〝わかった気持ち〟にだけはならないこと。表面的なニーズにとらわれずその先にある本音にまで想像を巡らせる
【そのココロは?】時に自身の消費行動を振り返り、「こういうものが欲しい」というユーザーの言葉だけでなく、奥に隠された本音を見極めることが重要。
キリンビール
事業創造部 スプリングバレー担当
吉野桜子さん
チューハイやカクテルなどを手がけた後、ビールの開発担当に。社内外の醸造家と協働しつつ、クラフトビール戦略を牽引する。
キリンビール『SPRING VALLEY 豊潤〈496〉』
248円(350ml)
『キリンラガービール』に使用される1.5倍量の麦芽と4種類のホップを使用。キリンビールの前身である「スプリングバレー」の名前を冠したことで、あえて「麒麟聖獣」マークを外したパッケージデザインに。アルコール度数6%。
個性とバランスの良さが結実。肉からスイーツにまで合うビール
「開発が始まったのは約10年前。まだクラフトビールという言葉さえ、認識される前のことでした」
担当する吉野桜子さんは、こう口火を切った。そんなクラフトビールも、今や専門店が次々と登場、様々な主張=味を選び、楽しめるとあって、飲食店だけでなく家庭でのニーズも加わり、年々市場は拡大している。
「コロナ禍の影響で外出、外食が制限され、それなら自宅飲みで少し贅沢をしたい、とクラフトビールを選ぶ方が急増。その声にいち早く応えたいと、今年の発売が急遽決定したんです。とはいえ、クラフトビールらしい個性はもちろん、当社が出す商品として、初めての方も楽しめるような尖りすぎない味わいも必要。そのバランスには特に苦労しました」
キリンらしいクラフトビールを造り上げるため、要となるホップは4種類を組み合わせて使用。そして7日間じっくり漬け込むことで香りを引き出す「ディップホップ製法」の採用や、250回に及ぶ試験醸造、さらには本場アメリカのブルワリー視察で得た知識・見識を駆使して、ようやく3月の発売にこぎつけた。
「ホップ由来の豊潤さとコクのある個性的な味わいを担保しつつ、飲み飽きない軽快なおいしさを実現できたことで、自信を持ってお届けできる製品ができました。何より、『こういうのを待っていた!』の声の多さに、確かな手ごたえを感じましたね」
こうして完成した同ビール、グリルや焼き肉など、焦げ感のある肉料理や濃い味つけのものがよく合うという。吉野さんのおすすめは「バスクチーズケーキ」。ビールマニアからライト層まで取り込む味わいで、今後もさらにファンを増やしそうだ。
なぜ売れた? どうやって売れた?ヒットのひみつ
【01】構想10年、試験醸造250回の手間ひまが結実
■ ホップは4種類の組み合わせ
「キリンビールが手がけるクラフトビール」を常に意識。自らが楽しみつつも妥協のないビール造りが、ビール好きだけでなく、ビギナーの心までつかむ個性を生んだ。
【02】常識をくつがえす特許技術「ディップホップ製法」の採用
■ 海外の醸造家からは「クレージー」の声が
『グランドキリン』で確立した、ホップと麦芽を7日間浸漬させ豊潤な香りをもたらす製法を導入。素材も手間も時間もかかる〝クレージー〟なまでのこだわりもおいしさの秘密。
【03】もっと知りたくなるストーリー&メッセージ力
■ ご先祖様の思いを引き継いで
「スプリングバレー」の名称や496という数字の意味、聖獣麒麟のマークがないことなど、多くの物語が同ビールには隠されている。知るほどに愛着がわく仕掛けが多数。
〈Editor’s View〉単体でじっくりもよし、料理と合わせてもよし。日本はピルスナータイプが主流でしたが、このクラフトビールがそのスタンダードを変えるかも。物語性にも惹かれます。(担当編集・ハラグチ)
取材・文/武内しんじ
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