いま、中高生のSNS(ソーシャル ネットワーキング サービス)利用により、ネットいじめや誘い出し、個人情報公開リスクなどが問題視されている。子を持つ親として、今後の子どものSNS利用をどのように進めるべきかを考える必要もある。
そこで今回は、そのヒントとするべく、あるマンガ教材を紹介する。
中高生向けのマンガ教材を制作
2021年11月6日、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下、JST) 社会技術研究開発センター(以下、RISTEX)が、全国の中高生を交えたオンラインイベントを実施した。
それはJSTが、科学と社会をつなぐことを目的に開催している「サイエンスアゴラ2021」というイベントの一環「マンガで話す みんなのリアル―中高生SNS編―」。
RISTEXが支援する研究開発プロジェクト「未成年者のネットリスクを軽減する社会システムの構築」で作成したマンガ教材を用いて、SNS利用について中高生のリアルな意見をオンライン投票で聞きながら、インターネット上での人間関係やSNSの使い方、「つくりたい未来」について、研究者や専門家を交えた討議が行われた。
この研究開発プロジェクトのうち、教材や教育法を開発するグループが「実効的なネットリスク教育法の開発」を行った。その一つが、中学生のSNSの利用を取り扱ったマンガ教材「ほんとうのこと」である。
マンガ教材「ほんとうのこと」のあらすじ
ここで、本イベントで取り扱われたマンガ教材「ほんとうのこと」のあらすじを紹介する。
原作:RISTEX プロジェクト
「未成年者のネットリスクを軽減する社会システムの構築」
教育グループ/作・画:浅川りか
登場人物は主に3人。中学校の吹奏楽部のメンバー間における話だ。
吹奏楽部の部長「さとみ」は、日頃から部員の「しおり」の遅刻の多さや演奏中の失敗にやきもきしている。しおりはいわゆる“ヤングケアラー”で、忙しい両親にかわって小学生の妹の面倒をみている。部活に頻繁に遅刻するのも家のことや妹の世話をしているせいだ。しかし、その事実を知っているのは、「りこ」という同じく吹奏楽部の友人だけである。物語は、りこの目線から、部長さとみとヤングケアラーしおりをめぐって進んでいく。
吹奏楽部がコンクールの県大会に進めなかった、その日の夜、責任を感じたさとみは、悩みの種であったしおりのことを話し合うべく、しおり以外の部員全員をLINEのグループに招待した。はじめは真面目な相談ムードでしおりへの批判も出てきたが、ある部員が飼い猫の写真を唐突に投稿したのがきっかけで、楽しい語り場としてグループが続いてしまった。
りこは、しおりには事情があることをグループチャットで皆に伝えたかったが、SNSに個人情報を流すのはよくないと学校で習ったのを思い出し、何も書かなかった。
しかしながら、その後、どういうわけか、しおりにそのグループLINEの存在がバレたようだった。その証拠として、しおりが自身のInstagramのページに、グループチャットのスクリーンショットを投稿していたのだ。
これを機会に互いの関係が崩れ、やがてさとみも、しおりも学校や部活を欠席するようになってしまった。
「なんで…こうなっちゃったの…?」そう、りこによる疑問を呈したまま、物語は終わる。
マンガ教材を通じて中高生に提供したい学びとは
このマンガ教材は、中高生がSNSについてどのような学びをしてほしいと考え、制作されたのか。
本研究開発プロジェクトの教材や教育法を開発するグループに属する関東学院大学 人間共生学部 コミュニケーション学科 准教授の折田明子氏は次のように話す。
【取材協力】
折田明子氏
関東学院大学人間共生学部コミュニケーション学科准教授。博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。専門は情報社会学。ネット上のプライバシーの観点から、青少年のネットリスク問題や、SNSと死後のデータの扱いをテーマとした研究に取り組む。
https://www.ako-lab.net/
「このマンガ教材では、ネットと対面を含めた人間関係のむずかしさを扱いました。このマンガでは、まず主人公(りこ)をバイスタンダー(傍観者)に設定しました。多くの中高生が、この立場に当てはまると思います。また、特定のキャラクターをいじめの被害者・加害者として固定することなく、状況によって立場が入れ替わってしまうストーリーにしています。はっきりと悪意でやったことでなくとも、相手を傷つけてしまう可能性があることや、バイスタンダーには何ができるのかといったことを考えてほしいと思いました。
このマンガでは、部長のさとみが、コンクールで県大会に行けなかった夜、相談としてグループLINEの招待を送ります。また、ヤングケアラーであるしおりは、Instagramに食事の写真を載せていました。自分が作った夕食なのか、めったにない家族の外食なのか、どちらにも取れる絵になっています。そのInstagramに、自分が仲間はずれになったスクリーンショットを貼ってしまう訳ですが…。
それぞれ、SNSを介して助けを求めたり、心の安定を得たりしようとしていて、それが少しずつずれてしまうことが問題になってしまうのです」
「このマンガ教材を使用して授業を行う際には教員側が、一つの見方や正解を示すのではなく、シーンを見て生徒たちから出てくる発想、コメント、考えを浮かび上がらせ、それをクラスで共有していただければと考えています。大人が『子どもはこう考えているのか』と気づくきっかけになればということです。
今回のイベントでのセッションをはじめ、高校生を対象として行った授業でも『さとみはなぜグループLINEを作ったのか?』を聞くと、『つらかった』『愚痴りたかった』『困っていたので相談したかった』『「相談と見せかけて悪口を言いたかった』など、いろいろな見方がでてきます。こうした子どもたちの見方を浮かび上がらせることで、大人としても気づかされました」
オンラインイベントに参加した中学生の感想
オンラインイベントでは、参加した中高生たちが、オンライン投票で意見を投稿し合った。教材のねらいの通り、さまざまな立場からの意見が飛び交った。答えは一つではないことがわかる。
このオンラインイベントに参加した中学生の女子2名に、感想や思いを聞いた。
――今回紹介されたマンガ教材は、これまでネットリスクに関する授業を受けてきた中で、どのような違いを感じましたか?
S.C.さん「これまでの教材では、チャットならではの言葉使いによる誤解からくるトラブルのみの教材でしたが、今回は、さまざまな問題があったことが、今までの教材と違うと感じました」
S.S.さん「話に偏りがあまり感じられませんでした。誰か1人の視点の話だと偏りがありがちですが、それがなくリアルな話でした。実際、まったく同じ状況ではなくても、2人の間に入っちゃって困ったなど、何かしら経験があり、考えやすかったです」
――このマンガ教材にあるような、グループチャットにおけるトラブルの経験はありますか?
S.C.さん「私はそのような経験はありません。さとみさんは最初は部長としての責任感があって、しおりさんも一部員だから、皆としおりさんについて考えたい、相談したいということでグループチャットを立ち上げていました。ですが、相談が悪口になってしまっているのに気づくことができませんでした。これは普通に、チャットを使っていなくても、起こることだと思います」
S.S.さん「トラブルというのはありませんが、グループチャットで得意なタイプじゃないなぁとか、相手が多分自分のことが得意じゃないんだろうなぁというのを感じることはあります。
得意なタイプじゃないなという子とは、トラブルにならないようにと気をつけたりもしますが、得意なタイプじゃないなと思っている子が集まってしまうと、そう思う人が増えてしまった場合、トラブルになりかねないと思っています。なるべく自然になるように、普段から気にかけることも多々あります」
――マンガ教材と本イベントを受けて、今後、SNSを使用するときに、どのように心がけようと思いましたか?
S.C.さん「私はこの話し合いに参加して、SNSを使用するときは特に今、自分は何を考えたかったのかを忘れないように使用することが大切だと感じました。
さとみさんは、最初グループチャットを『相談』という形で使おうとしていました。ですが人数が増えるとともにだんだん悪口を言うだけの場になってしまいました。もしさとみさんが『なぜこのグループチャットを立ち上げたのか』をずっと考えていれば、相談の場として使えていたと思います。
またさとみさんだけではなく、しおりさんの事情を知っていた、りこさんの立場としても、『先生に相談してみよう』などの解決策のほうに話を変えることも必要なことだと思います」
S.S.さん「何か大切な相談があるとき、個人情報について話をするときは、なるべく直接したいと思いました。文章に残っていたほうが忘れてしまっても確認ができますが、『残っている=他のことに使いやすい』というのもあると思います。
紙にメモして忘れない、なくさないところに入れておくなどSNSに残すのではなく個別管理をしたほうがいいと思います。
SNSはあくまで使い方を守れば便利というものですので、情報については気をつけるべきです。それにアプリによって用途が違うので、使い方を間違えれば簡単に犯罪になってしまうので、軽い内容、ちょっとした話など、限度を考えてSNSと付き合っていきたいです」
このマンガ教材を通じて、中高生はさまざまな思いを抱き、今後、思い思いにSNSに向き合っていこうとしているようだった。
親は子どものSNS利用にどう声がけすべきか
ところで、子を持つ親として、子どものネットリスクを防ぐためにも、どのような関わりをすべきか。ポイントとなることを折田氏にアドバイスしてもらった。
「親として、『子どもはネットのことをわかってない』と思っていないでしょうか? 特にネットの怖さをわかっていないと不安に感じているでしょう。けれど、それは子どもも同じ。子どもの側も親に対して同じように『親はネットのことをわかってない』と思っているかもしれません。
今や、デジタルネイティブ第一世代が親世代になりました。メール、ブログ、プロフィールサイト、mixiやGREE、携帯メールなど様々なサービスを使い、ネットの便利さもリスクも肌で感じてきた世代が親になったわけです。一方で、子どもも生まれたときからネットがあるのが当たり前。ネットと対面をシームレスに使いこなし、新しいサービスをどんどん取り入れます。
こうした中、親がネットの利用を一方的に禁止したりすると、子どもは親に隠れて使ったり、トラブルがあったときに子どもから親に相談しづらくなってしまう可能性があります。
そこで一方的にではなく、互いに話せる機会を持つようにしてはいかがでしょうか。例えば新しいサービスの使い方を親が子どもに聞いてみる。そこから、危なそうだということがあれば気づけることもあるでしょう。また、使い方のルールを一緒に作ったりするなどもいいと思います。その際、子どもにも子どもたちのルールがあるので、実効的で守れるルールを決めることが大切です」
ネットやSNS利用のリスクは親も子もともにある。子どもは大人よりもリスクに気づきにくいことから、大人がうまく先導する必要はあるが、常に互いに話し合うというスタンスで、「多様性」やいろんな立場から理解をしながら、利用していくことが大切であるようだ。
【参考】
「マンガで話す みんなのリアル―中高生SNS編」
https://www.jst.go.jp/ristex/pp/information/000101.html
記事内で紹介しているマンガは期間限定で以下からダウンロード可能。
パスワード「agora1106」
https://primedrive.jst.go.jp/v2/access?key=XWlAco3UqJja7hq-ebjBxQ
取材・文/石原亜香利