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【サステイナブル企業のリアル】「気づいたらアルギン酸はSDGsの優等生だった」キミカ社長・笠原文善さん

2022.01.12

【サステイナブル企業のリアル】

前編はこちら

持続可能な社会発展に貢献する、そんなイノベーションを紹介する「サステイナブルな企業のリアル」。今回は海藻から抽出するアルギン酸という天然素材のお話である。

株式会社キミカ、2020年12月期の売上高は約95憶円。従業員は約180名。代表取締役社長は笠原文善さん(65)。日本で唯一のアルギン酸の専門メーカー。先代の社長で父親が80年前に創業した。アルギン酸の主成分は海の中で揺らぐ昆布やワカメ等の海藻で、コンビニの生野菜を挟んだサンドイッチのパン生地がベトッとしないのも、即席麺のシコシコとした触感も、アルギン酸の持つ保湿力と粘度等による効果だ。製造するアルギン酸のスベックは500種類以上。その用途は食品をはじめ、化粧品、医薬品と幅広い。2020年12月には政府主催の「第4回ジャパンSDGsアワード」で特別賞を受賞している。

中国企業、恐れるに足らず

戦後しばらく、アルギン酸の粘度の需要の大半は、アイスクリームの型崩れを防ぐのに使われた。需要が飛躍的に伸びたのはコンビニの普及だった。サンドイッチのパン生地や麺に微量のアルギン酸を加えると、時間を経ても食感と味が失われない。

合成の保存料と着色料の不使用を宣言したコンビニが、天然由来のアルギン酸を使い、それを商品に表示したことで、大手製パンメーカーや大手食品メーカーも使うようになり、販路は伸びた。アルギン酸は粘度を増すのに用いられる。プリンプリンとプヨプヨのゼリーのように、粘度はアイテムによって異なる。各アイテムに応じてアルギン酸を出荷するうちに、その種類は500種類以上に及んだ。

「中国のメーカーが安いアルギン酸の粉末を売り込んでも、粘度が微妙に合わない。製品のパフォーマンスが違ってくる。他社のものでは置き換えができないんです。価格構造が底なし沼みたいな中国メーカーと勝負したら、勝ち目はありません。うちの製品は中国人が逆立ちしても届かないハイグレードのものに特化しましたから」

他業種の多くが中国企業に凌駕される中、この会社は中国企業を寄せ付けなかった。

海藻天国、乾燥天国、南米チリ

追随を許さなかったのは、創業者で父親の文雄が若い頃に考案した浮上沈降分離法という技術によるところが大きい。ドロドロにした海藻の溶液に、大量の気泡を混入して分離させ、アルギン酸の層を抽出し粉末にするという手法だが、同業他社はろ過機を使い精製していた。

「ろ過機で精製すると、真っ白いアルギン酸の粉末ができますが、電気代とろ過助剤の使用でコストがかさみます。その点、浮上沈降分離法の機械はコストを削減できます」

浮上沈降分離法だと、アルギン酸の粉末がいささか黄ばむ。それを理由に「キミカは技術力が劣っている」といわれた時期もあったが、創業者の文雄は意に介さなかった。

「パン、麺、アイスクリームに粉末を溶かして配合するのに、真っ白である必要はない。技術を磨け、自信をもってお客さんを説得しろ!」創業者はそう社員の背中を押した。結果的に品質と安定供給と低コストで、競合他社に競り勝ち、日本で唯一のアルギン酸専門メーカーとして今日に至った。

――千葉県の君津で創業した80年前、海岸には山のように海藻が漂着していました。

「当初は房総半島の海岸に漂着する海藻を採集していたのですが、しだいに採れなくなって。三陸、北海道、下関、韓国の済州島からも、食用に使われない雑昆布を集めたのですが、海藻の安定供給を目指して、1970年代後半から、主に商社を使って世界中の海藻資源を探索したんです」

――そこで南米のチリに注目をしたのですね。

「チリ産の海藻は品質も良く、資源も豊富で乾燥条件も恵まれている。人件費も安価だしコスト的にも恵まれていると。80年代に入ると資源の海藻のほとんどは、チリからの輸入に頼っていました」

――しかし、チリ沖は海水温が上昇するエルニーニョ現象等の気候変動の影響を受けやすい地域です。

「83年には当時、史上最大級のエルニーニョ現象が発生しまして。商社から“チリの海藻は全滅したそうです”と報告を受け、暗たんとした気分に陥ったこともありました。ところが、半年もすると、再びチリから良質の海藻が入荷しはじめて」

在庫を持つという習慣

いったいどうなっているのだ。当時、先代から社長を引き継いだ文善は、現地に張り付くことを決断。1億5000万円ほど投資して、チリに工場を立ち上げる。現地に張り付いてみるといろんなことがわかってきた。

チリの太平洋岸には、5000㎞ほどに及ぶ海岸が続いている。北の方で海藻が不作でも南に集荷体制を替えれば、良質な海藻が海岸に漂着しているではないか。集荷した海藻は腐敗を防ぐため、時間を置かずに乾燥させる必要があるが、北部に広大なアタカマ砂漠が広がる。砂漠は天然の乾燥庫だ。コストもCO2も削減できる。さらに、社内では文善を中心にこんな話が煮詰まった。

「海藻は海が荒れると山のように漂着します。海が静かだと海藻は海岸に上がらない」「現地の人たちは、在庫を持つという習慣がない。海岸に海藻がたくさんあっても注文がなければだれも拾いません」

「それはもったいないな。よし、集荷を担っている漁師の人たちが持ち込んだ海藻は、必ず買い取ることにしよう。その方が安く買える。現地に倉庫を建設して、乾燥した海藻は備蓄すればいい」

――ちょっと待ってください。倉庫で備蓄をはじめる前は、注文に応じて仕入れていた。海岸に海藻がない時はどうしていたんですか。

「海の中から海藻を刈り取っていました。ところが岩から無理やり根こそぎはぎ取ると、海藻が年単位で生えてこない。寿命を終えて自然に離れる海藻は、次の世代が生えるように胞子を岩に産み付けます。資源を枯渇させないためにも、海岸に漂着した海藻のみを必ず買い取るという形は功を奏しています」

現地で雇用を生み、ファインケミカルを世界へ

「うちが海藻を買い取ることで、チリの漁民の人たちの生活は格段に安定しました」

「現地で雇用を生み、漂着した海藻をシステマチックに集めて、化石燃料を使わず砂漠で天日干しをして。ファインケミカルを世の中に送り出している。これぞSDGsじゃないですか」

若手社員がそんな提案をしたのは、一昨年だった。

「SDGsといっても、うちはボイラーも使っているし……」

「社長、SDGsアワードに応募していいですか」

「そこまで言うならやってみたらいい」

そう応えた文善が首相官邸に呼ばれ、当時の菅義偉首相からSDGs特別賞の賞状を受け取ったのは、2020年12月21日だった。

――アルギン酸の今後を教えてください。

「当然、付加価値の高いものをと思っています。アルギン酸はカルシウムに触れると瞬時にゲル化する。この性格は医療に使えるのではないか。軟骨がすり減って歩くのが辛い高齢者は数多い。すり減った膝の軟骨に注射器で直接、アルギン酸を注入しゲル化させる。製薬会社と組んでそんな臨床試験が進んでいます」

海藻由来のアルギン酸を膝の潤滑油として、直接投与する。サステイナブルなリアル、恐るべしである。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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