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異物としてでも世界とつながっていたい…「女(じぶん)の体をゆるすまで」の著者・ペス山ポピーが絞り出した言葉

2021.09.04

下巻P5より

 

※こちらの対談は【後編】です。本稿のみでもお楽しみいただけるよう構成されていますが、ぜひこちらの【前編】と併せてお読みください。

ペス山ポピーさんはエッセイマンガ『女(じぶん)の体をゆるすまで』の中で、自身がトランスジェンダー(Xジェンダー/ノンバイナリー)であることへの悩みや、過去に体験した壮絶なセクハラ・パワハラに向き合い続けたエピソードを描き、大きな話題を呼んでいる。

今回、小学館ノンフィクション大賞で注目を集めた、自分自身を取材したノンフィクション『男であれず、女になれない』著者の鈴木信平さんを聞き手に迎えて、男女に二極化しがちな社会、そしてパワハラやセクハラなど、やっと変わりつつある歪だった社会通念について語ってもらった。人によってはタブー視することもあり重たい話題にもなりがちだが、対談は和気あいあいとした雰囲気で行なわれ、喋りも喋って約2時間……その内容を、前後編でお送りする。

ぺス山ポピー/自身の性的嗜好と初恋を描いたエッセイ『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』(新潮社)、通称『ボコ恋』でデビュー。ジェンダー・エッセイコミック『女(じぶん)の体をゆるすまで』(小学館)の上下巻が2021年7月30日発売。

鈴木信平/2016年、『男であれず、女になれない』で小学館ノンフィクション大賞の最終選考に選ばれる。翌2017年に同作を刊行。幼少期からの性の不一致に対する苦悩と、36歳で造膣せずに男性器を摘出する決断に至るまでの出来事を一冊にまとめた同作では、自身のセクシュアリティを「その他」と述べている。

”周りと同じ”じゃなくていい

鈴木信平(以下、信平) 今回、ペス山さんの漫画を読む機会をいただいて、「勉強になった」というのが正直な感想でした。

 というのも、私は体は男性として生まれましたが、かといって女性への適合手術を受けるという選択を取らず、男性器を切除することで自分自身に”決着”を付けました。そういった立場から、今回ペス山さんにお話を伺う機会をいただけたわけですけど……全然違うものですね。

 それでも、トランスジェンダーという大きな枠ではわかる部分がたくさんありました。例えば下巻の129ページにある〈「異物」としてでもそこにいられる〉っていう言葉。本当に「これはすごくよくわかる!」って感じましたね。私は、周りと”同じもの”として存在しているということに関しては、どこかで諦めたのか、どこかで手放したのかはわからないけれど、「一緒」という部分で繋がろうとは思っていないところがある。「異物」って言葉は私からは出なかったワードだけど、パワーワードだなって思いました。

大人になり、生まれて初めて美容師にオーダーした”ボーイッシュな髪型”で自動車学校に通った著者。見た目の変化とともに、周囲の配慮にも変化が生じた(下巻PP128-129より)

ペス山ポピー(以下、ペス山) パワーワードは、私の方が信平さんの本の中からたくさんいただいた気がします。信平さんの本を読ませていただいて、何度か涙が溢れてきました。

 特に〈私が私のままで認められて生きてきたことが少なからず影響しているのでしょう。私はすでに人生を肯定され過ぎているのです〉というところがすごく印象に残っています。私も、これまでの人生とか、この女性の肉体で生きてきた愛着みたいなものは生まれてきています。私は「女であれず、男になれない」だったら、めちゃくちゃしっくりくるって思えて、すごく嬉しかったんです。

信平 ありがとうございます。今回、私は聞き手でペス山さんのお話を伺う機会のはずなのに……嬉しい(笑)

整理できたことで、自分の性を「ゆるせた」

信平 タイトルに「ゆるす」ってワードがありますよね。最初に読んだ時からすごく印象に残っているんですけど、先程お話された「ババ抜き事件(前編参照)」とも繋がりますか? 女性をゆるすといいますか……。

ペス山 はい、繋がる部分はあると思いますね。高校生当時の私は、美術部の合宿でピンクのフリフリメイド服の着用を強要された以外にも、色々なことが積み重なってまぎれもない女性嫌悪でした。

 それで高校卒業のときに美術部の女子の連絡先を消したんですけど、結構仲が良かった男子2人の連絡先も消したんです。2人の男子は、ババ抜き事件のときに「ペス山が嫌がってるなら(メイド服を着なくても)いいじゃん」って言ってくれたんですけど……たまにその男子2人と私で一緒に帰ることがあると、彼らは女性の悪口ばかり言っていたんです。「女は見た目さえよければ金持ちの男と結婚して稼がなくていいよな」とか、そういう類の話。

 それで、「さっきまで部室で女子と仲良く喋っていたのに、友達を差別してんじゃん」「私が持っている体の性別を差別してんじゃん」って感じたんです。男性も女性もいい人はいるってことは頭ではわかっているんです。でも、こうしたことが色々積み重なって「男にもなりたくないし女もやだわ」となってしまった。

信平 性別を持っているヤツみんな嫌だわ、みたいな感じかな? それは敵の数が多すぎて、生きていくのがなかなか大変ですね。

ペス山 それが高校生の時、18歳くらいです。その後、漫画でも描いたように20歳くらいでセクハラ受けたことで両性への嫌悪感に拍車がかかりました。それから今までの7年間くらいは、男性に対する嫌悪、女性に対する嫌悪、自分の身体に対する嫌悪とか、ぐちゃぐちゃになっているいろいろなものを、ひとつひとつ分けて整理する期間だったなって思います。

信平 紐解いて、ばらばらにして、これはこっちだから、これとこれは自分の性自認とは関係の無いことだなとか仕切りをつけていくんですね。それこそ、女性が嫌なんじゃなくて、こういうことをしてきた相手の悪意が嫌だったとか、ひとつずつ納得してって感じだったのね……。随分と難易度が高いことをされていたんですね。……本当にお疲れ様です。

ペス山 あはは! 信平さんも。お互いお疲れ様ですね。

つらかった日々を過ごした”過去の自分”に対して著者は優しく語りかける(下巻P116より)

わかるようで他人のことはわからないことばかり

信平 今回の作品は、本編はもちろんだけれど、番外編に描かれているテレビに関する話題も大事な話が詰まっていると思っているんですよね。

ペス山 芸人さんの話ですね。

2016年に放送されたテレビ番組中で、戸籍が女性のトランス男性に対して司会の芸人が放った言葉。著者は「もっとちゃんと知ってほしい」とショックを受けた(下巻P153より)

信平 どこかで人間って、自分に関係がないと思っているところにはアンテナがあまり立たなかったりするじゃない? 私、『窮鼠はチーズの夢を見る』を観て、すごくいい映画だと感じたの。私が学生の時、自分のアイデンティティが見つからないままに男性を好きになって、それが認められなくてふざけた人になっちゃう感じとか、すごくわかるって思ったし、いわゆる同性を好きになったときの振る舞いとして、ちょっとこういう感じあるよねって思った。

 だけど、周りのゲイの子たちは怒っていた。「あんなイカれたキャラクター設定してもらっちゃ困る!」と。「こっちは日常を送っているのに、ゲイをあんな形でひな形化していくな!」って怒っていた。

 反面、多方面で絶賛された『ミッドナイトスワン』を観て、私は首をかしげる部分が少なからずあった。

 今の自分がどこに所属しているかで感覚とか見ているものって全然違うんだなぁって思いましたね。

ペス山 それに近いことが私の身近にありますね。私には、けも美とアメンホテプという友達がいるんです。性格的に『ONE PIECE』のボン・クレーの役とか、おかま的な演技をがっつりできる子。ものまねもするし、みんなの前で美川憲一さんの「さそり座の女」も歌ってみせる。その時代のテレビ界のエンタメで求められていた”ゲイ像”を完全に体現できる子で、周りをいじる側の子だった。

現在も交流があるという小学校の同級生のけも美とアメンホテプ(上巻P90より)

 でも、けも美は全くそれができなくて、気も優しくて、すぐ泣いちゃう感じの子でした。この2人が子どもの頃からずっと私の側にいたけど、この2人でさえも全然違っていた。私はアメンホテプから19歳のときに「そろそろ女になりなよ」って言われて傷つきましたが、一方で、私がけも美に対して「お前腕力だけは男だからな」って言って笑ってしまったりと、親しくて仲が良い3人の中でも無理解は普通にある。立場の違いの中で、全然わかりあえていない部分があるんです。2人を同じゲイって言っていいのかもわからない。アメンホテプはゲイって自覚はあるらしいけど、けも美はどんな感覚なのか私にはわからない。

信平 けも美さんが女の子として男性を好きだったら、ゲイではないものね。わからないだけじゃなく、こっちも偏見というか、誤解というか……生活の中で、押し付けをすごくしている自覚はやっぱりありますね。

ペス山 そうなんです。悪意がないままやってしまうことがある。私がけも美に腕力の話をしちゃうのは、羨ましいから言っちゃった。でも、言って5秒ぐらいたってすごく傷つけただろうなって気づくんです。

信平 ペス山さんの言葉の裏には、筋肉があっていいねってことがあるんですよね。でも、けも美さんはそれがほしい人じゃないかもしれない。

ペス山 その通りです。言っちゃって悪いってなるけど、既に口からは出ちゃっていて、カットはできなくて……。

読んで「不安」になってもいい

信平 最後に「私はこれからも世界と繋がりたい」ってありましたが、いろんな意味を持っている言葉だと思うんです。ここに込めた思いを聞きたいです。

ペス山 うまくお伝えできるか自信がないんですが……。小さい頃から、世界と繋がれていない感はありました。私ADHDでもあって。これを言うと、また問題が山積している感じになりますよね。学生時代、性自認の不安というか定まらなさと共に、教科書とか宿題とかとんでもない忘れ物をしたり、困って貸してもらったりと、先生にも嫌われていたと思うんです。連れてこられた宇宙人みたいな感覚ですね。劣等感みたいなものもすごくありました。

信平 さきほどお話された”異物感”とは表裏一体?

ペス山 そうですね。ジェンダーとは関係ないので漫画には描かなかったんですが、小5のときにつらい経験したんです。

 友達はいないし、コミュニケーションも苦手で、当時の私は班分けとかをすると余ってしまう。仲間に入れてと言う勇気もなく、一人でいるのを見つけてもらうのを待っているような感じでした。ある時ひとつのグループが、「ペス山おいで」って気を使って声をかけてくれたんです。私は「やり玉にあげられず済んだ! 平和だ!」ってなって、そのまま何ごともなく終わるかと思ったんです。

 でも、帰りのレクリエーションのときに先生から「ペス山さん立ってください」と言われました。「さっきの班分けのときに、ペス山さんが余っていましたね。そのあとに〇〇ちゃんがあなたのところに来てあなたのことを仲間に入れてあげたけれど、今どんな気持ちですか?」って聞かれたんです。

 先生は私に「嬉しいです」とか「あったかい気持ちになりました」みたいな返事を期待していたのでしょう。他人に感動を強要する感じで私の存在を使われたので、この先生が本当に許せなかった。私という一人の人間を、教材という物扱いしたことに腹が立った。異物としてでも、人としてそこにいさせてくれよと強く思ったんです。

信平 相手のことをこうだと決めつけないとか、わかった気にならないってことが本当に大事だと思う。漫画の中でも、ペス山さんについてきっとこうだろうっていうのを相手が決めて、それを勝手に取り扱っていくことに対して、すごく拒絶反応を示していますよね。

ペス山 確かに外から見ると、私のことは変に見えるかもしれないです。そこに決めつけとか悪意が言葉や行為に乗ってくることがたくさんありました。

 でも、仮に相手の言葉の中に性自認に対する誤解があったとしても、悪意がなければゆるせるんですよね。人としての素朴な疑問とか、そういうことはいくらでも聞いてくれていい。でも、この異質な感じを辱めたり、自分の利益のために使われたり、それこそ女性性に対して悪意をもって近づいてきたりされるのは本当に辛いし嫌です。

信平 この本はセクシャリティに何かを抱えている人だけでなく、広くいろんなひとに読んでほしい。そして、この本を読んで「不安になってほしい」って思いました。

 わからない部分があったら「なぜわからなかったのか?」と不安になってほしい。もしかしたら、自分が過去になにかしてしまったかもっていう不安もあるだろうし、性自認的なところで当事者かもと不安になることもあるかもしれない。でも、この漫画から感じる不安は、必要な不安なんだって思ってほしいなって。

 読んで不安になると同時に、生きていくうえでなにかしら不安って気持ちはあっても大丈夫だよっていうことも私は感じました。本当に、こういうことに気づける漫画が今の世の中にあるっていうのは、すごく未来は明るいなって思いました!

ペス山 そんな素敵な言葉をいただけて嬉しいです。

取材・文/田村菜津季

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