
■連載/あるあるビジネス処方箋
今回は、新卒や中途の採用試験の大切な視点である「職場への入り方」について考えたい。例えば、この連載で最近、倉庫会社でアルバイトをした経験を紹介した。
『倉庫会社でのアルバイト経験を通じて伝えたい「フリーランス」という生き方の真実』
『倉庫会社でアルバイトをして見えてきた「パワハラ」を生み出す構造』
『倉庫会社でのアルバイト経験で感じたフリーランスが陥りやすい罠』
ご覧になっていただくと、私がこの職場に明らかにマッチしていないことがわかるだろう。アルバイトの場合、マッチしないのが、ある意味で当然なのだ。仕事の内容や量、レベル(難易度)、方法、時給、勤務日や時間、勤務開始日、勤務期間が事前に明確に決まっている。通常、他部署への異動は少なく、配属部署の歯車として動くことが強く求められる。正社員よりも、その傾向が強い。はるかに年下の、頼りない正社員であろうと、立場や職位はアルバイトよりは上のケースが多い。
従って、採用時にこれらの点できちんと「ハマる」ことができない人は不採用になる可能性が高い。最下位の立場で単純作業(実際は複雑な作業もある)に徹することができる人が評価される場合が多い。
例えば、前述の倉庫会社ではアルバイトは男性で、20~30代が多かった。あるいは、本部センター(1日で1000~1500人程の仕分け要員のアルバイトが勤務する)では、外国籍の留学生が全体の7割を占める。残りの3割のほとんどが日本人男性で、女性は数えるほどしかいない。平均年齢は、アルバイト全体で30代前半。これらも、おそらく採用時に「ハマる」人を選んだ結果なのだろう。
ここからが人事のあり方を考えるうえで大切なのだが、この採用方式を中小企業やベンチャー企業が正社員の新卒時採用に導入しているケースがある。結論から言えば、エントリーしないほうがいいと強く言いたい。
こういう企業は、エントリー者の入社後に担当する仕事の経験やそれに関する経験、資質、適性が、入社後の仕事やその内容、レベルと合うか合わないかを見ているのだ。文化、社風、経営体質、人事・賃金制度、労使関係、社員の質や教育態勢、既存の社員との人間関係がマッチするかを確認するならばいい。なにゆえに、新卒者の入社後に担当する仕事の経験やそれに関する経験で採否を判断しようとするのだろう。そもそも、採用試験時は卒業見込み者であり、学生なのだから、「経験」なんてたかが知れている。
だからこそ、一流大企業やメガベンチャー企業は母集団形成に念入りに取り組み、その中から厳選をして内定を出す。経験や資質、適性に加え、文化、社風、経営体質、人事・賃金制度、労使関係、社員の質や教育態勢、社員との人間関係にまで広げて総合的に判断する。
結果として、マッチする人を採用する確率が高まり、中小企業やベンチャー企業に比べると新卒者の入社3年間の定着率は高くなる。30代になると、双方の差は歴然とする。退職者が少ない、いわゆる密度の濃い競争の空間になるから多くは仕事への姿勢がよくなり、吸収するスピードが速く、精度が上がる。比べるまでもなく、一流大企業やメガベンチャー企業の採用システムが優れているのだ。人材の質も、総じて優れている。
しかも、中小企業やベンチャー企業は正社員数が少なく、規模が小さい。部署も少ない。「上手くいかないから」といって人事異動させることが難しくなる。挙句に、管理職の部下育成力は一流大企業やメガベンチャー企業と比べると、相対的に低い。それも無理はない。新卒時の入社の難易度が低く、定着率は概して低い。10~15年在籍すると大半が管理職となるが、昇格後に研修すらないケースが多い。「教える」といった文化や態勢には十分になっていない場合が多々ある。こういう中で、部下育成力が一定のレベルを超えるのは難しい。
結局、管理職は新人を数か月~1年で「使える、使えない」と判断するようになる。まさに、アルバイトのように扱う傾向がある。正社員とアルバイトの採用の区別すら、十分にはできていない企業は確かに実在する。言い換えると、アルバイトと正社員それぞれの意味や役割すら認識できていないのかもしれない。あるいは、「即戦力」「早期選別」といった言葉の意味を正しく心得ていないとも考えられうる。
本連載で紹介したが、大切な情報であるので繰り返し掲載したい。下記は、厚生労働省が新卒入社で3年以内に辞める「離職率」を規模別(従業員数をもとに区別)に年ごとにわけたものだ。社員数が少なくなると、新卒者の入社3年間の離職率が上がる。「499人」のところで壁があり、それよりも小さくなると、高くなる。「99人」以下では大量に辞めている。こういう深刻な事実がありながら、マスメディアや有識者が中小企業やベンチャー企業の新卒採用を問題視しないのはどうにも解せない。
出典:厚生労働省の調査(新規大卒就職者の事業所規模別就職後3年以内※の離職率の推移)
文/吉田典史