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感情表現が激しくなりすぎると相手に伝わりにくくなる理由

2021.08.19

 微笑ましい光景なのだが、うがった見方をすれば大げさすぎる感もある。久しぶりに友だちに会えて感極まったが故の行動であることはよくわかるのだが……。若さが羨ましい。

“小さな旅”で西武新宿線に乗り、野方駅に降り立つ

 久しぶりに西武新宿線に乗った。夕方にちょっとした買い物で高田馬場に出たのだが、用を済ませた後、何もとんぼ返りで部屋に戻る必要もないことに気づいた。どこかで何か食べてもいいし、カフェでひと息ついてもよかったのだが、小一時間ほどの“小さな旅”をしてみる案も浮かんできた。そこで久しぶりに西武新宿線に乗ってみたのだ。

 西武新宿線・高田馬場駅には商業ビル「ビッグボックス」に面した「ビッグボックス口」があるのだが、この周辺はちょっとした“待ち合わせスポット”になっている。駅に入ろうと先ほどそこを通りかかったのだが、女子大生くらいの女の子のグループが久しぶりに友だちに再会したのか大声ではしゃぎながら盛り上がっていた。

 自分を含めていったい何事なのかという周囲からの視線を集めていたその女子グループは無邪気に抱き合ったりしていたのだが、少し大げさ過ぎやしないかという印象を受けないでもなかった。本当にそんなに嬉しいのだろうかという疑いも少しは湧いてきたのだが、それでも若いっていいなぁ、と少し羨ましくなる光景でもあったことは確かだ。

 ラッシュアワーの出ばなの時間帯でやや混んでいる下りの各駅列車に揺られて野方駅で降りる。野方に来たのは2年ぶりくらいだろうか。界隈には有名なやきとんの店があるのだが、そういえば久しく訪れていなかった。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 今から15、6年くらい前、取材で西武新宿線をよく利用していた時期があり、仕事帰りにはよく野方で降りてやきとんで一杯やっていたものだった。当時を思い返せばお気楽だったなぁと我ながら微笑ましくもなってくる。人のことは言えない、若いっていいなぁ……。

 駅南口に面した商店街を左に進む。「野方駅前商店街」というストレートな名称の商店街だ。どこかで何かを食べて再び電車に乗って帰るつもりだ。とりあえず先を進む。

 さすがに野方駅の改札や出入口では待ち合わせをしていそうな人はいなかった。もちろん場合によっては人を出迎えたり、物品を渡したりするなどの用件で待ち合わせをするケースもあるのだろうが、若者が皆で待ち合わせて飲むような街ではない。同じ中野区の江古田とは違って周囲に大学があるわけでもないので、地元の若者以外は特に集まるようなこともないのだろう。

 もし仮に野方駅で待ち合わせをしたとして、ここで若い女の子が友だちに久しぶりに再会したとしたら、ビックボックス前のように大いにはしゃいで再会を喜び合うだろうか? たとえ嬉しさは同じだとしても、きっとそのリアクションは数段もトーンダウンしたものになるのではないだろうか。もちろん周囲を気にせずに抱き合って大いに喜び合っても一向に構わないことではあるが、住宅街の静かな駅で“オーバーアクション”は似つかわしくないというものだろう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

各人各様の金メダリストの“勝利の瞬間”

 入る店を決めよう。通りの右側にラーメン店があり、その先には焼肉店がある。通りの左側には某カレーチェーンが店を構えている。そのさらに先には牛丼チェーンやカフェレストランもある。もう少し歩いてみよう。

 前方にまた別の商店街が延びている十字路に差しかかった。前方だけでなく左右どちらも商店街が続いている。時間帯的に買い物客の姿も多い。

 店が多そうだという理由で左折することにしたのだが、牛丼店の隣にある店が気になった。地名を冠した店名の食堂なのだ。趣のある和食店の店構えで、ガラス張りのショーケースにはメニューの料理サンプルが並べてある。からあげやさば味噌、刺身や肉じゃが、オムライスやナポリタンと何でもありそうだ。入ってみよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 店内はかなり広々としていて、2人掛けの小さなテーブルが数多く配置されている。こうしたレイアウトからも一人客が入りやすい店であることがわかる。先客は2人いて、そのうちの1人はテイクアウトの料理が出来上がるの待っているようだ。店の人に好きなテーブルに着くよう促され、一番奥の左端のテーブルに着かせていただく。

 水のグラスをテーブルに置かれ、けっこうなページ数のメニューを一通り眺める。魚系のメニューも気になったが、わりと空腹だったのでご飯がすすむ豚肉の生姜焼き定食にすることにした。肉を2倍にできるということでお願いし、ご飯の大盛りは無料ではあったが普通盛りにしてもらった。加えてグリーンサラダも注文する。

 前方の壁には天井近くに液晶テレビが設置されている。画面には開催中の東京五輪関連のニュースが流れていて、各競技の“金メダルの瞬間”をとらえた映像が繰り広げられていた。

 ぼんやりとテレビ画面を眺めていたが、金メダリストたちの勝利の喜び方はさまざまで、特に個人競技の金メダリストは十人十色という感じである。絶叫と派手なアクションで嬉しがる者もいれば、むしろ周囲のほうが喜んでいて当人はいたって落ち着いているケースもある。

 ド派手に喜んでいる選手はわかりやすいものの、だからといってわりと控えめな佇まいの金メダリストよりも感じている喜びが大きいのだと安直に判断することはできないのだろう。あまりにも喜び過ぎていると、むしろ何らかのパフォーマンスではないかとも疑ってしまうことがあるかもしれない。最新の研究でも絶叫や爆笑などの声の激しい感情表現は受け手にとってむしろ感情が伝わりにくく逆効果であることが報告されていて興味深い。


 彼ら(研究チーム)は、悲鳴、笑い声、ため息、うめき声など、非言語的な発声を多数集めました。これらの音はすべて、最小から最大の段階的な感情の強さと、さまざまなポジティブな感情とネガティブな感情を表現していました。次に発声者が表現した感情的な強さに応じて、リスナーがこれらの音をどのように異なって知覚するかを調べました。

 チームは驚くべき結論に達しました。まずは感情の強さが増すにつれて、参加者の理解力も向上し、中程度の強さの感情を知覚する際に一種の「スイートスポット」に到達しました。しかし感情が最大限に強烈になると、その理解のしやすさは大幅に低下しました。

「直感に反して私たちは最大限に激しい感情が意味を推測するのに最も難しいことを発見しました。実際、それら(強烈な感情表現)はすべての中で最も曖昧です」

※「Max Planck Institute for Empirical Aesthetics」より引用


 ドイツのマックスプランク実証美学研究所の研究チームが2021年5月に「Scientific Reports」で発表した研究では、激しい感情表現は皮肉にも逆効果であることを示唆している。

 計90人の実験参加者は笑い声、叫び声、うめき声、悲鳴などのさまざまな感情表現をしている音声を、それぞれさまざまな強度のバリエーションで聞き、それがどのような感情を表現しているのかを分類し、どれほど強い感情であるのか、どれほど本心からのものであるのか、どれほど誘発されたものであるのかを評価した。

 収集したデータを分析したところ、中程度の激しさの音声はそこに込められたさまざまなニュアンスを理解しやすいことが明らかになった一方、最大限に激しい感情表現においてはそれが激しい驚きの声なのか、感極まった絶叫なのかもわかりにくく、快感なのか不快感なのか、ポジティブなのかネガティブなのかについても分類が難しいことが浮き彫りになったのだ。確かに金メダルを取った瞬間のあまりにも激しい勝利の雄叫びは、その文脈を知らずに聞いたならば怒鳴り声や嘆き声に聞こえたりするかもしれない。このように激し過ぎる感情表現は逆に受け手側には理解し難いものになっているのだ。

人が時に激し過ぎる感情表現をするのはなぜか?

 料理が運ばれてきた。肉を2倍にしただけに見た目からしてすごいボリュームだ。まずはグリーンサラダを手早く食べてしまうことにしよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 生姜焼きは甘過ぎない味つけで好みの味だ。すぐにご飯を頬張りたくなってくる。

 入店時には空いていた店内だったが、食べはじめたタイミングでお客が次から次へと入ってくる。意外にも半分ぐらいは一人客の女性だ。事前予約したテイクアウトの料理を受け取りに来たお客もひっきりなしにやってくる。地元の人気店であることがよくわかるというものだ。

 テレビはまだオリンピックの特集をやっている。金メダリストの歓喜の瞬間をとらえた映像はなおも続いていて、さまざまな競技の決勝で勝利に歓喜するアスリートの姿が映し出されていた。

 応援している選手であるならともかく、オーバーアクションで喜んでいる金メダリストにはやはりあまり共感できないかもしれない。前出の研究での激し過ぎる感情表現は逆にわかりにくい部分があるということが、そのまま当てはまるのだろう。

 とすれば、大はしゃぎで再会を喜んでいたビッグボック前の女子グループにあまり共感を抱けなかったとしても決して不思議なことではなかったことになる。もちろん彼女たちが嬉しがっていることは一目瞭然なのだが、どんな風に嬉しいのか細かいニュアンスが伝わってこないので共感しにくくなるのかもしれない。

 ではなぜ人は時に激し過ぎる感情表現をするのか。研究チームによれば、それは重要な出来事が起こっていることを周囲に知らせ、それが誰にとっても無縁なものではないことを“警告”するために行われているのではないかと説明している。感情の細かいニュアンスを伝えることは二の次であり、ひとまず人々に注目されることを第一にした行為であるというのだ。

 とすれば激しい感情表現をする者は、心の底のどこかで「注目を集めたい」や「もっと自分を見てもらいたい」という自己顕示欲を抱えているのかもしれない。金メダルを取った勝利の雄叫びとそれに続く“パフォーマンス”は単なる喜びの表現という以上に、自己顕示欲のあらわれであるのだと考えれば確かに納得できそうだ。

 生姜焼きの肉は2倍にしたものの、ご飯は普通盛りにしたのでテンポよく食べられてもうすぐ完食しそうである。大盛りにしていたら途中で箸を休めていたかもしれない。齢を重ねて感じるのは、外食の普通の一人前が実はけっこうな量であることを時折思い知らされることだ。その点でも、若いっていいなぁ、と思わざるを得ない。

文/仲田しんじ

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