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なぜ「いいに決まっている」はずのものを選ぶことをためらってしまうのか?

2021.10.28

 今年も客が殺到するのだろうか。「いいに決まってる」というのは頷けるところではあるが、そう決めつけてしまうのもいかがなものなのか……。

冬のアウターのことを考えながら茗荷谷を歩く

 つい一週間前までは“終わらない夏”が続いていたのに、一気に涼しくなった。Tシャツにジャケットの軽装でやや強い風に当たるとたちまち体感温度は下がり、冬の日々を思い出させてくれるほどだ。あと1、2時間もすれば日が暮れてくるが、完全に日が沈めばさらに冷え込んでくるのだろう。

 街を歩く人々の服装がまちまちで、Tシャツに短パンの若者もいれば、トレンチコートを着込み首にはマフラーを巻いた女性の姿もある。個人的にコートはまだあり得ない気がするが、今日ぐらい風が強ければそれもわからないではない。

 千代田区某所からの帰路に東京メトロ丸の内線に乗り、茗荷谷で降りた。少し長めの街歩きがしたいと思ったからだ。気温が下がってくれば長い散歩がしやすくなる。それもまた寒くなって増える楽しみのひとつだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 駅の改札を出て春日通りに向かう。この辺の地理には疎く、春日通り沿いしかわからない。学校が多い場所として知られているだが、近くに繁華街と呼べるような場所もなく地元住民を除けば学生や教育関係者以外はあまり訪れることもなさそうな土地柄である。

 それでも春日通りに出れば駅周辺には飲食店やドラッグストア、コンビニなどが並んでいて人通りもそれなりにある。今日はまだ昼食にありついていないので、どこかで腹ごしらえをしてもいい。

 ともあれこう涼しくなってくると、半ば否応なしに秋冬ものの服のことを少しは考えざるを得なくなる。手持ちの服だけでも今年の冬は越せるとは思うが、2、3年前に買ったようなアウターの類はどうしても飽きがきてしまっていて、進んで着たい気持ちにならなくなっている。

 コートなどの冬のアウターは気に入ったものばかりを着てしまいがちになり、その結果、春が近づく頃には飽きがきてしまう。それを避けるには気に入ったアウターを数種類揃えて毎日着ないようにローテーションをする必要があるように思えてくる。つまり“冬の一張羅”を作らないという戦略である。

 そう考えるとやはり今年も新たなアウターを買って、ローテーションに加えるのが良いようにも思える。しかし何を買ったらよいのだろうか……。

 秋冬物の服といえば多くにとって意識にのぼってくるのが某“国民的”ファストファッションブランドだが、ご存知のように最近では海外の有名デザイナーとコラボしたコレクションが話題になることが多くなっている。去年の秋はそうしたコラボコレクションの1つの発売日に、店舗に多くの客が押し寄せ争奪戦さながらの様相を見せたことがニュースでも報じられけっこう話題になった。

 確実に入手したいと店舗にやって来たお客の1人が「(商品が)いいに決まってる」とどこかのニュース映像で力説していたのが思い返されてくるのだが、今までは手が届かなかった有名デザイナーの服がファストファッションに準じた価格で買えるのは確かにお得で「いいに決まってる」のかもしれない。

 聞くところによると今年も近々このコレクションが発売されるということで、今回も去年のようなことがあるのか少し気になるところではある。

 個人的には傍観しているだけだが、もちろん商品をチェックして「いいに決まってる」と思えるのであれば、自分も発売日に店舗に行って売り切れる前にアウターなどを入手するという選択もないわけではない。とすればこのコラボ商品をすぐにでも検討したほうがよいのだろうか。

「街の洋食屋」に入りメニュー選びに少し迷う

※画像はイメージです(筆者撮影)

 春日通り沿いを歩いていると趣のある石造りの軒先の洋食店に出くわした。ちょっと豪華な感じの「街の洋食屋」さんといったところだろうか。

 店先の展示ボードには人気のメニューが写真と共に紹介されていて、ガラスケースの中にはメニューの食品サンプル模型も並べられている。ざっと見たところ、和牛ハンバーグとエビフライやコロッケなどの揚げ物を組み合わせたメニューが人気のようだ。「昭和洋食」というフレーズもあり、まさに大衆的な日本料理としての洋食店ということのようだ。

“昭和”な雰囲気の中でハンバーグと揚げ物を食べてみてもいいのだろう。入ってみることにしたい。

 店を入ってすぐのところに券売機があったのだが、その前には女子大生らしき若い女性の2組がいて食券を購入しているところだった。

 最初の女の子は明らかに何度もこの店に来ているような慣れた手つきで券売機に千円札を投入してボタンを押し食券を購入していたのだが、続いて2人目の女の子は千円札を投入したものの券売機のボタンを眺めて少しの間、考え込んでいた。

 とはいっても数秒ほどのことではあったが、考えた挙句に意を決したようでおもむろにボタンを押して出てきた食券とお釣りを手にしたのだった。「へぇ、今日はそれにするんだ」と最初の女の子が若干の驚きを口にしていた。どうやら2人目の女の子は普段とは違ったメニューを選んだようである。

 2人組が店の奥へと進んで行き、さて自分の番である。おそらく最初の女の子が選んだであろう、和牛ハンバーグとエビフライ、コロッケなどが組み合わされたこの店1番人気のメニューを自分も食べたいと漠然と思っていたのだが、2番目の女の子の少し考えている様子を見てしまったこともあってか、ほかにも検討すべきメニューがあるようにも思えてきた。

 和牛ハンバーグとエビフライが「いいに決まっている」のはわかりきっていることではあるが、メニューにはほかにもビーフやチキンのステーキや、銀ダラや紅鮭のムニエルなどもあるのだ。そしてもちろん、そうしたメニューもまたそのお店が自信を持って提供しているものであることは間違いない。

 ハンバーグとエビフライが人気の洋食屋に来ておいて、なぜ魚のムニエルを注文するのだと疑問の声が上がるのも無理はないとも言えるが、決して不思議なことではないだろう。純粋にこの店のムニエルが食べたくて来る人もいれば、同行者の希望でこの店に来たが今日はハンバーグという気分ではないというケースもあり得る。

 ……と、そんなことを考えているとハンバーグを選ばなくともいいような気がしてきた。「いいに決まっている」ものを選ばなくてもいいのだ。

 券売機の前で思案に暮れているわけにもいかない。しかも券売機はこの1ヵ所だけなのでいつ新たな入店客が来るかもしれず“長考”はできなかった。券売機の左にある写真付きのメニューとも照らし合わせながら考えを巡らせ、千円札投入後に奮発してもう千円を追加し、200gのサーロインステーキセットのボタンを押した。

 店の人に案内され、午後4時過ぎという中途半端なだけに比較的空いていることもあってか、カウンター席ではなく4人掛けのテーブル席に着くように促される。食券を渡した際に焼き方を問われ、ミディアムレアでお願いする。

 ウッド調のインテリアで落ち着く店内である。都内の一般的なファミレスよりは広くはなさそうだが、「街の洋食屋さん」としてはじゅうぶんに広い。

「いいに決まっている」ものを選ばなくさせるものとは?

 このご時世もあってかテイクアウトのお客も数人、店内で待っているようだ。今回のコロナ禍ですっかり定着したテイクアウトや宅配サービスだが、コロナが収束した後はどのような様相を見せるのだろうか。特にそれまでは出前など行っていなかった店が“コロナ後”もテイクアウトやウーバーなどを続けるのかどうか、その動向はやや気になる。

 セットメニューのサラダが先に出てきた。ミニサラダではあるがコーンがたっぷりで食べ応えがありそうだ。サーロインステーキに期待が高まってしまうのだが、ハンバーグとエビフライという「いいに決まっている」メニューを選ばなかったのは、ほかならぬ券売機で2番目に食券を買った女子大生の影響であることは間違いない。彼女の購買行動を目撃していなければ、きっと自分は今、ハンバーグとエビフライを待っていたはずだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 最新の研究でも、他者が「いいに決まっている」以外の選択を検討して考えあぐねている様子を目撃することで、自分もまた「いいに決まっている」以外の選択をする確率が高くなることが報告されていて興味深い。


 人々は他の人が意思決定を下す前にどれほどの躊躇を見せるのか、その様相から貴重な情報を学んでいることを新しい研究が示唆しています。

 研究者は人々が選択をする前に彼らのグループの他の人が躊躇しているのを見たとき、彼らはグループから離れて別の選択をする可能性が約2倍に高まることを発見しました。

「他の人が選択をする前に躊躇しているのを見ると、その人は葛藤していて、正しい決定をしていると完全には確信していないことがわかります」

※「Ohio State University」より引用


 米・オハイオ州立大学と南カリフォルニア大学の研究者が2021年9月に「Management Science」で発表した研究では、実験を通じて他者が意思決定に時間をかけているのを目撃することで、当人もまた“支配的な見解”から外れた意思決定をする確率が高まることが報告されている。そしてこの現象は付和雷同しがちな集団の意思決定を修正するうえでポジティブに作用し得るものであることが指摘されているのだ。

 72人の大学生が参加した実験では、オンライン上で8人ずつのグループに分かれて一連のタスクが課された。

 8人の参加者には3つのボールが入った同一の仮想のバッグが与えられ、中に入っている3つのボールそれぞれに「A」または「B」のマークが付けられていると説明された。各参加者は順番に1度だけバッグの中のボールを取り出し、そのボールがA、またはBであることを確認した後、バッグの中にはAあるいはBのどちらのボールが多く入っているのかを推測して表明することが求められた。

 このタスクを8人で順番に行ったのだが、タスクの当事者がどちらのボールをバッグから取り出したのかは他のメンバーにはわからなかったが、当事者が下した推測は誰もが知るところとなった。つまり後にタスクを行う者ほど、先に行った者の推測をより多く知った状態で自分の推測を行うことになる。

 例えば最初にタスクを行った者が、バッグからAのボールを取り出し、このバッグにはAのボールがより多く入っているとの推測を表明したとする。それを聞いたうえで、2番目の者もまたAのボールを引き当てた場合、同じく袋にはAのボールが多いと推測して間髪入れずに表明する可能性が高くなるだろう。

 こうしてバッグの中にはAのボールがより多く入っているという推測が支配的になったといえるのだが、3番目の者のタスクには少し時間がかかり、最終的にBのほうが多いとの推測が表明されたとする。しかしこの3番目の者が引き当てたボールがAであったのか、Bであったのかはもちろん他のメンバーにはわからない。こうした状況の中、次にタスクを行う者はどちらの推測を表明するだろうか。

 繰り返されたタスクのデータを分析した結果、研究チームは自分の直前の者のタスクに時間がかかっていたのを知った場合、“支配的な見解”に逆らう意思決定を下す確率が66%まで上昇することを突き止めたのである。一方で直前の者の判断が迅速であった場合は支配的な推測に反する意思決定を行う確率は33%に留まった。

 つまり意思決定に思い悩み、少し考えあぐねている者を目撃することで、“支配的な見解”から逸脱する意思決定をする確率が高まるのである。とすれば自分がこの店でハンバーグとエビフライを注文しなかったのは、自分の直前で少し考えあぐねた挙句に食券を購入していた女子大生の“ためらい”を目撃したからであるのかもしれない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ……カップスープと皿に盛られたライスに続いてステーキがやって来た。焼けた肉とガーリックの匂いが食欲をそそる。さっそくナイフを入れてみると、いい具合に肉の中層部だけがレアである。おもむろにひと口頬張る。柔らかくて美味しい。じゅうぶん満足だ。

「いいに決まっている」という“支配的な見解”に反する選択を行っても、もちろんその判断の良し悪しはまた別の話になる。しかしその“支配的な見解”に実は何らかの問題があった場合、それを修正するきっかけにはなり得るのだろう。集団や組織が間違った方向へ進んでいる時、それに気づいた個人は大いに“ためらい”を見せるべきということかもしれない。

 ともあれこうして美味い飯にありつけたことに何の不満もない。冬のアウターについては今のところ「いいに決まっている」コレクションのことは考えずに少し“ためらって”みることにしようか。考えあぐねているうちに売り切れてしまったとしてもそれはそれで構わない。最悪、今年はアウターを買わなくてもいいのだから、何も焦って性急な買い物をしなくてもよいと思えてきた。そこには有難いことに今こうして胃袋が満足しているからこそ生まれた“余裕”の影響もありそうだ。

文/仲田しんじ

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