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【Licaxxxの読書×鑑賞文・第4回】村上春樹原作の映画とチェーホフの演劇について感情的に綴る

2021.09.26

■連載/Licaxxxの読書×鑑賞文【第4回】村上春樹原作の映画とチェーホフの演劇について感情的に綴る

映画『ドライブ・マイ・カー』とチェーホフ『かもめ・ワーニャ伯父さん』(訳:神西清)

映画『ドライブ・マイ・カー』を見た。注目の邦画として気になっていたが3時間の長編、気合いを入れて何もない日の昼に見にいく。コロナ禍で座席が半数とはいえ平日にも関わらず、大きめのスクリーンがほぼ満席状態だった。公式サイトにはこうある。

――数々のベストセラーを生み出してきた作家・村上春樹による、珠玉の短編小説「ドライブ・マイ・カー」。妻を失った男の喪失と希望を綴ったこの作品に惚れ込み映画化を熱望、自ら脚本も手掛けるのは、いま世界が最も熱い注目を寄せる濱口竜介監督。(中略)

これまで、圧倒的な脚本力と豊かな映画表現で、人間がもつ多面性や複雑な感情をあぶりだしてきた濱口監督。本作では原作の精神を受け継ぎながらも、「ワーニャ伯父さん」、「ゴドーを待ちながら」という時代を超えて愛されてきた演劇要素を大胆に取り入れ、ストーリーと映画内演劇が重層的に呼応しあう驚異的な物語を紡ぎだした。さらに広島・東京・北海道・韓国などのスケール感あるロケーションと、名手・四宮秀俊撮影による美しさと厳しさが溶け合う映像美は観る者を魅了し、物語へと引き込んでいく。(『ドライブ・マイ・カー』の公式サイトより引用)

そして書かれている以上のことが起こっていた。ロードムービー的でもありながら、俳優たちの演技にリズムによって緩急が付けられ、3時間を全く感じない速度調整。渋い俳優チョイス、何と言っても脚本の作り方や映像の編集に至るまでどこまでも好みの要素が詰まっており…、これは個人的な記録としてここに勝手なことを書き残したい…と思ったので今回はこの映画と、物語と呼応する演劇であるチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を改めて読んで、どう被ってくるのか。それを検証的にというよりは感情的に綴っていきたい。

まずはあらすじを。あ、あらすじより先は内容に触れる部分があると思うので、ネタばれが気になる人はぜひ映画を見てから読んでください。

――舞台俳優であり演出家の家福(かふく)は、愛する妻の音(おと)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう――。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿をオーディションで見つけるが…。

喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。

人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さ、生きることの苦しさと美しさ。最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは――。登場人物が再生へと向かう姿が観る者の魂を震わせる圧巻のラスト20分。誰しもの人生に寄り添う、新たなる傑作が誕生した。(『ドライブ・マイ・カー』の公式サイトより引用)

この広島での演劇祭で上演される作品がチェーホフ作『ワーニャ伯父さん』だ。チェーホフはロシアを代表する劇作家。『ワーニャ伯父さん』は1897年に発表され、1899年ににモスクワ芸術座で初演された。『桜の園』、『かもめ』、『三人姉妹』と並び、チェーホフの四大戯曲と呼ばれる作品のうちのひとつだ。日本でも色んな演出家や劇団が上演している。私がこれを知ったのはかなり最近、6年前くらいから友人の勧めで京都に拠点を置く「地点」という劇団の公演を観に行くようになってからだ。「地点」はいわゆる皆が想像する演劇のスタイルではなく、多様なテキストを独自の手法で再構成・コラージュして上演される。俳優の声と身体を通し、言葉の抑揚やリズムをずらす独特の発語など、意味から自由になった言葉の往来を体験するものだ。そこで扱われる題材としてチェーホフの作品も多数あった。ぶっちゃけ元ネタを知らないままチェーホフのコラージュを見ていた私は流石に訳わからないな、となりチェーホフ作品を演劇人ではないが読むことになるのだ。

さて、『ドライブ・マイ・カー』の中で上演されている『ワーニャ伯父さん』はというと、国際演劇祭ということで韓国手話を含む6カ国語?(他の演目も含めるとこの映画には9ヶ国語出てくるらしい、あやふやですみません。)ぐらいのアジアの言語の多言語劇となっている。まさに意味が通った言語というだけではない、俳優同士の呼吸やグルーヴが存在し、さらにカメラで捉えているのも映画内演劇ならではで面白い。エンドクレジットでこの映画の協力に地点が入っており、また安部聡子さんら地点所属の俳優も出演しているので、地点からチェーホフに踏み込んだ私としては勝手な合点、そして「この感じ!なんか感じたことある!」的な高揚感を感じる。

劇中では、練習のためのテープや、練習のシーン、舞台のシーンなど印象的なシーンが多数『ワーニャ伯父さん』を演じるセリフで語られる。セリフが直接登場人物の人生と重なってくるところもあれば、俳優の演技力でもってしてチェーホフ演劇の再評価を見たり、悲劇という点を描いたり。色んなレイヤーで重なったりそうでなかったりしているところが非常にやられた。ワーニャ伯父さんは悲劇のようだが喜劇的で、苦悩するなんでもない主人公は最後に死んだりしない。もう生き抜いていくしかないという結論になる話だ。劇中の登場人物の、絡み合っていく如何しようも無い事実と現実、それを紡ぎ出す人間の関係性。また現代とリンクさせることと、物語を切り取ることで1800年代に書かれた本でありながらロシアの古臭い時代背景を加味せずに『ワーニャ伯父さん』の再構築として観れるのも面白い。(元々派手な悲劇のヒロイン的な人物は出てこず、自分ごとで悩んでる人が多く出てくる。古典演劇を見ている、という感覚ではなく映し鏡のような演劇と思う。)『ドライブ・マイ・カー』と『ワーニャ伯父さん』のどっちの意図も外れていない2本がしっかり再構築されている作品だった。これは見終わった後、なんてかっこいい脚本なんだ…と純粋に思ってしまった。その他、語りきれませんが私も3回目を映画館に行こうかと思っています。ぜひ皆さんも3時間の旅に出てみてください。

今回の映像×本

『ドライブ・マイ・カー』
・公式HP:https://dmc.bitters.co.jp/

『かもめ・ワーニャ伯父さん』
・詳細ページ:https://www.shinchosha.co.jp/book/206502/

文/Licaxxx

Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は50万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、近年ではChika Kisadaのミラノコレクションに使用されている。
https://twitter.com/Licaxxx
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編集/福アニー

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