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目的意識があると記憶力が鮮明になるのはなぜか?

2021.10.14

 意外な人物の顔が浮かんだ。15年以上も前の話だ。彼は今どうしているのだろうか。共通の知人との交流も途絶えた今となっては知る術もないし、知ろうとしたところで仕方のないことではあるが……。

西早稲田を歩きながら15年前を思い出す

 渋谷区某所からの帰路に乗った東京メトロ副都心線を西早稲田で降りた。夕刻を過ぎたばかりではあるが地上に出ると辺りはすでに真っ暗だ。駅の出入口に面した明治通り沿いを池袋方面に進む。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 仕事上のちょっとした取材で先ほどまで渋谷区の神宮前にあるスタジオにいたのだが、てっきり初めて訪れる場所だと思い込んでいたのだが、用件が終わる頃になってずいぶん前にここに来たことが確かにあったことに気づいて驚いた。誰のせいでもない自分自身の記憶に不意打ちされた気分だ。

 大きな通りの左右一帯は住宅街なので、商店街とは呼べないまでもそれなりに店もある。ご存知のように“宣言”が解除されたことでそれまで閉まっていた店舗も徐々に再開していて、通りに店の灯りが戻ってきている。開いている飲食店のどこかに入って食べて帰ってもよい。

 さっきまでいたスタジオに前回訪れたのは、考えてみるともう15年以上も前の話になる。忘れていたのも無理はないといえるのだが、こうしていったん思い出してみるといろんなことが思い出されてくる。

 その時に取材仕事で訪れたスタジオには同業者も何人かいたのだが、そのうちの1人は当時の仕事で関りが深い人物だった。付き合いが深かったのは2、3年くらいの間で、その後ほどなくしてお互いの仕事の状況が変わり接点がなくなってしまっていた。当時の別の知人から彼が地方へ引っ越したとも聞いていたのだが、その知人とも現在は交流が途絶えてしまっているためにそれ以上は知りようがないといったところだ。

 もちろんどうしても知りたいということであれば、携帯電話の電話帳から共通の知人を辿ったりするなどして追跡することはできるのだろうが、そんなことをする理由は今のところは何もない。

 しかしこうしていったん彼の顔が浮かぶと、当時のいろんなことが思い出されてくる。仕事関係の集まりで居酒屋などで一緒に飲んだことも何度かあったのだが、そうした時期に特定の居酒屋で交わした会話の内容も一部思い出されてくる。話の内容は実に他愛ないものではあるが……。

 そういえば彼の顔は実は最近、わずかではあるが脳裏をよぎっていたことを思い出した。つい最近、ネットでの評判を見てランチで訪れた居酒屋があったのだが、カウンター席で銀鮭の塩焼と豚角煮丼を美味しく頂いて店を出た後も何か引っかかるものがあった。何となく前に一度来ていたような気がしていたのだ。

 帰ってから気になってネットで調べてみると、同店はある年に店内を改装していて、それまであった座敷席がなくなっていたのである。そしてまさにその彼とこの店の座敷席で酒を酌み交わし、その他愛ない話をしていたのだ。きっかけは偶然だが、まったく驚くべき記憶の連鎖である。奇妙なことではあるが、結果的に“伏線”があったということになるのかもしれない。

目的意識が記憶の鮮明さと一貫性を向上させている

 それにしても15年以上も前のことがこうして鮮明によみがえってくるというのも珍しい。たとえば13年前の夏には北京五輪があり、何となく当時のことが思い出されてはくるがいずれも漠然として覚束ない。それでもやはり自分の仕事に関係することであれば、けっこう詳しくよみがえってきたりもする。

 飲食店が連なる一帯にさしかかる。ラーメン店の前には行列ができていた。今は行列に並ぶ気にはなれないが、どこか入れそうな店で軽く食べて帰ろう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 仕事に関係したことをよく憶えているというのは、何も自分をほめるわけではないが、やはりそれだけ責任感と自覚を備え、場合によっては緊張感も覚えつつ目的意識を持って仕事に取り組んでいるからではないだろうか。オンとオフでは時間の流れ方も違ってくるし、記憶への刻まれ方が違ってきたとしてもまったく不思議ではない。最新の研究でも目的意識が記憶力を高めていることが指摘されていて興味深い。


 フロリダ州立大学の研究者が主導した新しい研究では、個人の目的意識と鮮明な詳細を思い出す能力との間に関連性があることが示されました。研究者たちは、目的意識と認知機能の両方が記憶を思い出しやすくする一方で、目的意識だけが鮮明さと一貫性の利点を与えることを発見しました。

「個人的な記憶は、日常生活において非常に重要な機能を果たします」と、医学部の教授で論文の筆頭著者であるアンジェリーナ・スーチンは述べています。

「個人的な記憶は私たちが目標を設定し、感情をコントロールし、他の人との親密さを築くのを助けます。また目的意識の高い人は、単語のリストを覚えるなど、客観的な記憶力テストでより良い成績を収めることもわかっています。目的意識が重要な個人的経験の記憶の質にも関連しているかどうかに関心がありましたが、それはそのような記憶の質は目的意識がより良い精神的および肉体的健康に関連している理由の1つである可能性があるからです」

※「Florida State University」より引用


 米・フロリダ州立大学の研究チームが2021年8月に「Memory」で発表した研究では、目的意識が記憶の質にどのように関係しているのかを実験を通じて検証している。研究結果は目的意識が記憶の鮮明さと一貫性を向上させていることが示すものになっている。

 コロナ禍前の2020年1月と2月に約800人の参加者が認知処理速度を測定するタスクを行い、現在の人生の目的意識について自己申告した。そしてその後の2020年7月、研究チームは参加者がその間に味わったパンデミックに関する個人的な記憶を思い出して説明する能力を測定したのだ。

 収集したデータを分析したところ、人生の目的意識が強い参加者は、目的意識の低い参加者よりも、記憶によりアクセスしやすく、一貫性があり、より鮮明である傾向が浮き彫りになった。目的意識の高い人はまた、多くの感覚の詳細を報告することができて、一人称の観点から彼らの記憶についてより多く話し、記憶を検索するように求められた時にはより多くポジティブな感情を報告し、より少ないネガティブな感情を報告したのだ。つまりロックダウンの最中にあっても目的意識を失っていなかった人々は、隔離生活の日々の記憶がより鮮明で詳しく、ポジティブな感情を伴う記憶になっていたのである。

 研究チームはまた、抑うつ症状が記憶の鮮明な詳細を想起する能力にほとんど影響を及ぼさないことも見出した。抑うつ症状が記憶力の低下を招いているわけではなかったのである。

 今回の研究で記憶力は単なる認知機能の能力の問題ではなく、目的意識を持って日々を送るという“生活態度”によって大きく左右されるものであることが示唆されることになった。

 定年退職後は急に老ける人もいれば活力を取り戻す人もいるというが、目的意識を失ったことで老化が加速するケースも少なくないのだろう。それだけ目的意識が重要であるとういことだ。

ケバブ丼を味わいながら記憶に残る旅について考える

 金属棒に刺さった大きな肉の塊が店先のキッチンに鎮座している店があった。もちろんケバブの店だ。久しぶりにケバブを食べるのもいいだろう。テイクアウト利用が多い店のようではあるが、中でも食べることができるようだ。入ってみよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 若い外国人の店員さんに挨拶をして店内に入る。短いカウンターとテーブルが3つほどある質素なインテリアだ。先客がカウンターにいたので、テーブル席に着かせてもらう。

 テーブルに備わっていたメニューをサッと一通り眺めるが、頼むものは決まっていた。ケバブ丼だ。テイクアウトしてどこかで食べるのであればケバブサンドになるが、中で座って食べられるなら個人的にはケバブ丼の一択だ。さっそくケバブ丼を甘口ソースでお願いする。

 店内の壁に額に入ったイラストが飾られているのだが、都市の景観を描いたそのイラストには英語で「アゼルバイジャン」と記されている。アゼルバイジャン料理店ということになるのだろうか。そうだとすればもちろん人生で初めての体験だ。

 さっそくケバブ丼がやってきた。切り落とした鶏肉の上にクリーミーなソースがかかっていて見るからに美味しそうだ。テーブルにはティッシュやウェットティッシュ、割りばしとプラ製スプーンが用意されている。手に取った割りばしを割ってさっそく口に運ぶ。マイルドなソースはコクがあって口当たりがよく食が進む。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 2口、3口食べたくらいでは量は全然減らない。ボリュームもじゅうぶんである。ゆっくり食べることにしよう。

 アゼルバイジャンにはもちろん行ったことはないが、“宣言”も明けたということで、これまでの自粛生活の反動もあり例年よりも人々に旅行が意識されてくるのではないだろうか。

 今くらいの時期に訪れたことのある場所として、いい旅だったなぁと個人的に思い出されてくるのは福岡だ。それ以前にも何度か福岡を訪れていたのだが、いい旅だったと思い返すその福岡旅行では事前のプランを練るのを怠らなかったのだ。

 それまでのけっこう行き当たりばったりな旅を反省し、「九州国立博物館」と「福岡市博物館」をじっくり見物をすることを2本の柱にして飲食で訪れる店もあらかた決めてから巡ったのである。

 行き当たりばったりで得られる“セレンディピティ”こそが旅の醍醐味であり、細かいスケジュールを組むことに異を唱える見解もあるのはじゅうぶんに理解できるのだが、この時の福岡旅行のように自分で計画した旅はやっぱりよく憶えているものである。旅では偶然に見聞きして思いがけずに素晴らしい体験をすることもあり、そうした“セレンディピティ”は一生忘れることのない貴重な体験になるが、ではその旅が全体的にどんなものであったのかはまた別の話になるのかもしれない。

 今回の研究に従えば、自分で計画して“目的意識”を持って臨んだ旅は、やはり記憶に残るものになっているのは間違いないように思える。気を抜くことなく旅を続けることで、時間がより濃密になっていたともいえそうだ。

 さて、ボリューム満点のケバブ丼も終わりが見えてきた。今回のように何かのきっかけで過去の記憶がよみがえってくることもあり、それはそれで感慨深いものがあるのだが、思い出に浸ってばかりいても仕方がないのだろう。この店のように、これまで入ったことのない店に入ってみるなど新たな体験をこれからも重ねていきたいものである。

文/仲田しんじ

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