
2021年のDIMEトレンド大賞でIT・ビジネス部門賞に選出された「NFT」。簡単にコピーできてしまうデジタル作品を、ブロックチェーンのしくみを使って保証することで、作品を唯一無二のものにし、クリエイターの権利を守る。と同時にクリエイターとファンをつなぐ新たなマーケットとしても注目されていて、今取引量が急速に延びている。2021年にはアドビもNFTへの対応を強化。「Adobe Photoshop」にコンテンツ認証情報を付加できる機能を追加したほか、多くのクリエイターがポートフォリオを公開している、アドビが運営する世界最大級のクリエイティブコミュニティ「Behance」でもNFTをサポートしている。
対応強化の背景や、NFTがクリエイターにもたらすメリットについて、アドビのデザイン コミュニティ リレーションシップ マネージャーの川西亮太さんと、NFT作品も手がけるコラージュアーティスト・アートディレクターのカズシ フジイさんに聞いた。
――NFTの話に行く前に、「Behance」について伺います。2021年10月に行われたイベント「Adobe MAX 2021」では、2020年の1年間で1億6000万人以上がを訪れ、22億5000万回以上作品が閲覧されたとも紹介されていましたが、どのような場なのでしょうか?
川西亮太(以下、川西):多くのクリエイターが参加するソーシャルプラットフォームであると同時に、デザインに関わっている人や、クリエイターに仕事を依頼したい企業の担当者などが見に来る場でもあります。これまでに手がけた仕事とか、作品を載せられるので、自分の作品集だったりポートフォリオを、日本国内だけでなく世界に向けて公開できる。思いも寄らないところから声がかかる可能性もあって、Behanceで公開していた写真がアーティストの目に止まって、アルバムのジャケットに採用されたなんていう例も、実際にいろいろとあります。
アドビ デザイン コミュニティ リレーションシップ マネージャーの川西亮太さん
カズシ フジイ(以下、フジイ):情報を発信できる場所はほかにもありますが、Behanceはクリエイティブに特化しているという点で特別です。たとえばTwitterやInstagramなどはクリエイティブだけでなく、いろんなものが発信される場所なので、そこから見つけてもらうためには、情報を掻き分けてもらわないといけない。一方のBehanceは、クリエイターを探すことに特化している分、作品や自分の活動に目に留めてもらいやすいというのがポイントかなと思います。
コラージュアーティスト、アートディレクターのカズシ フジイさん
ポートフォリオからNFTのマーケットにダイレクトにアクセス可能に
――そのBehanceに、2021年には有料サブスクリプションとNFTの機能が追加されました。この機能の追加はどのような狙いで行われたのでしょうか?
川西:僕は「Adobe Creative Residency」という、クリエイターのキャリア支援のための取り組みを担当しています。アドビでは今、「Community Fund」というファンドを作って、クリエイターさんにお仕事をお願いしたり、クリエイティブ活動を継続してもらうための支援をさせていただいています。実際に成果物を作ってもらって、それを自身のポートフォリオとして公開してもらうことで、アドビをステップにキャリアアップしていただくための取り組みです。やはりキャリア支援のためにBehanceにも、有料コンテンツを月額課金のサブスクリプションとして提供できるしくみを導入しました。いくらにするか、何を提供するかはクリエイターさん自身が決められるのですが、ファンとクリエイターが直接つながることで、継続して活動ができるしくみです。加えて自身のNFT作品を一覧表示できるなど、BehanceのプロフィールにNFTを入れられるようにしました。Behanceのアカウントに仮想通貨ウォレットを紐付けるだけで、NFT作品が追加されて購入するところに飛べるようになっています。
――フジイさんはクリエイターとして、NFTをどのように捉えていますか?
フジイ:NFTによって自分の作品をマーケットに出せるのは、大きなことだと思います。ただし、そこにはそこのブームというものもあって、自分の好きなものを作って出せば、うまくいくというわけではない難しさはありますね。試行錯誤をする必要があるというか。
――それは、マーケットで人気のNFT作品の傾向のようなものがあるということでしょうか?
フジイ:そうですね。プラットフォームによっても違ってくるんですが、たとえば今一番注目が集まっている「OpenSea」というプラットフォームでは、思わず集めたくなるような、コレクションしたくなる作品がブームになっています。一つのデザインから派生して複数のパターンがあるといったような、コレクション魂をくすぐる作品が人気を集めています。
――BehanceにNFT作品を表示できるようになったことを、どのように感じていますか?
フジイ:日本ではまだNFTが広く一般にまでは浸透していないですが、アメリカではすでにかなり浸透しています。Behanceは海外の方からも反応が来る場所なので、そこでNFTを見てもらえることは、なかなか踏み込めない市場へも踏み込みやすくなるというメリットがあります。同時にアドビという有名なブランドがNFTに注力していることも、強いメッセージになると思います。日本全体で認知や利用の底上げがされることに期待しています。
――海外ではすでにNFTのマーケットが大きく広がっているのでしょうか?
川西:そうですね、海外ではもう、その次の新しい方向に向かっています。単にNFTを売買するだけでなく、作品を買った人同士がコミュニケーションツールの「Discord」でつながって、新たなコミュニティを作っています。作品を購入するとそこに仲間入りができるという側面もあり、コミュニティの輪に入りたいから、作品を買うという動きもあります。またコミュニティでは、クリエイターとファンの間で、次にどういう作品を作ったらいいかといった話も活発にされています。作品を売って終わりではなく、そのあとも買ってくれた人とコミュニケーションをしたり、コミュニティが盛り上がっているところが、NFTのおもしろいところですね。
さらにプラスしてメタバースという要素が入っときたり、たとえばこのクリエイターのNFTを買った人だけが入れる世界を作りました……みたいなことも、もうすでに進んでいます。
フジイ:日本でも「Discord」をやっている人は増えていて、まだメンバーが少ないから逆にコミュニティの結束力も強かったりします。みんなで盛り上げよう、みたいな機運も感じますね。クリエイターと作品を買ったファンが、お互いにウィンウィンの関係になれる仕組みを作っていこうとしています。
「Behance」のカズシ フジイさんのポートフォリオ。NFT作品も一覧できる。
Adobe Photoshopで制作者情報が埋め込めるようになり、作品の価値が高まる
――アーティストとして今後、NFTに期待することはありますか?売れれば作品の価値が高まるということはあると思いますが、キャリアへの影響はどうでしょうか?
フジイ:1個1個の作品を売るだけでなく、大きなムーブメントを起こすことも可能な世界。もし本当にムーブメントを起こせれば、クリエイターとしてはかなり高い位置までステップアップできると思います。実際に知り合いのクリエイターの中には、NFTで大きくステップアップした人もいます。
川西:ムーブメントって1人で作っていた作品に協力者を得るというか、賛同者がどんどん増えていくみたいな感じかもしれませんね。
フジイ:売ったものをさらに誰かが買ったり売ったりして、作品が回っていくんですけど、回れば回るほど高い値段がついて、高くなるとそのクリエイターの作品はもうその価格帯なのだという認識になって、また価格が上がっていく。実際にアメリカで売れている人はもう、1作品が1億とか2億というレベルになっています。クリエイターとしては本当に夢がある世界ではありますよね。
川西:ファンの人達が自分が買った作品の価値を上げようとして、いろいろと宣伝してくれたりとか、そういったところのパワーを使えるというところが、NFTをすごいとこなんじゃないかと思います。
フジイ:そうですね、持っている作品の価値があがることは、自分の資産価値が上がるのと一緒のことなので、宣伝もしてくれるし、応援もしてくれます。有り難いです。
――お話を伺ってると、コミュニティの力が大きく、押し上げられるスピードも早いという印象を受けますね。
フジイ:そうですね。ファンの人が押し上げてくれるというのもありますし、日本はまだ数えるほどしかない事例ですが、たとえば有名な方が買ってくれるというケースもあります。それだけで価値がぐっとと上がります。
川西:しかもちゃんと記録に残りますからね。この人が買ってるっていうのが証明されるわけですから。
フジイ:その辺の可能性も、無限にあると思います。
――2021年はBehanceだけでなく、Adobe PhotoshopもNFTに対応しました。NFTのマーケットに作品を出す際に、制作者情報を埋め込んで表示できるようになりましたが、このことは今後作品にどのような影響を与えますか?
フジイ:単純に作品の価値が上がると思っています。来歴を調べればわかるとはいえ、コピーされてしまうと、今は本物か偽物かパッと見では判断できません。その証明がAdobe Photoshopでできるのは大きいです。作品の価値をわかりやすく証明できると思います。
川西:このクリエイターがこの素材をもとに、こういう編集をして作ったというのが見える化されるようになれば、クリエイターのすごさもわかると思うし、作品の価値ももっと高まっていくと思います。
――最後に2022年に向けて、NFTのマーケットに期待することを教えてください。
フジイ:今は作品を買う人よりもクリエイターの方が多く、アンバランスな状況ですが、、マーケットに多くの人が入ってくることで、そうしたバランスが良くなって買う人も売る人もみんなが楽しめるという形になればいいなと思います。
川西:NFTも含め、日本のクリエイターにはBehanceを活用してもらって、もっとグローバルにアピールしてほしいですね。将来に向けてキャリアパスを描けるように、引き続きサポートしていきたいと思っています。
取材・文/太田百合子
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