新型コロナウイルスに伴う環境の変化で、農業に興味を持つ人が増えているという。株式会社マイナビが運営する「農業をやりたい人」と「農家」をつなぐアプリ「農mers(ノウマーズ)」の登録者はコロナ禍で、約10倍に増加した。農業界にはコロナを逆手に取った働き方を推進する動きもあるという。マイナビ農業活性事業部事業部長の池本博則さんに現状を聞いた。
【取材協力】
池本博則さん
マイナビ農業活性事業部 事業部長
徳島県出身。2003年に株式会社マイナビ入社。就職情報事業本部で国内外大手企業の採用活動の支援を担当。17年8月に農業情報総合サイト「マイナビ農業」をスタートし、本格的に新規事業として農業分野に参入。19年には「農家」と「農業をやってみたい人」をつなぐマッチングアプリ「農mers」を立ち上げた。「農業の未来を良くする」をコンセプトに、「楽しい」「便利」「面白い」サービスを提供できる事業の創出に向けて尽力している。
農家が抱える課題を解消するアプリ
農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など農家の抱える問題は深刻。そんな課題解決のためスタートしたのが、マイナビが運営するマッチングアプリ「農mers」だ。
「昔から農業は、ライフスタイルそのものというか、実生活の中で行われ、生きるためのものでした。収益性は低く、ビジネスとして成り立つのは非常に厳しいのが現状で、新規参入のハードルは高いままです。
農家には『慢性的な人手不足を補いたい』という悩みが、また農業に興味がある人からは『いきなり就農ではなく、まず試しにやってみたい』というニーズがありました。アプリは、繁忙期の農家を手伝うことで、気軽に農業に触れる機会を作る目的でスタートしました」
コロナ禍、登録者は約10倍に
「農家」も「農業に興味がある人」もどちらも無料で使えるアプリは、マッチングすると直接メッセージのやり取りができる。2020年1月の登録数は1,293人、1年後には12,725人と、約10倍に急増。コロナの影響が如実に現れた。
「ここまで環境が変わり、これだけ登録者が増えることは想像していませんでした。新型コロナウイルスの影響によるリモートワークの普及でどこにいても仕事ができるようになったことで、これまでまったく農業に触れたことのない人たちが、地域に目を向け始めている感じがします。
農家の営みに興味を持ち、農業がある暮らしに憧れてはいたけどアクションを起こしてなかった人が、お家時間が増える中で地方移住や農業の情報を見るようになってきています。セカンドキャリアや副業として農業を視野に入れる人も多いのではないでしょうか。
農家とのやり取りはチャット形式で堅苦しい会話もなく、勤務時間や賃金などの条件をすり合わせて合意すれば仕事として成り立つ仕組み。特別なスキルがなくても週末や休日に1日から体験することもできるので、まずはファーストステップとして生産者と触れ合うことができるのがアプリのメリットです」
アプリを利用している男性は「農業に興味があったので、本業が休みの日に副業として、農家の手伝いを始めました。働いてみると自然の中でコロナ禍ということを忘れるくらい清々しい気持ちになりました」と話す。
農業のイメージに変化あり!
農家の具体的な仕事といえば「稲刈り」「野菜の栽培・収穫、出荷」というイメージだが、今は「ネット販売の立ち上げ、運営」「商品企画」など多岐にわたる。農業のイメージは変わってきていると池本さんは言う。
「畑で収穫したり栽培したりする実農の部分だけではなく、先端技術を駆使するエンジニア、プログラマーが就農する形になり、“農業に就く”というイメージは変わってきていると思っています。今後ますますAIなどのICT技術を活用して生産性を上げるスマート農業の取り組みが進むことは、農家の抱える人手不足の課題解決になると期待が高まっています。
人手不足だけでなく農家には課題が山積み。生産者と触れ合った先に課題が見えてきて、その課題に対して何ができるのかを考えていくことは、一人のビジネスマンとしてとてもロマンがあるのではないかと思っています」
コロナ環境下で見えてきた働き方も
マイナビの「働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)」では、緊急事態宣言を境に「在宅勤務・リモートワーク導入」が増加、「副業・兼業」を認める企業は約5割に上っている。働き方が多様化したことで、農業に興味を持つ人は、就農する機会も増えた。その方法は?
ライフスタイルの中に農業を取り入れる
「近所のシェア畑を借りた週末農業や、都会の高層ビルの屋上にある貸し菜園で収穫を楽しむなど、ライフスタイルを変えずにおしゃれに農業を楽しむことができます」
アグリワーケーション
「農業界にはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせたワーケーションに、農業の要素を取り入れた『アグリワーケーション』を推進していこうという動きがあります。地方に滞在しながら、仕事と平行して休みの日に農作業に従事する人を増やしていこうという狙いがあり、コロナを逆手にとった働き方として注目されています」
池本さんは「農家の後継者不足解決の糸口になれるようなサービスを提供していきたい」と話す。農業に興味がある人、挑戦してみたいと思う若い世代が、農業界の救世主として期待される。
取材・文/佐野恵子