
■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は8月2日にサービスを開始した「Windows 365」について話し合っていきます。
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マイクロソフトの新たな試み! Windowsはクラウドサービスになるの!?
房野氏:先日、クラウド版サービスの「Windows 365」をマイクロソフトが発表しました。8月2日より提供開始ですが、まずは具体的にどういったサービスなのか教えていただけますか。
法林氏:基本的な考え方としては、いろいろなデバイスからクラウドにアクセスすると、そこでWindowsが動いていて、Windowsのアプリが使えますという話。今回は法人向けの話なので、個人利用では関係ありません。
今使われているWindowsでは、外からのデータをどう持ち込むか、セキュリティは安全なのか、PCスペックはどうしたらいいといった問題もあるので、Windows自体をクラウド上に置いてしまってはどうだろうという試みですね。
石川氏:面白いなと思ったのは、テレワークの時代にWindowsそのものをサービスとしてクラウドで提供するという試みですね。モバイル的な視点でいうと、5G通信を活かしたサービスが少ない中で、基地局の近くにサーバーとWindows 365のベースを置いて、超低遅延の通信を活かしてWindowsが使えるようになるといいかなと思っています。今後キャリアとマイクロソフトが手を組むとどんどん面白くなるのではないでしょうか。
石野氏:そういう意味だと、法人だけとはいわず個人向けにもWindows 365を提供してほしいとも思います。iPadとかChromebookでもWindowsが使えるようになるといいですよね。
今のままだと一部法人向けパッケージみたいになってしまっているので、どこまで広げるのか。PC自体の売り上げなどにも関わる部分なので、パッと広げるわけにはいかないでしょう。
こういったシンクライアントみたいな話は、LTEが始まる頃にもあったのですが、今の時代でいよいよ現実味を帯びてきたなと思います。
石川氏:Windows 365のプロモーション動画を見ていて思ったのは、飛行機の中で使っているシーンが映っていて、機内のようなネットワーク環境でも使えるのかなって疑問に思っています。
法林氏:そこでHAPS(成層圏に飛行させた航空機などを通信基地局のように運用し、広域で通信サービスを提供するシステム)を使うんじゃないかな(笑)
石川氏:将来的にそういう世界になれば繋がるのかもしれませんね。
法林氏:90年代の終わりに、ネットワークコンピューターが提唱された時代があった。これは簡単なセットトップボックスを用意して、そこからネットワークにアクセスしてデータのやり取りをすればいいよねっていう話でしたが、当時は通信速度が遅いし、常時接続ができないといった問題があった。
この取組は何度もトライ&エラーを繰り返してきたんだけど、通信の速度も速くなってきたので、当時、思い描いていた世界が現実になってきた。じゃあ何を動かそうか、Windowsですという流れ。ごく自然な流れではありますが、Windowsをサービスにするというのは面白いですよね。
石川氏:これが快適に動くかどうかは実際に触らないとわかりませんね。マシンパワーも選べるようなので、普段は軽めのものを契約しておいて、動画編集などをする際にはハイスペックなものに切り替えるといった使い方ができるのも面白い。
法人としては今後PCをどう買うのかという話だし、メーカーとしてはWindows PCをどう扱っていくのか、今後の展開も注目ですね。
石野氏:Windows 11の対応デバイスが結構限られているので、Windows 365が出てくると新しいPCを買う必要はなくなるかもしれないです。
石川氏:本当にそうで、安いChromebookでいいのかもしれない。GIGAスクール構想でデバイスは安いものを買ったけど、みんなで使う教材はWindowsってなるかもしれない。
石野氏:ただ現時点では個人アカウントでは契約できないんですよね。
法林氏:なんだかんだ世の中がそっちに向かって行っているのは事実なので、今焦らなくても将来的にそうなっていくと思う。まずはWindows 11がサクッと動く環境を作ることが大事かな。
石野氏:ChromebookとかiPad、Androidタブレットを活用する方法が出てきましたね。
Windows 365登場で働き方は大きく変わる?
房野氏:Windows 365は、純粋に“OS”といって差し支えないのでしょうか。
法林氏:OSがネットワーク上にあるというイメージですかね。
石野氏:要はブラウザ経由で作業することになるので、遠隔地にあるマシンで実行したWindowsの結果がこちらに送られてくる、こちらでクリックした動作などはネットワークを通じて向こうに届くという感じです。
法林氏:90年代のネットワークコンピューターはまさにそこで、ディスプレイとキーボード、最低限のメモリがあればいいから安く済むよね、世界中に普及すればみんな高いPCを買わなくていいよねっていうのが元の話。当時、この構想で追い詰められそうだったWindowsが今逆にやるっていうのも面白いところ。実際、それがどこまでしっかり動くかはわかりません。
石野氏:ただ、今でもバーチャルデスクトップみたいなサービスがあって、従量制のプランが用意されているので、技術的に真新しくはない。どちらかというとそれをパッケージにして、個人事業主レベルにまで使えるようにしたのが今回のポイント。このサービスを普及させようというマイクロソフトの意思を感じます。
房野氏:Windows 365を使う上でマシンに求められるスペックはありますか?
石野氏:基本的にブラウザで動くので、手元のブラウザとしてはHTMLファイルが動かせる最低限のブラウザがあればいい。ChromebookとかiPadでもいいでしょう。
石川氏:一応推奨環境みたいなのはあって、インチ数の指定などはあります。
石野氏:指定しとかないとスマートフォンで使う人が出てきそうですからね(笑) 要はWindowsを動かすためのCPUとかメモリなどは全部クラウドにあるので、端末スペックはたいしていらないです。
法林氏:計算はクラウドでやるけど、問題は入力も含めて結果を表示するためのものが必要。だからキーボードとマウスやディスプレイ、最低限のメモリやキャッシュはいるでしょう。
石野氏:実際今でも、やろうと思えばWindows PCを持っていればiPadなりChromebookをリモートデスクトップで接続して、遠隔地からWindowsを動かすことも可能。これのクラウド版と考えればいいと思います。
房野氏:極論モニターとキーボード、マウスさえあればいいんですかね。
石野氏:そういうことになりますね。テレビにキーボードをつなげれば使えたりします。あとはクラウド上にあるのでCPUやGPUの性能を用途に合わせて上げ放題になる。
小さいタブレットだと動画の処理などは厳しいですが、マシンの処理という意味ではデバイスの性能を問わなくなるため、可能性は広がりますよね。
房野氏:クラウドストレージはどの程度利用できるのでしょうか。
石野氏:512GBまで選択できるみたいですね。CPUは最大8コア、メモリは最大32GB、ストレージは512GBで選択できる形ですが、まだ値段が出ていないのでいくらなのかわかりません。ただ、結局動かす側にもブラウザは必要、となるとOSは必要なので普通のWindowsがなくなることはなさそうです。
法林氏:ローカル側のPCスペックを豪勢にし続ける必要はなくなっていくっていうのが一番のポイントでしょう。企業視点で見ると管理がしやすいというメリットもありますね。
石川氏:Chromebookみたいにログインすれば元の環境が構築できるような状態になるので、デバイスは問わなくなりますね。あとは海外出張などの際に、ホテルにあるPCにログインすればそのまま使える状態になるかもしれません。
石野氏:それいいですね。そうなってほしい。
房野氏:Windows PCを作っているメーカーはどうなるのでしょうか。
石川氏:そこがまだ見えないところで、買い替え需要がなくなってしまうことも考えられるし、最低限のディスプレイとマウス、キーボードにブラウザが動くだけのものが売れていくかもしれない。
石野氏:めちゃくちゃいいキーボードとかマウスとかが極められていくかもしれないですね。
房野氏:Macはどうなっていくのでしょうか。
石野氏:Macは逆にブートキャンプしなくても良くなるので、M1搭載のMacでもWindowsが使えるっていう感覚になっていくんじゃないですかね。
石川氏:だからiPadであればキーボードも使えてWindowsも使えるよっていう流れになるんじゃないかな。結局マイクロソフトはSurfaceなどがあるといってもデバイスが大きな収入源ではないのでこういう動きができるし、逆にアップルはデバイスを売ってなんぼの会社なのでWindowsも動くiPadを売っていくんじゃないですかね。
法林氏:結局、Windows 365がどれだけ使えて、どれだけの企業が導入するのかによると思います。個人の話ではまだまだないのでね。
石川氏:OSを動かすならローカルにあったほうが結局便利って回帰する可能性もありますからね。
石野氏:現実問題でいうと、さっき石川さんがおっしゃっていた動画編集の話も、動画のデータがクラウドにないとどうしようもないし、アップロードするのにどれだけ時間がかかるんだという話なので、通信回線とか料金とかいろいろなバランスが取れないといけないです。
石川氏:ただこれを使おうとするとデータ通信は使い放題が前提となるので、キャリアにとってみるとルーターなのか内蔵PCなのかはわからないけど、5Gの使い放題プランを売りやすくはなるでしょうね。
石野氏:本当にキャリアにとってはいい商材ですよね。
房野氏:Windows 365のサービスが始まり、今後ビジネスパーソンの働き方はどのように変化していくとお考えでしょうか。
石川氏:テレワークがやりやすくなるとは思います。家のPCから会社のパソコンにアクセスできたり、出張先でもスマートフォンをホテルのテレビに接続、キーボードとマウスがあれば仕事ができちゃうような時代になるかもしれません。
いつでも会社の環境にアクセスできて、セキュリティもある程度担保されているとなると、ますますテレワーク化が進むと考えられますし、マイクロソフトもそこを狙っているような動画を作っていましたね。
石野氏:スマートフォンのデスクトップモードはいまいち流行らないですね。
石川氏:そう! そこが難しくて、自分もいろいろなメーカーのスマートフォンで試したけど、結局キーボードとマウスがないと快適に動かせない。となるとノートPCを持ち歩けばいいじゃんとなってしまう。
ただ、Windows 365でハードウエアに対するコストは下がるかもしれないし、結局ハードウエアのスペックは高いほうが仕事しやすいよねってなる可能性もある。
石野氏:結局スマートフォンのデスクトップモードを使っても、PCのデータが入っているわけではないので、大画面に出力してもPCのような使用環境をすぐには作れない。Windows 365ではこの問題をクリアしているので、本当にキーボードとマウスさえあればよくなります。
石川氏:だから出張先のホテルにキーボードとマウスが置いてあると快適に使えるかもしれない。
石野氏:今後のホテル業界には部屋の備品としてBluetoothのキーボードとマウスを用意するよう、客から求められるのかもしれませんね(笑)
法林氏:ホテルによっては、テレビのHDMI(接続端子)が塞がれていたり挿しても反応しないようになっているところがある。こういうのを改善していかないと、本当にリモートワーク、テレワークがしやすい環境は整いにくいかな。
石野氏:それ、なぜ塞がれているんですかね。
石川氏:ホテルのテレビって、専用のページが用意されていたりプリペイドカードと連携したりが必要なので意外と外部機器との接続の自由度が低いことが多いんですよね。
……続く!
次回は、LINEMOの「ミニプラン」について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦