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コロナ禍を乗り越えられるか?静岡の人気駅弁「元祖鯛めし」が全国配送サービスを開始

2021.11.10

駅弁ほど、日本という国の文化をよく表している商品はほかにないかもしれない。

日本は鉄道網が発達した国である。主要都市圏だけでなく、地方にも正確なダイヤで運行される鉄道が通っている。さらに日本には新幹線という、最先端のテクノロジーを搭載した高速鉄道も走っている。

鉄道車両で食べる駅弁は、飽食の時代を迎える以前は「たまにしか味わえない贅沢品」だった。が、現代では駅弁自体が存続の危機に見舞われている。

きっかけはお見舞いのアマダイ

静岡県静岡市に所在する東海軒。地元の「しぞーか人」であれば、この会社の名と業務内容を知らない者はいないだろう。1889(明治22)年創業の駅弁製造業者である。この年の2月、静岡に念願の鉄道が開通していた。

「1892年に静岡市内で大火がありました。その際に東海軒の前身の加藤辨當(べんとう)店の主人が大火での怪我人の救い出しに奔走し、煙をしたたか吸い込んでしまったため寝込んでしまいまして、それを見かねた知り合いの魚屋さんがお見舞いにアマダイをくれました。このアマダイを煮崩してご飯に振りかけたのが、『元祖鯛めし』の始まりです」

そう語るのは、東海軒代表取締役専務の加藤貴久氏である。

それまで「加工が難しい」と言われていたアマダイをそぼろにして白米に振りかけた新料理は、子どもたちを喜ばせた。甘い味付けで、子どもの舌にも馴染みやすい。そしてこれを5年かけて商品化したのが上辨當である『鯛飯』である。

それから120年余り、この商品は『元祖鯛めし』という名で今も販売されている。明治、大正、昭和、平成、令和と、5つの年号をまたぎながら長距離列車の乗客に愛され続けた静岡特産の駅弁。が、2020年に東海軒……いや、全世界の飲食関連業者は未曽有の危機に見舞われるのだ。

駅弁を急速冷凍

「やはり、新型コロナウイルスの影響は非常に大きなものでした」

100年に一度の規模のパンデミックは、我々の生活を激変させた。

感染症は、人の移動と共に拡大する。政府や自治体は徹底した移動自粛を市民に呼びかけ、飲食店も休業を余儀なくされた。同時に自由な旅行もできなくなり、観光どころか大学生の里帰りすらも警戒されるようになってしまった。

長距離を移動する人がいなくなるということは、駅弁が売れなくなるということだ。

しかし、『元祖鯛めし』を含めた駅弁というものは長期保存ができない。そもそもが「現地に来てもらう」ことを前提にした商品だから、全国へ配送することは想定していないのだ。

消費期限を伸ばすだけなら可能だが、一番の問題は味である。不味くなっては意味がない。東海軒は試行錯誤を重ねた末、急速冷凍という方法で全国配送ができるだけの保存性と風味を両立させることに成功した。

今回のクラウドファンディングでの経験を活かし、今後は『冷凍駅弁事業』として全国の駅弁ファンの方へ東海軒の駅弁を販売していくことを目指している。

それをクラウドファンディングMakuakeに出展し(実行者は駅弁文化伝承委員会)、目標金額の4倍もの応援資金調達を確定したのだ。応援者には、リターンとして冷凍加工した『元祖鯛めし』が配送される。

駅弁は「特別な料理」だった

駅弁とは、冒頭に書いた通り「たまにしか味わえない贅沢品」だった。

現在テレビ放映されている『鬼滅の刃 無限列車編』で、炎柱の煉獄杏寿郎が駅弁を大量に購入している場面がある。あの駅弁の中には牛肉が入っている。

『鬼滅の刃』という作品の時代設定が大正年間ということを、ここでは考慮するべきだ。この時代の肉料理とは、庶民が滅多に食べられるものではなかった。それを杏寿郎は大量に買い込んでいたのだから、鬼殺隊士は相当な高給取りに違いない……。

余談が長くなったが東海軒の弁当も、まさにそのような「特別な料理」だった。明治大正の頃は、『元祖鯛めし』のような「甘い味付けの食べ物」自体があまりなかった。その気になれば小学生でもコーラが買える現代とはまったく違う。『元祖鯛めし』は、当時の子どもたちにとっては年に1度、あるいは数年に1度の旅行でのみ味わえる豪華メニューだったのだ。

「掛紙」という名のアート作品

「今回、Makuakeに『元祖鯛めし』を出展するにあたり、特別な掛紙を用意しました。京都の藤澤萬華堂様に作っていただいたもので、明治39年に使われていた掛紙を復刻しました」

駅弁のもうひとつの魅力、それは掛紙である。

かつての掛紙は、江戸時代以来の木版手摺り印刷で製造されていた。彫師が彫刻刀で木に絵を描き、摺師がそれに絵の具を塗って紙に転写する手法だ。

これは「職人技」である。捨てるにはあまりに惜しいほどのアート作品だ。実際、当時の掛紙をコレクションしている人もいる。

「当時、紙は今よりも高価なものでした。だから他の企業が東海軒の掛紙に広告を出すこともあったんです」

加藤氏に、当時の掛紙を見せていただいた。

森永ミルクキャラメルや宇津救命丸など、東海軒とはまったく異なる会社が掛紙に登場している。つまり駅弁とは、ひとつの広告手段でもあったのだ。テレビもラジオもない時代、これは新商品を大衆に知らせる数少ない方法である。

筆者はついうっかり、

「見ていてまったく飽きませんね」

と、つぶやいてしまった。明治大正は、もしかしたら我々がぼんやり想像しているより遥かに豊かだったのかもしれない。そう思わせるほどの素晴らしい掛紙だ。

望郷の味

「Makuakeの応援コメントを見ると、本当に日本全国の方が『元祖鯛めし』そのものを目当てに応援してくださっています」

そう話すのは、東海軒外商部商品開発室の細澤百合子氏。静岡市でしか製造されていない『元祖鯛めし』が意外な全国的知名度を持っていたことを、Makuakeを通じて知ったという。

筆者もMakuakeの応援コメントを確認してみた。静岡県民と思わしき出資者も多いが、それと同じだけ「帰省の際によく買っていた」というコメントも目立つ。つまり今は上京しているが、実家のある静岡に里帰りしてまた東京へ戻る時にこの弁当を買う……ということだ。

すると、その里帰りに同行している彼らの子どもたちも東海軒の弁当を食べることになる。筆者自身が、まさにそのような子どもだった。両親は静岡市出身だが、筆者は神奈川県相模原市の育ちである。実際、東海軒の弁当は子どもの時分からの好物だった。

しかし、子ども連れの帰省も新型コロナウイルス感染拡大の影響でなかなかできるものではなくなってしまった。

それを考慮すると、我々現代人は新型コロナウイルスと戦うために多くのものを手放してしまったと言わざるを得ない。「望郷の味」ですらも、未知の感染症は容赦なく、渦中へと巻き込んだ。

「最初は掛紙が目当ての人が集まってくださるのかな……と思ったのですが、実際にはお弁当を楽しみにしてくださる方が非常に多く、本当にうれしく感じています」

そのような現象が発生しているのは、都道府県の境に「壁」が立ってしまったからではないか。費用と時間さえあれば気軽にできた国内旅行が、パンデミックですっかり遠いものになった。緊急事態宣言が解除された2020年11月現在ですら、我々は第6波の可能性に怯えながら暮らしている。

正直、本当に自由な旅はまだまだできそうにない。だからこそ、あの日食べた駅弁を取り寄せて、味覚だけでも旅行を楽しもう。200万円を超える応援金が『元祖鯛めし』全国配送プロジェクトに集まったのは、日本全国の人々がコロナ前の華やかな記憶を手繰りながら今も自粛生活を続けているからではないか。

同時に我々現代人は、駅弁というものがかけがえのない日本文化であることを再確認した。駅弁が消える日、それは日本人のアイデンティティーの結晶が消える瞬間である。

そして我々の胸の内に「旅に憧れる心」がある限り、駅弁は決して消えない。

※クラウドファンディングには立案会社の問題でプロジェクトが頓挫する可能性や支援金が戻らなくなるリスクも稀にあります。
出資に当たっては、読者様ご自身でご判断いただきますようお願い致します。(編集部)

【参考】
駅弁掛紙を木版手摺りで復刻 静岡駅東海軒の名物駅弁「元祖鯛めし」を全国に届けタイ-Makuake

取材・文/澤田真一

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