
年収が変わらない、上がったのに手取り収入が減ったと感じないだろうか。税金、社会保険料の増加により給与から差し引かれる金額が上がり、会社員の手取り収入が減少傾向で、特に高所得者には顕著に表れている。
手取り収入減少の原因は?
2019年には3~5歳対象の幼児・保育が無償化、2020年から低所得世帯で高等教育の授業料減免など社会保障が拡充される一方で、高齢化社会とともに年金や介護を支える国からの支出(税金)が増えるとともに、その保険料(社会保険料)も増えてきている。
このような社会保障を支えるためには、税金と社会保険料の増加が余儀なくされるものの、広く負担を求めるのではなく、高所得のところからまず負担がいく。
そのため、年収800~1,000万円を超えるような高所得者には税負担の増加、さらには社会保険料の増加がみられ、手取り収入が減ったと感じているのではないだろうか。
所得が依然と変わらない、上がったのに手取り収入が少なくなったと感じるのであれば、それは税金と社会保険料の負担増が原因だと考えられる。
税負担の増加
所得税は累進課税といって、収入が上がるほど税率が上がるためそもそも高所得者の税負担は大きい。
さらに、令和2年分から給与所得控除の上限が引き下げられた影響は大きい。
給与所得控除とは、会社員の必要経費という意味合いだ。自営業の場合だと得られた所得から、その所得を得るためにかかった経費を引いた後の所得に対して課税されるが、会社員にはそのように経費を細かく計算しないので、一律に所得の過多に応じて一定金額を必要経費として引くことができる。
会社員の給与に課税される税金は、給与からこの給与所得控除を差し引いた金額(このほか社会保険料等も控除される)に対して課税されるため、この給与食控除が大きいほど課税される所得は小さくなる。
■課税される所得=給与収入-給与所得控除額
小=○-大
大=○―小
給与所得控除は収入金額の○%というように決まっているが、給与収入が一定金額以上になると上限がありそれ以上給与所得控除額が上がらない。
(参考)No.1410 給与所得控除|国税庁 (nta.go.jp)
令和2年分以降は、給与収入が8,500,001円以上は給与所得控除が195万円から増えない。
年収が増えるほど給与所得控除額は増えるべきであるところ、給与収入が900万円、1,000万円となっても給与所得控除額は増えないということになる。
この給与所得控除額は年々減少傾向、さらに上限に到達する給与収入の水準も低くなりつつある。
ちなみに、令和元年までは給与収入が1,000万円超えると上限220万円だったのが、令和2年からは給与収入が850万円を超えるだけで上限195万円となった。
令和元年までは給与収入が1,000万円の人は給与所得控除額が220万円だったのが、令和2年以降は195万円と25万円減少、給与収入850万円の人でも令和元年には給与所得控除額が205万円だったのが令和2年には195万円と10万円減少したことになる。
給与収入1,000万円の人の所得税率が20%だとしたら所得税が5万円の増税、850万円なら2万円の増税となっている。また、住民税においてもこの上限は同じであるため増税となる。住民税は令和2年分においては令和3年の6月から毎月の給与に反映されるため、6月から住民税が増えている。
社会保険料の増加
高齢化社会に伴い公的医療保険を支える健康保険料や年金保険料、介護保険料の社会保険料が年々上がっている。
会社員の健康保険には大きく分けて中小企業の従業員が加入する協会けんぽと大企業の従業員が加入している健康保険組合がある。協会けんぽの料率は都道府県毎に異なるが早くから平均10%になっている。一方、健康保険組合は、それぞれ企業ごとに従業員が支払う料率は異なるが、10年前の平均7.37%から2019年度の9.22%へと上昇した。さらに、健康保険組合連合会の試算では2022年には平均10.5%になるとしている。
なお、会社員は保険料を労使折半するため、料率の約半分を支払うことになり、実質2019年から2022年の3年間で0.64%上昇することになる。この料率は所得水準に応じてかかるため、所得が高くなるほどその金額が大きくなる。
例えば月額報酬が30万円であれば月1,920円増加し年間約2万円の負担増、月額報酬60万円であれば月3,840円の増加し年間約5万円弱の負担増となる。40歳以上であればここにさらに介護保険料がのしかかる。
今後高所得者には負担が強いられる
2021年6月に改正児童手当法が成立した。児童手当は所得制限以上の所得があると、こども1人につき一律5,000円の特例給付が受給できていたが、今回の改正で2022年10月から世帯主の所得が1,200万円以上あるとこの特例給付が打ち切られる。所得が1,200万円以上を超える世帯の子どもは61万人で全体の4%にしか満たないため、大きなニュースとはなっていない。
このように、今後も高所得者は差し引かれる税金や保険料の負担増に加えて、給付も減少し、手取り収入は減っていくことが考えられる。収入が増えたからといって単純に生活水準を上げて支出を増やすことは避けた方が良さそうだ。
(参考)
日経新聞 2021年2月4日 健保組合、従業員に二重苦 半数は負担割合上昇
日経新聞 2021年5月21日 改正児童手当法が成立 高所得世帯の特例給付廃止
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