
気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第5回は、アクセサリーブランド「nezu」デザイナーの三島友加里さん。幼少期の多くの時間をものづくりに費やしたという彼女が目指す次のステージとは。
学校には行かず、ものづくりをして過ごした6年間
「私実は、小学校3年から中学3年まで、学校に通ってないんです。学校に行かず、ずっと自宅でものづくりをしていました。ただ家にいるだけではその時間がゼロになってしまうので、お菓子でも洋服でも、なんでもいいので一日ひとつ、ものをつくっていました。学校に通わなかったので今でも基本的な勉強はあまりできません(笑)。だけどデザインすることが好きだという気持ちだけはあったので、それに支えられてきました」(三島さん)
6年間ものづくりに明け暮れた三島さんは、洋服のデザイナーを志すようになる。服飾の専門学校を卒業後は故郷・岐阜県を離れ、東京に本社を構えるアパレル企業に就職をした。
「カバンやネックレスなどの小物部門に配属され、デザイナーのアシスタントをやっていました。大まかなイメージをもとに素材を集めたり、在庫の確認をしたり、とにかく業務の幅が広くて。デザイナーを支える仕事なので、デザイナーの思考を先読みして動くことが必要とされました。6年半小物部門のアシスタントとして下積みをし、7年目にアシスタントデザイナーを経て、ようやく洋服のデザイナーになれました。ただ、いざデザイナーになっても人が足りずに、引き続き生産管理的な仕事を任されることも多くて。自分のことを信頼していないので、間違えないよう注意深く仕事をしていたのでミスが少なかっただけで、生産管理に向いているわけではないんです」
いわば天命とも言えるものづくりに専念したいと思いから、三島さんは8年勤めた会社を退職。幼少期からの夢である洋服のデザイナーとしてスタートを切るかと思えたが、そうではなかった。
「洋服のデザイナーになることも考えたのですが、洋服は一人で立ち上げるにはハードルが高く、いろんな人の手を借りないと成り立たないことも前職で知っていました。やるなら中途半端なものは作りたくないと思って。アクセサリーであれは、自分の経験を活かしつつ、新しいことにも挑戦できるのではないかと、アクセサリーデザイナーとして自身のブランド“nezu”を立ち上げました」
ブランド誕生から7年、コスメラインが登場
nezuを立ち上げて最初に発表した作品は、ウールを使った手織りのシリーズだった。三島さんが慣れ親しんだ尾州は手織物の産地であり、小さい頃から親しみがあったという。
「ブランド立ち上げ当初から『手触り』を大事にしていたので、ウールはぴったりの素材だと考えました。前職で洋服のデザイナーをしていた頃から今に至るまで、手触りや質感がとても大切にしています」
nezuとして初めて出展した展示会では、約20件のオーダーを受けた。メーカーやバイヤーなどもnezuのユニークなコンセプトや作品に興味を持ち、200人以上と商談や情報交換をした。成功に終わり、ブランドとして走り出す自信がついた。
それから7年。nezuはブランドとしての過渡期を迎えている。少しずつ認知度は上がってきた一方で新しいブランドとしての新鮮度が減っていると感じている。そこで、nezuの新しいチャレンジとして誕生したのがコスメラインだ。アクセサリーと合わせて使うことで、顔全体をコーディネートするというものだ。本来なら参入しにくいコスメの世界だが、nezuの世界観に興味を持ってくれたメーカーの協力で一年ほどで形になった。
作品づくりはキーワードからイマジネーションを広げる
アクセサリーブランドがコスメを出すことに珍しさを感じたが、三島さんが作品を生み出す工程を聞くと、なるほどとうなづけた。
「作品発表の半年前くらいから構想を始めます。作品を生み出す時は、まずは『かたまり』『蓄積』『原石』などのキーワード出しをします。そこから、どんな人に身につけて欲しいか、どんな風に身につけて生活をして欲しいか、といったイメージを膨らませ、ビジュアル的なイメージを出します」
「そのあとは色味マップを作ったり、そのイメージに合う女性像をどんどん具体的に描いて、その女性像が住んでいる家の質感やインテリアなど、細かな情景を形にしていきます。さらにその世界観の中で服装をスタイリング。実際に作品を作ったら、鏡で作品とこれまで描いたビジュアル画を並べてみて、イメージやキーワードと合っているかを確認します。ここでキーワードと合わないと感じたら作り直しです。
もっとトレンドを捉えてそこからデザインを始める人もいるのですが、私の場合はこのように、空気感を捉えて、イマジネーションから世界を広げるイメージです。一見遠回りのようにも見えるのですが、これによって作品全体を通した時に、芯の通った、裏付けのあるものづくりになると思っています。だからトレンドも抑えていても、流行りに左右されるようなデザインにはなりません」
「『Free Freeze』という作品はコロナ禍で生まれたのですが、部屋の中のイスに座り、ふっと風が吹き抜け、カーテンが揺れるような風景をイメージしています。立ち止まるのも歩くのも自由、今そこにある風を楽しもう、といった、より柔らかな休息のイメージを込めた作品に仕上がりました。
完成されきったアクセサリーはコーディネートがしづらかったりするのですが、nezuでは洋服やメイクと合わせた時にちょうどいいくらいの塩梅を目指しています。これがnezuの作品で大事にしている『素材っぽさ』です」
過渡期を超え、10年目に向かって
nezuを立ち上げて7年目、次なるステージへと進もうとしている。
「アクセサリーブランドが世の中にたくさんある中で、nezuだからこそ表現できるものづくりをしながら、10年目に向かっていきたいです。具体的には、nezuにもっと文化軸を持たせたい。例えば、コレクションごとに描いている女性像を登場されたコラムや短編小説などがあったら面白いなと思っています。インスタレーションもやってみたいし、海外へも展開していきたい。今回発表したコスメのようにアクセサリー以外の挑戦、ゆくゆくは洋服のデザインも取り組んでいきたいです。
私にとっては装うことが鎧であり、ファッションに助けられて今まで生きてきました。今度は自分が誰かの背中を押せるような願いを込めて、ものづくりをしています。たおやかで芯が強く、身に付けることで優しくなれるような。そんなものづくりをこれからもしていきたいと思っています」
取材協力
nezuデザイナー
三島友加里さん1986年生まれ
アパレルメーカーのデザイナーを経て、2015年よりデザインレーベル「nezu」をスタート。糸やビニールなどを使用し、触った時にハッとさせる素材感を楽しむアクセサリーを展開する。
https://nezunezu.com/
取材・文/Kikka
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