
『ポジティブフィードバック』は、相手のやる気を削がずに成長を促進する人材育成術として、近年注目を集めています。ポジティブフィードバックの特徴やメリット・デメリットをはじめ、効果的な実践方法も併せて紹介します。
ポジティブフィードバックとは?
『ポジティブフィードバック』という言葉をご存知でしょうか?人材育成に携わる立場にあるのであれば、知っておいて損はない言葉です。まずは、ポジティブフィードバックの意味と定義について解説しましょう。
前向きな言葉で評価を伝える方法
『ポジティブフィードバック』とは、評価者が被評価者に対して、前向きな言葉で評価を伝えるフィードバック方法です。主に人材育成に関連する人事用語として用いられています。
ポジティブフィードバックを行う際、評価者は被評価者の長所や得意分野など、何かしらプラスに評価できる点を見つける必要があります。
できなかったことではなく、できたことをピックアップしてフィードバックすることで、被評価者に自信をつけさせ、さらなるモチベーションを引き出すことが目的です。いわゆる『褒めて伸ばす』方式の人材育成術の一つといえるでしょう。
ネガティブフィードバックとの違い
『ネガティブフィードバック』とは、ポジティブフィードバックの対になる評価方法です。ネガティブと名付けられている通り、被評価者の行動の中に見出される課題点を指摘します。
相手にとって耳が痛くなるネガティブな情報をあえて伝えることで、改善のための取り組みを促す方式のフィードバックです。
相手の成長をバックアップするための評価方法という点においては、ポジティブフィードバックもネガティブフィードバックも変わりません。2者間の相違点は、評価を伝える際にポジティブな言葉(褒め言葉)を用いるか、ネガティブな言葉(課題点の指摘)を用いるかの1点にあるといえます。
ポジティブフィードバックのメリット

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ポジティブフィードバックが人材育成術として高い評価を受けている背景には、きちんとした理由があります。ポジティブフィードバックが有する、さまざまなメリットについて解説しましょう。
モチベーションを高められる
上司から自分の努力を認められ、仕事の成果をポジティブに評価されれば、どんな部下も喜びを感じるものでしょう。
他者からの好意的なまなざしを実感し、「頑張っているところをちゃんと見てくれている」と安心感を得ることは、仕事に対するモチベーションの向上につながります。自分に目をかけてくれる人の期待には、可能な限り応えたいと思うのが人情でしょう。
人は多かれ少なかれ、他者からの承認を求めて生きています。ポジティブフィードバックを用いて部下の承認欲求を満たすことで、もう一段階レベルの高い承認を求める気持ちを刺激することができるでしょう。
自己効力感を高められる
相手の良い面や優れた面、順調に成果が出ている事柄を積極的に伝えるポジティブフィードバックは、部下の自己効力感を高めるのにぴったりの方法といえるでしょう。
自己効力感とは、端的に言えば、自分に対する信頼感です。「自分にはできる」という自己肯定的な感覚を指しており、自信や自尊心とも言い換えられるでしょう。
部下を『自分で考えて行動できる人間』に育てるためには、この自己効力感を養わせる必要があります。自分で自分の能力を信じられない人間は、失敗を恐れるあまり新しい挑戦に踏み出せなかったり、「どうせ身に付かない」と自棄になって努力を継続できなかったりするためです。
ポジティブフィードバックを通して相手に達成感を与えることで、主体性のある人材を育てられるでしょう。
上司・部下の関係が良くなる
ポジティブフィードバックを行うためには、部下の行動をよく観察し、前向きに評価できる点を事前に洗い出しておかなければなりません。
必然的に、上司から部下へ声をかける頻度が高まり、双方のコミュニケーションが密になるでしょう。お互いをよく知り合うきっかけとなり、健全な信頼関係を構築する助けとなります。
実際に肯定的な評価を受けることで、部下から上司への印象はさらに良くなるでしょう。このようにポジティブフィードバックには、上司・部下間の関係を良好に保つ効果も期待できます。
信頼の置ける上司の下であれば、業務における部下のパフォーマンスもより向上するでしょう。
経営戦略を立てやすくなる
ポジティブフィードバックが習慣化すれば、上司は常に自分の部下1人1人の長所を把握している状態になるでしょう。
各社員の強みが明らかになることで、全社的に最適な人員配置がしやすくなります。各社員の向き不向きを詳らかにして適材適所を可能にするというのも、ポジティブフィードバックが有する効果の一つでしょう。
また、自分の努力や成果がきちんと評価されているという実感は、社員の会社満足度の向上にも直結します。社員の定着度が上がり、長期的な経営戦略を立てやすくなるというメリットもあるでしょう。
ポジティブフィードバックのデメリット

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数多くのメリットを有するポジティブフィードバックですが、デメリットが存在しないわけではありません。使い方を誤れば、逆効果を生んでしまう可能性もあるでしょう。
成長を止めてしまう恐れ
ポジティブフィードバックばかりに偏ってしまうと、部下が現状に満足し、次のステップに向けた努力を放棄してしまう可能性があるでしょう。
部下本人が気付いていない課題点があるのであれば、上司として自覚を促し、改善と成長を支援する責任があります。そのためには、必要に応じてネガティブフィードバックを行う必要もあるでしょう。
誹謗中傷や人格否定と受け取られかねない言い回しさえ避けるようにすれば、ネガティブフィードバックを行うことは、決して悪ではありません。特に反骨精神の強い部下には、ハングリー精神を引き出す手段として有効に働くでしょう。
ポジティブフィードバックの実践方法

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ポジティブフィードバックの、具体的な実践方法を紹介しましょう。ポジティブフィードバックを行う際に、注意するべきポイントも併せて解説します。
フィードバックは早いタイミングで行う
フィードバックの実施は、迅速であればあるほど良いでしょう。評価対象となる事象の発生後、できる限り時間を置かずに行うことをおすすめします。
何カ月も前の出来事についてフィードバックをしたところで、その出来事の記憶そのものが部下本人の頭から消えている可能性も高いでしょう。かろうじて覚えていたとしても、自分事として受け止めるためのリアル感が薄らいでしまいます。
「なぜ今さらそんな昔の話を持ち出すのか?」「何か裏があるのではないか?」と、部下からの不信感を招く結果にもつながりかねません。フィードバックの内容自体の信ぴょう性も低くなってしまうため、フィードバックを寝かせすぎてタイミングを失ってしまわないよう気を付けましょう。
フィードバックの内容は具体的に
コメント内容が曖昧すぎるフィードバックは、被評価者に対する説得力に欠けます。より詳細で具体的なフィードバックの方が、部下の心に響きやすいでしょう。
例えば、会議の場における部下の行動についてフィードバックする際、「昨日の会議良かったよ」と告げるだけでは、部下としては得られるものが何もありません。
「昨日の会議での発言は良かったよ。プロジェクトの現状をよく理解できているね」「資料も数値データが豊富で分かりやすかったよ」など、『どこがどう良かったのか』をつぶさに伝えることで初めて、相手の次の機会に生かせる有意義なフィードバックとなるでしょう。
未来に向けたフォローで締める
フィードバックは基本的に、相手のこれまでの働きに対する評価を伝えるものです。そこにより発展的な効果を持たせるためには、「今後はどのような働きを期待しているか」というフォローも付け加えるとよいでしょう。
上司として部下に期待することや、会社が求めている社員像を具体的に伝えて、相手がこれから進むべき道を明確に示してあげることをおすすめします。
過去に対する評価のみで終わらず、未来に対する展望を語ることで、部下が現状に満足して前進を止めてしまうのを防ぐことができるでしょう。
フィードバックの効果を高めるには

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ただやみくもに相手を褒めるだけでは、ポジティブフィードバックの真価は発揮されません。ポジティブフィードバックの効果を高めるために、心掛けるべきポイントを紹介しましょう。
まずは信頼関係を築く
どれほど工夫を凝らしたフィードバックを用意したところで、相手の心に響かなければ意味がありません。
部下との心の距離が遠すぎると、前向きな評価を伝えても「誰にでも同じように言っているのでは?」「この人の言葉を信じてよいのだろうか?」と疑われる可能性があるでしょう。
そのため、日頃から部下とよくコミュニケーションを取り、気軽に話し合える関係性を築いておくことが大切です。あらかじめ部下からの信頼を得ておけば、フィードバックの内容も素直に受け入れてもらえるでしょう。
評価は客観的にできるよう努める
人は誰しも、ポジティブな評価を受ければうれしく感じるものです。しかし、コメントの内容に評価者の主観が入りすぎていると、フィードバックとして成り立たなくなってしまうでしょう。
根拠が薄弱なポジティブフィードバックは、「お世辞を言われているだけなのでは?」「本当に自分にそれほどの能力があるのだろうか?」と、被評価者を疑心暗鬼に陥らせてしまいます。
成長意欲の高い将来有望な部下ほど、今後に生かすことのできる有意義なコメントを求めているでしょう。フィードバックを行う際は、『なぜそのように評価したのか』という根拠を交えて伝えることが大切です。
褒めるだけではフィードバックではない
ポジティブフィードバックは『褒めて伸ばす』評価方法ですが、褒めるという行為自体を目的化してはいけません。
ポジティブフィードバックの目的は、相手の良いところや優れたところを伝えることで、被評価者のさらなる成長に向けた努力の推進力とすることです。単に相手を快くさせるのみで終わってしまっては、意味がありません。
やみくもに褒めるのではなく、被評価者である部下にこれから進んでいってほしい道筋を、明確に意識しながらコメントする必要があります。
「君の強みは〇〇〇だから、今後は□□□の面でも活躍して、さらに会社に貢献できる人材になってほしいんだ」といったように、分析的かつ発展的なフィードバックを心掛けましょう。
構成/編集部