、2020年10月に緊急事態宣言が解除されて以降、徐々にではあるものの消費の回復が続いている。
80%近いワクチン接種率は世界的にも高水準であり、オミクロンの特性が確認され、さらには飲み薬や治療薬の承認、ブースター接種の日程明確化を経て、感染拡大ペースの鈍化が確認できた頃には社会的に安心感が出ることが期待される。
岸田政権が企図するような賃上げには時間がかかると見られるものの、所得環境は良好であり、コロナ収束となればいわゆるリベンジ消費が消費支出を押し上げると見ている。
2021年後半には主に半導体不足などのサプライチェーン問題によって落ち込んだ自動車生産にも持ち直しの動きが見られており、加えて、電子部品・デバイスや一般機械などでも増産基調となっている。輸出動向も好調で、日本企業が競争力を有する分野では受注の強さが企業決算などでも確認されている。
2021年12月の日銀短観では、堅調な企業センチメントが確認されたことに加えて、設備投資計画も力強い数字を維持しており、生産性向上のためのIT投資などを中心に企業の投資意欲の高さが伺える。
良好な企業業績見通し
2021年度の企業業績は3割程度の増益が見込まれており、上期決算でも好調が確認された。1月下旬から10−12月期の四半期決算が発表されるが、回復基調にあるマクロ環境を受けて良好な内容となるかに注目が集まる。
外需関連、特にテクノロジー関連は増収増益となっている企業が多く、投資家からも高く評価されている。一方で、経済再開の出遅れから内需関連は新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ利益水準に戻るのに時間がかかっている。
内需も含めて全体的に通期予想が上方修正されるようになれば、業績面で株価上昇を支えることが期待できる。
少し気掛かりなのは円安、資源価格高騰、供給不足などに起因するコスト増の影響。これまでのところ価格転嫁に対して消極的だったり、様子見姿勢を続けている企業が散見される。
特に日本企業は長期間デフレ圧力に晒されてきたために、インフレ環境下での適切な経営戦略が身についておらず、戸惑っているのではないかと推察。
ブランド力を背景とした適切な価格転嫁、競争力を毀損しない形での合理化やコスト削減、長期的視点に立った業界再編などによって乗り切れる業界や企業を選好。
適正水準にある株価バリュエーションながら、米国株式市場対比で割安感
2020年には世界的なリスクオンの相場環境の中で日本株式市場も大きく上昇して、利益ベースのバリュエーション指標である市場PER(TOPIX、株価収益率、12か月予想)は18倍まで拡大した。
2021年もTOPIX(配当込み)で10%超のリターンとなったが、企業業績が伸長したことを受けて、足元では市場PERは14 倍を下回る水準にある。中長期的に見て過去平均を若干下回る水準であり、割安感があるとも言える。
一方で、2021年の株価リターンの点で日本株市場はグローバル株式市場、特に米国市場に対して大きく出遅れた。その結果、市場PERが20倍以上と歴史的にも高位にある米国市場と比較して、相対的な割安感は強まっている。
成長力、利益率が高く、株主重視の姿勢が明確な米国企業は魅力的だが、バリュエーションも加味した投資魅力という観点では必ずしも優位とは限らない。
日本経済の成長率や企業の利益率の低さはよく指摘されるところだが、大いに改善の余地がある一方、期待値があまり織り込まれていないところに投資妙味がある。
市場の極端な偏りが解消することによる大きな超過収益機会
2021年の日本株市場の物色動向で顕著だったのが、バリュー株の反転上昇とグロース株の相対的な弱さで、特に前半で大きな動きが見られた。
また業種別に見ると、上位を資源関連、自動車関連、金融などバリュー株の多く含まれる景気敏感セクターが独占した。
これは景気回復を織り込む動きと共に、2020年まで極端にグロース株優位で、グロース株とバリュー株のバリュエーション格差が2000年のIT相場ピーク時を超える水準まで高まったところでの正常化の現われであったと解釈している。
足元でもバリュエーション格差は歴史的高水準にあり、二極化と関連の深い過度な金融緩和政策の修正見通しを踏まえると、短期的な揺り戻しはあってもバリュー株優位の展開となる可能性が高いと考える。
一方で、2021年もパフォーマンス格差が継続したのが企業規模別パフォーマンスで、大型株優位の流れが年後半加速した。
2022年は経済正常化による、内需の回復を受けた利益成長や、極端に悪かった需給バランスの改善などから小型株が見直される局面があると想定している。
東証市場再編をきっかけに加速するコーポレートガバナンス改善とESGへの注目
ここ数年、日本株市場の注目を集めてきた東証の市場区分再編だが、2022年4月に新市場がスタート。東証一部からプライム市場に移行する基準の緩さや最終的にプライム市場の上場企業数が相応に多くなることで批判的な論調もあるが、気候変動に関する情報開示やコーポレートガバナンス体制などの基準は厳しくなっており、日本株市場全体のガバナンス水準が底上げされると期待できる。
2021年から一部の企業では女性取締役の選任によるダイバーシティの推進や持ち合い株の解消、上場子会社の整理などが進むなど、着実にガバナンス改善は進展している。
さらには、資本効率を意識した自社株買いの実施なども裾野が広がっており、株価見直しのドライバーになったケースも見られる。
ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点では、気候変動や環境対応がビジネスに与える影響、ポストコロナにみる従業員マネジメントの巧拙やダイバーシティの推進などが企業価値を考える上でより一層重要になっていく。
これらは、リスクとなるケースもあれば、アップサイド、成長機会となるケースも。ただ、同時にそうした企業のクオリティ面が過度に株価に織り込まれているケースも見受けられるので、注意が必要だ。
だからこそ、ボトムアップのアクティブ運用が有効となると考えており、独自のリサーチやエンゲージメントを通じて、株価に織り込まれていない変化を捉えることが超過収益、高いリターンにつながる。
2022年は良好なファンダメンタルズと割安感のある株価バリュエーションを踏まえると、日本株市場の見通しとしては底堅い展開を想定している。
日本株市場自体が、米国株をはじめとするグローバル株式市場に出遅れているが、経済再開のタイミングの違いなどから相対的に日本株にとって優位な状況が期待できる。
より長期的な見地からは、東証市場再編などをきっかけに、日本株市場全体に改善が進むことで欧米企業にキャッチアップして、日本企業の投資魅力が高まることが重要だ。
関連情報:https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
構成/DIME編集部
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