そろそろ2021年も残りわずかとなった。今年の体調変化はどうだっただろうか? 世間ではコロナ禍により健康意識が高まっていることもあり、風邪を引きにくくなり、風邪薬の売上が落ちているというデータも。代わりに売上が伸びた薬のジャンルは? クラシエ薬品の漢方薬の販売データから、健康トレンドについて探る。
また、年末年始は胃腸トラブルが起きやすい時期。中医学による食養生方法や漢方薬なども紹介する。
2021年の漢方の売上からみる人々の健康変化
クラシエ薬品が、販売データをもとに、2021年1年間で売上を伸ばしたヒット漢方やコロナ禍における漢方需要の変化、来年に予想される漢方需要などを公表した。そこから人々の健康変化を知ることができる。
●漢方風邪薬の落ち込み
薬局やドラッグストアで販売される一般用漢方薬の市場規模は、2020年度まで継続的な成長が見られたが、今年度は前年度比96.7%(見込)と減少傾向。その要因の一つが、漢方風邪薬の落ち込みである。これは、新型コロナウイルスの予防対策としてマスクの着用、手洗い、手指消毒、うがいなどの習慣が定着したことで、風邪の罹患率が減少したことが影響していると考えられるという。
●漢方薬ではストレス関係が好調
漢方薬市場が落ち込む中、クラシエ薬品の漢方薬ブランド「漢方セラピー」は伸びており、ストレスカテゴリの拡大が全体伸長を牽引しているという。コロナ禍の直近2年は特にその傾向が強いという。
【2021年1-11月売れ筋トップ5】
第1位 半夏厚朴湯(ストレス・のどのつかえ)
第2位 芍薬甘草湯(足のつり)
第3位 五苓散(二日酔い・気象病)
第4位 苓桂朮甘湯(めまい・気象病)
第5位 柴胡加竜骨牡蛎湯(ストレス不眠・イライラ)
2021年1-11月の売れ筋処方の1位はストレスやのどのつかえに効く半夏厚朴湯。5位にはストレス不眠・イライラの柴胡加竜骨牡蛎湯がランクイン。
2位の足のつりに効く芍薬甘草湯は、自粛生活による筋力低下が原因で、需要が増えたのではないかという。
●ウィズ・コロナによる処方動向
ウィズ・コロナにおいては、2020年には「免疫力」関連需要の高まりがみられたが、2021年には落ち着きを見せた。同じく、需要が急拡大したストレス・不眠カテゴリは、やや勢いを落としたが、変化に直面した2020年は「イライラ」優勢であったのに対し、2021年度は「疲れやすい」需要が拡大。 巣ごもり期間中に蓄積した「体力低下」に起因する不調は今後も拡大見込みにあるという。
●2022年の予想
2022年はどうなるか。クラシエ薬品は、疲れ・ストレス・マスクによるトラブルが拡大することを見込んでいる。非日常から日常に戻る過程で生じる不調を中心に需要が拡大するのではないかとみている。長引く引きこもり生活で、運動量の低下によって体力が落ちているかもしれない。
また、マスク習慣の裏で、口呼吸の増加が懸念されている。乾燥からくる口内トラブルも生じる恐れも。
テレワークから出社に戻り、通勤ラッシュや、対面コミュニケーションの活発化で、通勤ストレスや対人ストレスも増加する可能性もある。
漢方薬の売上推移から、人々の健康状態がわかるのはすごい。来年の予想をもとに、個人個人で予防策を取りたいものだ。
年末年始に起きやすい胃腸トラブルの対処法
ところで、年末年始は多忙によるストレスや睡眠不足に加え、忘年会・新年会などもあり、胃腸にも負担がかかりやすい時期でもある。
そこで、年末年始に自宅で行える「胃腸トラブル」に関して、自宅でできる漢方以外の対処法を、クラシエ薬品株式会社 ヘルスケア学術部 係長の矢嶋浩平氏に話を聞いた。
「忘年会に関わらず、年末年始は普段と異なる食事を摂取される機会も増えると思います。年末年始の胃腸疲れには薬はもちろんのこと、食事のコントロールも大切です。 適度な食事生活を心がけ、胃腸の働きを助ける食材を積極的にとってみてはいかがでしょうか」
●胃腸の疲れにおすすめの食材例
・熱をとる食材
チンゲン菜、トマト、豆腐、かぶなど
・胃腸の機能を高める食材
牛肉、さつまいも、イワシ、そら豆など
参考)辰巳洋 (2006). 薬膳素材辞典 源草社
「食養生も漢方薬同様、病の寒熱を見極めて食事で調和を図ることが大切です。炎症が強い、熱感がある、食欲増進が認められるなど熱(機能亢進含む)の症状がみられるようであれば、熱を冷ます食材を積極的にとられることをおすすめします。
食欲がわかない、元気が出ないということであれば、胃腸の働きを高め元気をつける食材をおすすめします。また適度な食事量にとどめていただければと思います」
●胃腸トラブルのタイプに応じた漢方薬
漢方では、胃腸トラブルは病の原因としてストレス、食事の影響、加齢などが挙げられるという。
その原因によって、気(エネルギー)停滞、気(エネルギー)の不足、熱(≒炎症など)の発生、寒(≒痙攣など)の発生などにより、胃腸の「機能亢進」と「機能低下」のタイプに分かれるという。漢方薬は、どちらかのタイプごとに選び分けるといいそうだ。
クラシエの漢方薬でいえば、機能亢進の場合には「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」、機能低下の場合は「六君子湯(りっくんしんとう)」といった具合だ。
自分のタイプを見極めて選ぶとよい。もし見極めが難しい場合には、薬剤師や医師に相談しよう。
「疲労回復」のための食養生
年末年始休みには、たまった疲労を回復したい時期でもある。中医学では、「疲労」についてはどんな養生方法があるのだろうか。矢嶋氏は次のように話す。
「疲労の原因も、中医学ではストレスから起こるもの、加齢により起こるもの、過労・虚弱体質から起こるものなど、様々なものが考えられます。それぞれ漢方薬での治療方法もありますが、食養生では次の食材をおすすめします」
・ストレスによる疲れ
柑橘類や香りのよい野菜:セロリ、春菊、パクチーなど
・加齢による疲れ
クルミ・エビ・クコの実など
・過労・虚弱体質による疲れ
米・鶏肉・牛肉・南瓜など
「また、ストレスをため込まず、十分な休息をお取りください」
冬に低下しがちな「腎」機能低下
その他にも、冬には体調にトラブルが生じやすい臓器がある。
運龍堂によると、冬は五臓の「腎」の機能が低下しやすい季節だという。五臓の「腎」には、尿を作る「腎臓」の機能と、ホルモンと関係が深い「副腎」の機能が含まれているため、「腎」の働きが乱れると、水分代謝が低下し、むくみや冷え、膀胱炎、下痢などが起きやすくなるそうだ。さらに、ホルモンバランスが崩れて、疲労やストレス、老化なども起きやすくなる。
この「腎」の働きを助けることが、冬の養生につながるそうだ。
●「腎」の養生におすすめの食材
黒豆、わかめ、ひじきなどの“黒い食べ物”
和漢素材としては、地黄(じおう)、鹿の角、亀の甲羅などを使用するという。
また、体を温めることも非常に重要で、蒸した生姜がおすすめだという。蒸さない、そのままの生姜は発汗作用があり、温めた後に体を冷やしてしまうので注意。一方で、蒸した生姜は内臓を温める働きがある。このように効能が変わるため、夏にはそのままの生姜、冬には蒸した生姜がおすすめだそうだ。
●「腎」におすすめの漢方薬
「龍仙亀鹿参(りゅうせんきろくさん)」
和漢食材「鹿の角」と「亀の甲羅」を配合した「亀鹿二仙」をベースに強靭な和漢素材やハーブをバランスよく10種類配合。精力的な毎日を目指す方の健康維持をサポートする。「鹿の角」は冬の養生にも優れており、若々しくいたい人向けに、エイジング対策としてもいいそうだ。
今年の年末年始も、コロナ禍の最中で過ごすことになる。ストレスをはじめ、胃腸などの不調を感じているなら、今回紹介された方法をヒントに、養生に役立てよう。
取材・文/石原亜香利