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「長い人生の中で登りはほんの一瞬だけ。人生は今しかない」引退を決意したプロ自転車レーサー・別府史之が伝えたいこと

2021.11.20

日本最強の自転車レーサー・別府史之が現役生活にピリオドを打った(本人提供)

「私は、今シーズンをもって、プロ選手としてのキャリアを終えます」

202111月6日。ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、プエルタ・ア・エスパーニャの3大グランツールを制覇し、5大モニュメントと称されるミラノ~サンレモ、ツール・デ・フランドル、パリ~ルーベ、リエージュ~バスト~リエージュ、イル・ロンバルディアなどを走破した唯一の日本人プロサイクリスト・別府史之が自身の公式HP上で正式に引退を発表した。

22歳でワールドツアーのビッグチーム・ディスカバリーチャンネルと契約して17年。7つのチームを渡り歩き、上記の3大グランツール、5大モニュメントのみならず、2008年北京・2012年ロンドン両五輪にも参戦した。競技で訪れた国は実に32カ国。常人には想像できないスピードで自転車に乗りつつ雄大な自然を体感するという経験は、トップレーサーしかできないものだ。

幸運にも今回、その別府に単独取材する機会を得た。トップ・オブ・トップの壮絶な生きざまを改めて振り返っていただいた。

1本の電話からスタートしたプロレーサーのキャリア

……38歳まで続けた競技生活に区切りをつけるのは簡単ではなかったと思います。改めて引退を決めた理由を教えてください。

「プロサイクリストのキャリアは毎年が契約更新の勝負。後ろを振り返る余裕はありませんでした。でも2020年にコロナのパンデミックが起き、レースが次々となくなってしまった。年間80回はあったレースが20回くらいになり、思うように走れなくなった。9歳で自転車を始めてから『自由な走り』を追い求めてきたのに、それが叶わなくなり、心身ともに中途半端な状況に陥ったんです。

それでも『このままやめたら悔いが残る』と思いました。東京五輪が延期になったこともあり、もう1年頑張って、五輪にもチャレンジして、納得したて終わりたかった。結局、東京五輪は出られなかったけど、10月までレースがあったので、そこまで走ろうと思いました。その中で『自分はこれでいい』と感じたのが9月のレースだった。これを最後にしようと決断したんです。ケガをしたわけではないし、肉体的にはまだ走れるんですけど、気持ちが変化した今が新たな一歩を踏み出し時なんだと感じて決めましたね」

……別府さんは華々しいキャリアをお持ちですが、人生の転機をいくつか振り返っていただけますか?

「一番大きかったのは、2005年にディスカバリーチャンネルとプロ契約したことですね。自転車競技の本場・欧州には日本人選手が皆無に等しかった。僕の前にツール・ド・フランスを走ったのは、96年の今中大介さんただ1人。10年近くプロが出ていなかったんです。

厳しい環境を理解したうえで、僕は藤沢北高校を卒業してフランスに渡り、アマチュアチームで一番下から実績を積み上げていきました。『このリザルトならプロになれる』という結果を残し、自分からチームにもアプローチをしたんですが、『日本人を取った前例はない』『日本からいくらスポンサーを持ってこれるんだ』と言われ、全然契約をもらえない。日本人であることの壁にぶつかり、失意の中、いったん帰国しました。

まさにどん底。そんな時、1本の電話が鳴りました。それがディスカバリーチャンネルの監督だった。『ウチに来ないか』という言葉は単なる励ましかと思ったら、本物のオファーだったんで心底、驚きましたね」

……サッカーで言えば、レアル・マドリードから直々にオファーが届いた感じですね?

「そうなんです(笑)。本当に大きなステップでした。でもプロレースの世界は1年契約で毎年が勝負。ちゃんと走れていないとすぐクビになる。自分の走りを突き詰めつつ、チームの仕事を果たすというバランスを考えながらやっていました。

2009年のツール・ド・フランスでは第3ステージで8位、第19ステージで7位とトップ10入りし、ステージ敢闘賞をもらえた。ツールは21ステージで合計3459㎞という壮絶な距離なんですが、今中さんも達成できなかった日本人初の完走も果たせました。通常の練習では毎日180㎞は走るんですけど、レースでは1日250㎞は走らなければいけない。本当にタフさが求められます」

3日間でアルプスの山岳地帯を2万m近く登ったことも

……世界各国の素晴らしい自然や景色を見る余裕はあるんですか?

「それも自転車の醍醐味ですね2011年に参戦したジロ・デ・イタリアの時は3日連続でアルプスの山岳地帯を6000㎞近くを走り、トータルで2万m近い標高を登りました。1日の最高獲得標高は6320m。『これはホント、登りすぎだろ』と思いますけど(苦笑)、過ぎ去ってみるとほんの一瞬の出来事なんですよね。

100年以上の歴史を誇る5大モニュメントを走った時も距離や起伏が凄まじかった。傾斜30度のアップダウンも普通にあって、『なんでこんなところを通らせるんだ?』と感じたことも一度や二度ではなかったです。未知なる世界に出会えて、走りながら感動を味わいましたね。

大雨や雪でも基本的に中止はないんで、過酷な気象条件下でも走ります。ある意味、『無差別格闘技』のような要素もあるのかな。それでも登れない道はない。大柄でも小柄でもそれぞれの個性を生かしながらチャレンジできる本当に素晴らしい競技です」

……別府さんはどんな走りが得意だったんですか?

「僕はオールダウンダー。登りも平坦な道も走れるし、先頭をぶっちぎる役割を託されればそれもこなす。ワールド・ツアーの舞台ではとてもレベルは高いので、アベレージを求められる走りに徹していましたが、スピードやスプリントでの瞬発力、パワーやバイクコントロールが優れていたので、そのパートをサポートするところが多かったですね。

自分自身のマネージメントをするうえでもオールラウンドな能力は求められます。日本にも海外にもエージェントはいて、助けてくれる方も多くいましたが、チームで管理されているわけではないので、契約に関しても自分で全て準備しなければいけません。ファンやスポンサーとの関わりもしっかりとやっていかないといけない。そういう1つ1つを僕は先駆者から話を聞いて、こなしてきた。その全てが自分の財産だなと改めて感じますね」

本場・欧州では多くの人々やメディアに注目され続けてきた(本人提供)

……17年もプロを続けているとさまざまな環境の変化も感じると思いますが。

「そうですね。一番感じるのは、速い走りを追求する傾向が強くなったことかな。自分が若かった頃は今ほど情報も科学的トレーニングもなかったので、先人がやってきたことを見て聞いて学び、レースで駆け引きしながら自分のものにしていった。でも近年は最先端のトレーニングシステムが導入され、ジュニア時代から英才教育を受けて一気にブレイクするような若手が出てきました。

ただ、彼らを見ていると『ロボットのような生活をしているな』と感じることもある。実際、スピードやパワーは凄まじいですけど、プロとしての寿命は短くて、平均5~6年。『自転車をやめたら人生どうなってしまうのかな』と疑問を覚える部分も正直、あります。

欧州の自転車レースには100年の歴史がありますけど、そのうち20年を見てきた人間として、少しでも若い人たちをいい方向に導いていきたい。そんな気持ちも強いですね」

長い人生の中で登りはほんの一瞬だけ。「人生は今しかない」

……今後は後進の育成を手掛けるのですか?

「自転車に携わって、若い世代をサポートしつつ、自分の経験を伝えていきたいというのは今の率直な思いです。

欧州自転車界を見ると、今年のワールドツアー参戦者が604人、プロコンチネンタル参戦者が459人。プロと呼ばれる人は合計1000人強います。でも日本人のワールドツアー所属選手はわずか3人。来季は2人だけという状況です。僕が2005年にプロ契約した時は自分1人だったんで、当時よりは増えたのかもしれないけど、まだまだ少ないのが実情です。日本国内にはまだまだ才能を持った人がいるかもしれないけど、全員が欧州でやっているわけではない。彼らに本場で戦っていくためのノウハウを教えてあげたい。彼らが道を作る手伝いができればいいですね。

インターネットが普及した今は人と話さなくてもある程度の情報は得られるかもしれない。でも、僕は世間話をしたいんです(笑)。実際に経験した人から聞くリアルな話はやっぱり違うと思うから。若者たちにしてみれば、そういう考え方は面倒くさく感じるかもしれないけど、お互い共通点を見つけながらやっていくことができればベストでしょうね」

……まさに人間臭いのが別府さんの魅力です。チャレンジングな生き方はサラリーマン世代にも響くと思いますが、実社会で働く日本の3040代にメッセージはありますか?

山道を登っている最中は、きつくて苦しい。果たしていつまで続くのだろうかと、絶望的な気持ちになることだってあります。でも、長い人生の中で見れば、登りはほんの一瞬に過ぎない。道は永遠に続くけれど、登りにはいつか終わりがある。ジロ・デ・イタリアを走りながら実感したことは、人生においても真実だと思っています。

どんなことも一瞬でしかないというのは、17年間欧州で走り続けてきた僕の実感です。ホントに全てが早かった。だからこそ、今しかできないことに全力で向き合い、体当たりでぶつかっていくことが大事なんだと思います。『人生は今しかない』。そのことは肝に銘じてほしい。

僕自身も死ぬまでずっと走り続けていきたいですけど、これからも一瞬一瞬を大事にしていこうと強く思います」

風を切って走る自転車の軽快な走りに魅せられてから30年。別府は言葉も文化も習慣も異なるフランスに赴き、世界中から集まったトップレーサーたちとしのぎを削り、自分の地位を確立させてきた。過酷な環境を戦い抜き、プロとして過ごした17年は本当に貴重な時間だったに違いない。その経験から我々が学べることは少なくないはず。彼にはぜひ1つ1つの体験を日本という国や日本人の若者たちに還元してほしい。第2の人生で強い輝きを放つ別府の姿を楽しみに待ちたいものである(本文中敬称略)。

取材・文/元川悦子

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