「バターロールの無限の可能性を追求します」PARKER HOUSE BUTTER ROLL
2013年頃から始まった高級食パンブームは衰える気配がなく、焼かずに食べてもおいしいリッチな「生食パン専門店」ブームも、いまだに加速の勢い。
そんな中、2021 年 11 月 4日、茅場町にバターロール専門店「PARKER HOUSE BUTTER ROLL(パーカーハウスバターロール)」がオープンした。チラシには、「バターロールの無限の可能性を追求します!」という意気込みが…。
確かにバターロールは食べやすくておいしいし、嫌いな人はいない万人向けのパン。だが、「どのパンよりもバターロールが好き!」という人にもあまり会ったことがない。果たして専門店として成立するほど、”無限の可能性”を秘めているパンなのだろうか。その疑問の答えを探すべく、オープン直前の試食会に参加してみた。
「PARKER HOUSE BUTTER ROLL(パーカーハウスバターロール)」(東京都中央区新川1-1-7 GEMS茅場町1F) 東京メトロ 茅場町駅4番出口より徒歩約2分 営業時間:平日7:30~19:00、土曜日9:00~17:00 定休日:日曜日、祝祭日
席数:イートイン30席 ※全席禁煙 緑に囲まれたテラス席もある
麦の甘みの深さ、なめらかさ…!こんなバターロール、食べたことない!!
店があるのは、茅場町駅から徒歩2~3分のところ。茅場町駅を出て永代通りを進み、霊岸橋を渡ったところで左折すると、すぐに大きなバターロールの看板が見える。
店に入ると、商品が並べられた台の奥はオープンキッチン。スタッフがすごい勢いでパンを成型したり、焼き上げたりしている姿が見える。
まさに今、焼きあがったばかりのバターロール(税込み180円)とコーヒーを購入し、奥のイートインスペースでさっそくいただいた。
見た目は普通のバターロールだが、袋を開けた瞬間から、ただならぬ甘く香ばしい香りが広がる。
2つに割ると、湯気とともにさらに濃厚な甘い香りが…。バニラのような香料の香りではなく、バター本来の香りであり、小麦の自然で甘い香りなのだ。また一般的なバターロールはパサパサした質感のイメージがあるが、こちらは驚くほどなめらかで、とろけるような口どけのよさがある。またうまみの強い塩味がアクセントになっていて、ミルキィなコクと小麦の甘さの余韻が長くのこる。
確かにこれは、今まで食べてきたバターロールとは全くの別物。いったいどうやって生まれたのだろう。このパンを作りだした3人の立ち上げメンバーの一人、八木英治さんに聞いた。
飲食業でモヤっていたアラサー男子3人に訪れたビッグチャンス
八木さん(写真上)は、以前、イタリアンの料理人をしていた。それなりに好きな仕事ではあったが、もうひとつ確かな手ごたえを感じられずにいたという。
店長の三澤零(れい)さん(上の写真右)はカフェのバリスタ、石井雄太さん(同左)は飲食店のサービスを担当していた。3人とも、好きな飲食の仕事についているとはいえ、これといった達成感もないままにいつしかアラサーになり、あせりを感じていた。
そんな3人に、チャンスが訪れる。3人が属していたボネリートという会社が運営しているカフェ&イタリアンの店がコロナで閉店となり、新業態の店を出すことになった。全く新しい業態の開発を、この3人がタッグを組んで始めることになったのだ。
人生でもう二度とないかもしれないビッグチャンス。世の中にまだ専門店らしきものがなく、誰もが知っていて、みんなが大好きな食べ物はなんだろう?と考えた時に浮かんだのが、3人が修業時代によく食べた大好きなバターロール。「日本人みんなが身近によく知っているけど、食パンほど本気でこだわって作っているところは少ない。自分たちが本気で作って、誰も食べたことがないくらいおいしいバターロールを作ったら、勝機はあるのでは」と考えたという。
しかし、製パン経験はゼロの3人。それぞれが伝手をたどって店で研修を受けるなどして、全くの素人仕事から試作を始めた。最初は飲食店で働きながらの試作だったが、最後の数カ月間はかかりっきり。始発から終電まで店にこもり、ありとあらゆるアプローチで試し尽くした。
行きついたのは、「水」
粉にこだわり、バター、生クリームにもこだわり、ありとあらゆる材料にこだわり尽くしたが、それでも理想のバターロールに届かない。「まだ試していない材料って何がある?」と考えた時、もう水くらいしかなかった。しかしやけっぱちのように試した、通常の製パンで使われない「水」が、突破口となった。
バターやクリームなどの副材料に目を奪われがちだが、じつは水はパンの基本材料の一つ。3人が着目したのは、「製パンには不向き」が常識だった弱アルカリイオン水だった。弱アルカリ性だとパン酵母の活性が悪くなり、パン種が膨らみ切らずだれてしまう。しかし一方で、和食では、出汁をひくなど素材の香りやうまみのポテンシャルを引き出すために、弱アルカリ性の水を使っている。この水を使えば素材の魅力を引き出すことができるのではないかと3人は考え、試作をくりかえした。
「レシピではなく、加減に企業秘密がある」
鍵となったのは、フランスパンなどを作るのに用いられる「ポーリッシュ法」という発酵方法。小麦の中心部のみを使ったカナダ産の特等粉、北海道産の小麦粉を、同量のアルカリイオン水を合わせた湯種を熟成させ、かけあわせることでうまみを引き出して、とろけるような食感に仕上げているという。
だがこれは、いわば企業秘密ではないか。それをこんなに簡単に公開していいのか。そう問うと、八木さんは笑って「なんならレシピを公開してもいいですよ。絶対同じには作れませんから」と言い切った。
「1℃で寝かせるか4℃で寝かせるか、ミキシングを6段階までやるか4段階で止めるか。3人でひたすら試して、ありとあらゆる方法をやってみたことで、やっと見えた作り方なんです。だから、レシピのように文字にはできない。レシピではなく、“加減”に企業秘密があるんです」(八木さん)。
熟成期間を経るために、作り始めてから焼きあがるまでに3日間かかる。オープンキッチンで作っているのは、3日後に店頭に並べるパンなので、売れすぎて数が足りなくなってもすぐには補充できないそうだ。このパン種に、国産のこだわり抜いたバターやクリームを使い、完成させたのが唯一無二のバターロールだ。
バターロールは3種類、総菜系&スイーツ系など10種類のパンをご用意
初めて訪れる人にぜひ食べて欲しいのは、基本の「パーカーハウスバターロール」。そのほかにレーズン入りの「レーズンバターロール」、「ラム種香る大人のメロンパンバターロール」(写真上)の3種がある。メロンパンバターロールは基本のバターロールに、ラム酒とアールグレイの香りをきかせたクッキー生地をトッピングすることで、さらにしっとり仕上げている。
3種類のバターロールをはじめ総菜系&スイーツ系など10種類のパンがある。ドリンクも種類が豊富で、1855年にイタリア・ローマで生まれ、地元で150年以上もの間愛され続けている「ボンドルフィボンカフェ」のこだわりのコーヒー豆を使用している。また、本日のコーヒーとしてバリスタ出身の三澤さんが厳選した日替わりコーヒー(ホット・アイス)やノンカフェインドリンクを含め全17種類をラインナップ。
兜町女子を、贅沢なバターロールで笑顔にしたい
通りで配っているチラシには「働く女性に贅沢を この1つの商品から」というキャッチフレーズが。兜町界隈には女性も多く働いているのに、男性向けの居酒屋や、ガッツリ系のチェーン店しかないので、ぜひこの店を癒しの場所にして欲しいと考え、空間デザインも女性向けにした。
「せっかくもらえたチャンスを、しっかり形にしたい。僕たちが作ったバターロールを食べて、この街で働く女性が贅沢な気分になるお手伝いができたら、最高ですね」(八木さん)
取材・文 桑原恵美子
編集/inox.
参考URL
https://parker-house-butter-roll.business.site/
instaglam:https://www.instagram.com/parker_house_butter_roll/