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「改正プロバイダ責任制限法」施行は誹謗中傷など匿名投稿の抑止力となるか?

2022.01.27

インターネット上での誹謗中傷が大きな批判を巻き起こす中、法的には、匿名投稿者の特定に用いる「発信者情報開示請求」の使い勝手の悪さが問題となっています。

しかし、2022年10月までに施行される予定の改正プロバイダ責任制限法により、発信者情報開示の手続きが簡略化されます。

今回の法改正により、誹謗中傷等の匿名投稿者の特定が、これまでよりも迅速化・円滑化することが期待されています。

今回は、2022年施行予定の改正プロバイダ責任制限法によって新設される、「発信者情報開示命令」の制度概要をまとめました。

1. 発信者情報開示請求とは?

発信者情報開示請求とは、情報の流通によって権利を侵害された者が、発信者に関する情報の開示を請求する手続きです。

「プロバイダ責任制限法※」という法律で認められています。

※正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

特に、インターネット上で行われる匿名の誹謗中傷投稿につき、発信者情報開示請求がよく用いられています。

サイト管理者やインターネット接続業者は、発信者のIPアドレスや個人情報を保有しています。

これらの業者に対して発信者情報開示請求を行うことで、匿名投稿者が誰であるかを突き止め、損害賠償請求等ができるようになるのです。

2. 現行の発信者情報開示請求は、時間とコストがかかり過ぎる

ただし、現行のプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求は、時間とコストがかかり過ぎるのが難点です。

一般的には、発信者情報開示請求により匿名投稿者の素性を突き止め、損害賠償請求を行うためには、以下の流れで手続きを踏む必要があります。

①サイト管理者(コンテンツプロバイダ)に対して発信者情報開示請求を行い、投稿者のIPアドレス等の開示を受ける

→裁判所への仮処分申立て

②IPアドレスから判明したインターネット接続業者(アクセスプロバイダ)に対して発信者情報開示請求を行い、投稿者の個人情報の開示を受ける

→裁判所への仮処分申立て

③投稿者に対して損害賠償請求等を行う

→(示談がまとまらなければ)裁判所への訴訟提起

上記のように、発信者を特定するだけでも2回、損害賠償請求訴訟を含めると、最大3回の裁判手続きを要します。

期間としては、発信者特定(①と②)について6~10か月程度を要し、さらに損害賠償請求訴訟(③)に発展した場合は、トータル1年以上にわたることが多いです。

また、複数回の裁判手続きを要するため、弁護士に依頼すると、多額の弁護士費用が必要になります。

このように、誹謗中傷の投稿者を特定するための発信者情報開示請求は、長期戦を覚悟し、かつ採算度外視でなければできないのが実情です。

3. 2022年施行予定|「発信者情報開示命令」の新制度

発信者情報開示請求に関する上記の問題点を克服するため、2022年10月までに施行される改正プロバイダ責任制限法では、「発信者情報開示命令」の制度が新設されることになりました。

3-1. 2つの発信者情報開示請求を1つの手続きで行う

被害者が「発信者情報開示命令」を申し立てた場合、現状2つの手続きに分けざるを得ないコンテンツプロバイダとアクセスプロバイダへの請求が、実質的に1つの手続きで審理されます。

手続きの中で「提供命令の申立て」が認められれば、投稿者のIPアドレス等に関する情報提供も、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダに対して直接行われるため、被害者にとっては利便性向上が期待できます。

3-2. 非訟事件手続きにより、手続きの迅速化が期待される

発信者情報開示命令事件の大きな特徴は、訴訟や仮処分事件などとは異なり、終局的な権利義務の確定を目的としない「非訟事件」である点です。

非訟事件では、当事者の主張に依存することなく、裁判所が職権で調査を行うことも認められます。

また、作成に時間を要する判決や仮処分命令等ではなく、「決定」という簡略化された形式の処分が行われます。

上記の理由から、非訟事件手続きは裁判官にとっての負担が比較的軽いため、発信者情報開示に関する審理や判断の迅速化に繋がります。

これまで6~10か月程度かかっていた投稿者の特定が、半分程度の期間に短縮されることが期待できるでしょう。

4. まとめ

誹謗中傷の匿名投稿者を特定し、損害賠償請求を行う被害者にとっては、今回のプロバイダ責任制限法改正には大きなメリットがあります。

今後の実務動向次第ではありますが、発信者情報開示命令の制度が、誹謗中傷の投稿に対する抑止力として働くことを期待したいところです。

また、誹謗中傷の投稿による風評被害をいち早く食い止めるためには、早期に投稿を削除させることが大切です。

悪質な投稿については、サイト管理者に対する削除申請や、裁判所に対する投稿削除の仮処分申立てなどを通じて、速やかな削除を求めましょう。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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