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雑踏の中にいても人の話し声がハッキリ聞こえるのはなぜ?

2021.08.25

 あえて人から言われなくとも暑い。強烈な日差しが照りつける街の雑踏の中で、誰かが発した「暑い」という言葉が聞きたくなくとも耳に入ってくる。誰しもが思っていることだけに、この期に及んで聞かされたくはないものだが……。

残暑の強烈な日差しを浴びながら池袋の街を歩く

 某所からの帰途、山手線を池袋で降りた。午後2時になろうとしている。さしたる用事があるわけでもないのだが、外出した機会に池袋の某ショップで気になっていた靴を実際に見てみようと思ったのだ。

 電車を降りて池袋駅の地下構内を歩く。この暑さゆえにできる限り地下通路を利用してから地上に出たい。池袋東口に出る階段を上らずにさらに地下を進むと賑やかなショッピングパークに出る。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 特にこの地下街には用件はないが、通路の突き当りにあるおむすびの店が少し気になる。よく見ると中で食べられるイートインのスペースもあるようだ。しかしながらこのご時世でイートインは休止中のようで、現在はテイクアウトのみということらしい。再開したらぜひ食べに来てみたいものだ。

 店内でも食べられるおにぎり専門店の話題を最近よく耳目にしていることもあり、機会があれば入ってみたいとも思っているのだがまだ実現できていない。テイクアウトのみのおにぎりの店も近くにはあるのだが、昼過ぎには閉まってしまうのでこちらもなかなか行くことができないでいる。

 一方で個人的にはおにぎりをコンビニで買うことはめったにない。あくまでも家庭料理としてのおにぎりが食べたいのだ。

 ……そういえば昼食はまだ食べていなかった。店に行く前にどこかで何か食べてみてもよかった。

 この方面の地下通路はここで終わりなのでエスカレーターに乗り地上へ出る。残暑の強烈な日差しの洗礼を浴びることになった。暑い。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 この暑さもあり普段よりは人出は少ない感もあるが、それでも多くの人々が街を歩いている。ともあれ危険な暑さだ。いったんどこかの店に入ろう。

「暑い……」という女性のつぶやくような声がどこからともなく聞こえてきた。痛いほど同意できる言葉だが、あえて聞きたくはない言葉でもある。多くは内心で思っているであろう言葉だけに、それを言っちゃあおしまいよ、という気もしてくる。

単なる音と話し言葉を聞くのとでは脳の活動領域が異なる

 不特定多数が集まる街中であるだけに当然、ザワザワした特有のノイズに包まれているし、駅前の広い通りを走る車の走行音もそれなりに響いている。こうした雑然とした環境の中でも周囲にいる人物のつぶやき声が案外聞こえてくるのは不思議なことかもしれない。

 我々はやはり人の話し声にはそれだけ注意を払っているのだろうか。最新の研究では我々は一般的な音と、言葉を話している声は脳内で別々に処理していることが報告されていて興味深い。たとえばインストゥルメンタルな楽曲を聴いている時と、ある人物のスピーチを聞いている時とでは脳が音を処理する部分が異なっているというのである。


 人間の聴覚皮質全体にわたる頭蓋内記録、電気皮質刺激、および外科的切除を使用して、領域全体の皮質処理が連続的な階層構造とは一致していないことを示します。

 代わりに反応潜伏時間と受容野分析は、一次聴覚野と非一次聴覚野での並行した別個の情報処理を示しています。この機能的解離は、一次聴覚野の刺激が幻聴を誘発するものの、発話音声知覚を歪めたり妨害したりしないケースでも観察されました。

 上側頭回の非一次聴覚野の刺激中には反対の効果が観察されました。一次聴覚野の切除は発話音声知覚に影響を与えません。これらの結果は人間の聴覚皮質全体に並列情報処理の分散機能構造を確立し、音声処理における非一次聴覚野の本質的な独立した役割を示しています。

※「Cell」より引用


 米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校とカナダ・マギル大学の合同研究チームが2021年8月に「Cell」で発表した研究では、脳は音響と発話音声を並行して別々に処理していることを報告している。つまり単なる音と、意味のある言葉を話している音声とでは、脳の働いている部分が違っているのだ。

 人間の聴覚認識に関するこれまでの“定説”では、人間の脳はどんな音でもいったん一次聴覚野(primary auditory cortex)に取り込んでから、その後に各種の情報処理が行われると考えられてきた。つまり喋り言葉の音声を聞いたとしても最初は“音”と認識され、その後の処理で言葉の意味が理解されるのだと考えられていたのだ。

 しかし研究チームが脳外科手術を受けた9人の患者の協力を得て7年間にわたって行われた研究では“定説”に反し、上側頭回(じょうそくとうかい、superior temporal gyrus、STG)にあるいくつかの領域(非一次聴覚野)が、話し言葉を聞いた時に一次聴覚野と同じくらい速く反応することを発見したのだ。これはそれらの領域が独立して音声情報の処理を開始したことを示唆している。

 つまり雑音に囲まれた環境にあっても、我々は意味のある話し言葉を聞くと脳の別の部分が働きはじめてその情報を処理していることになる。単なる音を聴いている時と、言語として意味のある発言を聞いている時では、脳が働く場所が違うのだ。雑踏の中でも女性のつぶやき声が聞き取れたのは、脳のそうした働きによるものであるともいえそうだ。

ジャズのBGMに包まれながら肉そばを賞味

 考え事をしている場合ではない。この暑さを逃れる意味でも入る店を決めよう。池袋のランドマークであるサンシャイン60方面へと通じる「サンシャイン中央通り」を進む。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 通りの右側にあるそば店から食事を終えた人が続けざまに出てくる。文句なしにこの一帯の人気店なのだろう。

 白い暖簾が下がった入り口の隣にはショーケースがあり、なかなか魅力的なメニューが展示されている。カレーや牛丼などもあるようだ。入ってみよう。

 店構えの様子から想像していたよりも店内は広い。中央には長い対面のカウンターがあり、左の壁沿いもカウンターになっている。右側にはいくつか4人掛けのテーブル席が設けられている。けっこうなお客の入りだ。

 入口のすぐ左側に券売機が2台並んでいる。いろんなメニューのボタンが並んでいるが、上段にひときわ大きなボタンがあり、お店の名物である「肉つけそば」がこれ見よがしにアピールされている。いいじゃないですか。「肉付けそば」の大盛りのボタンを押し、シャツの胸ポケットから取り出したSuicaをかざした。食が細くなっていてご飯ものの大盛りは年々厳しくなってきているのだが、そばであれば大盛りや2枚もりでもまだ大丈夫なはずだ。

 出てきた食券を店の奥の「食券受付」のコーナーで店員さんに渡す。ちぎった半券を渡され、出来上がるとそこに記された番号で呼ばれるというシステムだ。

 給水機の隣に置いてあるコップを取って自分で水を入れて運びカウンター席に着いた。このご時世で両側が透明アクリル板で仕切られている。

 珍しくというべきなのか、店内に流れているBGMはジャズである。こうした大衆的なそば屋は何かとお客の出入りが激しくて慌ただしい感じになりがちなところ、BGMのジャズが良い働きをしているようで、席に着いていても実際に落ち着ける。

 そういえば某そばチェーンのBGMは演歌だが、あれはあれで落ち着けたりもするがいかがだろうか。普段、演歌が耳に入ってくることはほとんどないのだが、そうした機会に聴いたりすればちょっとした非日常性も味わえるというものだ。

 お店の人が番号を読み上げてそばの用意ができた旨を知らせている。ひとつ席を空けて右側に座っていたお客が我に返ったように少しビクッと身体を震わせて反応し、立ち上がるや受け取り口へと向かっていく。スマホの画面を眺めるのに没頭していたようだが、人の声で意味のある内容を伝えられればやはり我々は敏感に反応できるということなのだろう。

 前出の研究が示しているように、店内がジャズのBGMに包まれていようと、我々の脳は店員さんの声を別の領域でキャッチしてリアクションができているのだ。

 自分の番号も呼ばれる。待ってましたとばかりに席を立ち受け取りに向かう。想像していたよりも肉がたっぷり乗っている。旨そうだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 つけ汁は甘めで、そばと肉を一緒に食べられるのはなかなか面白い。ゴマだれで食べるよりも確かにこのつけ汁のほうが美味しく食べられそうだ。

 店員さんの呼びかけがさらに続いていく。次々とお客がお盆を受け取り、それぞれの席に着いて思い思いにそばを味わっている。食べ終えてお盆を返却口に戻して店を出る人もいれば、新たに店に入って来る客も絶えない。

 完全なセルフサービス店なので店内の人の動きは慌ただしいのだが、やはりBGMのジャズがいい役割を果たしていていると言えそうで、落ち着いてゆっくり食べられる。次もまた来たくなりたい気持ちにもなり、実際にリピート客も多いのだろう。近くに来た時にはまたぜひ寄ってみたいものだ。

 店を出てまた再び残暑の街の熱気に包まれることを考えると、駅に戻って帰路に就こうかとも思えてくる。しかし慌てることもない。ジャズの音色に包まれながら、まずはそばをゆっくり食べ終えることにしよう。

文/仲田しんじ

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