コロナ禍により、多くの企業がデジタルにシフトする中、マーケティングにおいてもデジタル化が進み、特にSNSマーケティングに力を入れて取り組んでいる企業が目立っている。その中でも、すでに成功事例が増えている。果たしてどのようなケースで成功しているのか。今回は、デジタルマーケティングの中でも、SNSマーケティングの成功事例を食品とアパレルの2社にインタビューして紹介する。
カンロ「マロッシュ」がヒットした背景にSNS活用
1.新商品「マロッシュ」のSNS施策
カンロといえば、「ピュレグミ」などのグミ商品がSNSを通じて若年層の間で話題に上るなど、これまでSNSにおける実績が多い印象だ。そんなカンロが今年6月に、新たな商品を投入し、SNSマーケティングのおかげもあってか、ヒットした。
マロッシュは、口にした瞬間はグミの食感なのにもかかわらず、食べているとマシュマロに変化する新食感のお菓子。その不思議な食感からZ世代を中心に「ハマる」という声が多く上がるなどしてSNSを中心としたネット上で話題になり、マロッシュの2021年6月の販売計画比は225%を達成した。
このヒットの背景には、どんなことがあるのか。実施したSNS施策について、カンロの広報担当者に聞いた。
「マロッシュは食感の変化が特徴の商品ですので、実際に食べて、試してみたいという気持ちをいかに醸成させられるかがポイントになると考えていました。
SNS施策では『15秒でマシュマロになるグミ?』をコミュニケーションメッセージとして、“興味・関心”につながるように意識しました。SNSの特徴を生かすため、一方的なメッセ―ジではなく、お客様が体験したくなる余白を残すように、WEB動画、SNSキャンペーン、インフルエンサー施策の3つの施策を重点的に行いました」
(1)WEB動画
「マロッシュ計測官に扮する俳優の柄本佑さんが、マロッシュを口に入れてからマシュマロ食感に変化するまでの15秒を計測するストーリーの動画を、WEB CMとして配信しました。動画を見た後はもちろん、改めて動画を見ながらマロッシュを試したくなるような演出にしました」
(2)SNSキャンペーン
「柄本佑さんに言ってもらいたいコメントをTwitterで募集し、当選者には柄本佑さんからのコメント動画をプレゼントする、夢のキャンペーンを実施。限定感の強い内容にすることで、能動的な投稿から話題化を目指しました」
(3)インフルエンサー施策
「TwitterとInstagramのインフルエンサーに、PR投稿を行っていただきました。ターゲットのエンゲージメント率が高いインフルエンサーから投稿いただくことで、トライアルを促し、周りに勧めるというユーザーの関心を広げる施策にしました」
2.コロナ禍におけるSNSマーケティング
特にコロナ禍において、SNSマーケティングをどのようにとらえ、どのような工夫をしているだろうか。
「コロナ禍においては、お客様とのリアルでの接点を持ちにくくなっているため、SNSマーケティングは一つの手段として有効だと考えています。弊社が取り扱っている商品は、店頭での“ついで買い“も多いため、来店者数や滞在時間が減少すると購入機会が減ってしまいます。そのため、コロナ禍では、店頭時点では認知や好感度を高めるだけでなく、商品への関心を高めて”目的買い”してもらうことも重要だと考えています。そこで、商品特徴や食シーンなどの情報をターゲットに合わせて提供することで、購入への関心を高められるように試みております。
前述のマロッシュでも『体験したい』という気持ちを醸成することで話題になりましたが、他にもカンロ飴を料理に使用する『カンロ飴食堂』の施策もSNSでの露出を高め、キャンディを料理に使用する意外性から体験してみたいという関心を高めることができています」
3.2021年下期は新デジタルプラットフォームを展開
2021年上期は新型コロナ感染拡大の影響を受け、生活様式が大きく変わっていく中、カンロは商品開発やブランド戦略に注力し、人々のニーズや利用シーンに合致した商品を展開した。
2021年下期は、経営方針の一つである「デジタルマーケティングの推進」の一環として、新たにデジタルプラットフォーム「Kanro POCKeT(カンロ ポケット)」を8月5日にオープンした。
Kanro POCKeTは複合型オウンドメディアで、従来のような商品情報やブランドサイトだけでなく、オンラインショップ機能を拡充したインタラクティブなプラットフォームである。今後は、カンロ商品についての認知から購入まで、特別な体験ができる場所を提供していくという。
お客様サポートページを強化すべく、FAQの充実や24時間対応のチャットボットなどを整備し、双方向のコミュニケーションを実現。今後は EC専用商品や既存ブランドのEC展開なども予定しており、 ここでしか購入できない商品や体験を提供する予定だという。
Kanro POCKeTでは、SNSをどのように活用していくのだろうか。カンロの広報担当者は次のように話す。
「Kanro POCKeTには通販機能だけでなく、商品ブランドサイトも含まれるため、各商品ブランドのプロモーション等ではSNSを積極的に活用していきます。ECにおいては、SNS広告といったEC的な販売促進の手法、InstagramとEC機能そのものを連携させること、自社SNSアカウントとのキャンペーン連動を行っていく予定です」
マロッシュの件は、メインターゲットであるZ世代に親しみのあるSNSをうまく活用し、コミュニケーションを成功させた典型的な事例といえそうだ。今後、Kanro POCKeTにも期待が高まる。
JOURNALSTANDARD YouTubeチャンネルを刷新
1.YouTubeチャンネルを刷新
JOURNAL STANDARD公式YouTubeチャンネルより
ベイクルーズグループのアパレルブランド「JOURNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)」は、2020年9月末、公式YouTubeチャンネルを刷新し、「ジャーナルジャーニー」というチャンネル名で再スタートした。
もともとYouTubeチャンネル自体は2016年末から開設していたが、主にブランディングを目的にビジュアル重視の販促動画を中心に配信していた。今回の刷新により、SNSとしての活用を始め、動画視聴数や再生時間を伸ばしているという。具体的にどのような刷新を行ったのか。
JOURNAL STANDARD PR担当の玉木悠斗氏と、PR YouTube担当の村上風菜氏にインタビューを行った。
「ブランド周知や新規ファンの獲得を目指し、これまでプロモーションムービーを中心に投稿していたYouTubeという媒体を、新たなアプローチの手法として刷新しました。
今までのプロモーションムービーに加え、商品や着用スタッフのSNAP(スナップ)が流れる短尺の動画、商品の良さや今まで見せる機会がなかった商品完成までの裏側が見られる長尺の動画など、幅広いコンテンツを制作することで楽しんでいただけるチャンネル運営を目指しました。企画ものの動画では親しみやすい雰囲気づくりを意識し、ブランドやファッションの楽しさが伝えられるような動画を投稿しています。また、洋服屋のアカウントならではの、洋服についての解説など、知識や情報も得られるチャンネルとなるようなコンテンツも用意しています。まだまだ登録者数も少ない小さなチャンネルですが、これらのコンテンツが視聴者にとって有益なチャンネルだと思っていただけたことが、成功に近づいた要因と考えます」
人気の動画の中には、デザイン企画会議の模様を映したものや、店舗スタッフが実際に買った商品など、バラエティに富んだ動画が並ぶ。
2.コロナ禍におけるSNSマーケティング
特にコロナ禍において、SNSマーケティングをどのようにとらえ、どのような工夫をしているだろうか。
「動画を通してリアルに洋服を感じていただき、来店やオンラインストアへの興味関心や購買意欲につながるように、撮影場所は店舗にしたり、1本の動画でたくさんの商品が見られるようにすることを意識しています。
また、地方店舗のスタッフにフォーカスをあて、地方のおすすめスポットやお店の紹介などのロケ企画動画を配信し、視聴者の住んでいる近くの店舗への親近感や、アフターコロナには紹介していた店舗がある街に旅行に行きたいなという思いを引き出すようにするなど、ポジティブになる内容を配信しています」
3.今後の展望
今後は、YouTubeにおいてどのようなことを行っていく予定だろうか。
「現在の運営スタイルを維持しつつ、インフルエンサーとのコラボや店舗連動などで視聴者の方に楽しんでいただけるよう、コンテンツの幅を広げていきたいと思っています。視聴者の方へ要望の聞き取りなどを行い、見たいものが見やすく見られるYouTubeの『サブチャンネル』の開設なども検討しております。
また、YouTubeライブ配信を活用し、JOURNAL STANDARDの服でコーディネートされたアーティストの音楽配信、エクササイズ、料理番組などのアイデアとして上がっていますので、楽しみにしていただけますと幸いです」
さまざまな種類の動画が並び、ユーザーは見ていて飽きないしかけも感じる。今後のさらなる新たなジャンルの動画が楽しみだ。
今回の2つの事例からは、SNSはメーカーやブランドにとってただの情報発信だけでなく、消費者とのコミュニケーションを可能にする、コロナ禍においても力を発揮するツールであることが再確認できた。今後はいかにユーザーが欲しい情報を提供していけるかがポイントとなりそうだ。
取材・文/石原亜香利