■連載/阿部純子のトレンド探検隊
省エネ設備と太陽光発電でエネルギーの消費を減らすZEH住宅
「ZEH」とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、断熱性能や高効率な設備システムの導入で大幅な省エネルギー環境を整備した上で、太陽光発電など再生可能エネルギーを導入することにより、1年間のエネルギー消費量の収支をプラスマイナスゼロにすることを目指した住宅のこと。省エネと創エネを同時に行い住まいの中でCO2削減を実現する、脱炭素社会実現に向けた「住」におけるエシカルな選択肢だ。
積水ハウスでは1999年に環境未来計画をスタートしてから、2008年の「脱炭素宣言」、2009年「グリーンファースト」と、住宅におけるCO2削減に積極的に取り組み、2013年に「グリーンファーストZERO」と呼ばれるゼロエネルギーハウス=ZEHを開発した。
積水ハウスのZEH住宅の特徴のひとつが、2003年から採用している瓦型の太陽電池。ソーラーパネルとは異なり、瓦型モジュールなのでどんな屋根の形でも設置が可能で、狭い住宅にも対応できる。
もうひとつの特徴が窓を大きく取った設計。エネルギーの放出を抑える省エネ住宅では、熱が逃げやすい窓を小さくするのが良いとされるが、住み心地と考慮し、庭を楽しめて明るさも取れる大きい窓を設置している。
こうした高い居住性とコストパフォーマンスの良さからユーザーの満足度は95%を超え、目標としていた「2022年までにZEH90%」は2020年に前倒しで達成。2020年度のZEH住宅比率(新築戸建)は91%、ZEH棟数は6万棟以上で大手メーカーでは世界一となり、平均CO2排出削減率は82.7%に上る(2019年度の新築戸建住宅の1990年比)。
積水ハウスのZEH住宅は戸建住宅を対象にしていたが、2018年に石川県金沢市に初の「全住戸ZEHの賃貸住宅」が誕生。以来、エシカル市場創出に向けて、同社の賃貸住宅「シャーメゾン」ブランドで賃貸ZEHを展開しており、2020年度の年間受注戸数は2976戸と前年比約6.2倍の大幅な伸びとなった。
「毎年のように記録的な猛暑、台風や大雨など異常気象が起こり、環境は急激に変化している。積水ハウスでは住宅メーカーとして一軒単位では高いレベルの商品を提供してきたが、企業ビジョン『わが家を世界一幸せな場所にする』をとりまく、より広いコミュニティで達成することを目指し、地球温暖化防止を推進している。
賃貸住宅からのCO2排出は全体の約2割あり、その排出量を減らすことが重要だが、戸建てと違い市場が開拓されていない分野だった。環境保護意識が高いZ世代、ミレニアル世代でも『住』については関心が低い。賃貸ZEHを本格展開していくことで、賃貸住宅でもCO2削減ができることを知っていただき、住まいをカーボンニュートラルにするという選択肢を提供していきたい」(積水ハウス コミュニケーションデザイン部 井阪由紀さん)
シャーメゾン賃貸ZEHの仕様は、高断熱で部屋を覆い、高効率の設備で省エネしながら、建物に設置した太陽光発電システムで電力をカバーする。入居者が売電できるタイプを採用し、余った電力は売電が可能だ。
省エネ、創エネで光熱費を削減でき、試算では毎月平均6000円程度、年間で7.8万円の光熱費を削減につながる。
太陽光発電のため、停電時は非常用コンセントに切り替えて、晴れていれば最大1500Wまで電気が使える。蓄電池を採用している物件もあり防災面でもメリットが大きい。
オーナー側からすると、太陽光発電を設置する分費用が加算されるが、賃貸ZEHは多くの入居者メリットがあり満足度が高く入居率はほぼ100%。2050年の脱炭素社会の実現に向けて、より高い省エネ性能が求められれば、賃貸住宅市場の中でも差別化要因となる。ZEHにしておけば資産価値が下がりにくいため、オーナーにとってもメリットが大きい。
【AJの読み】使用エネルギーの見える化で環境アクションを自分事として捉えられる
賃貸ZEHの居住性や機能性を確かめるため、埼玉県さいたま市にあるモデルルーム「賃貸ZEHエスコートルーム」を訪ねた。3階建で屋上部分に太陽光発電システムを搭載している。
モデルルームは2LDK、78.84㎡。間取りはリビング(20・3帖)、洋室(7.5帖)、和室(7.4帖)、南北の掃き出し窓はテラスにつながっている。設備はZEH+蓄電池、床暖房、IoT(エアコン・照明)、スピーカー付き照明、食洗機付きフラットキッチン、大開口サッシ。
エネルギー消費状況はHEMS(Home Energy Management System=ヘムス)で管理し、発電している電気、使っている電気がリアルタイムで表示される。使用電力量、売電量も日、週、月単位で確認ができ、目標設定も可能。
エアコンの温度を上げたり、消したりすると、一気に消費エネルギーが下がり、売電や蓄電に移行するのが目に見えてわかるので実感が湧きやすい。エネルギーを見える化することで、環境アクションとして身近に感じることができる。
蓄電池は標準設定ではないため、より防災に備えたい場合は、蓄電池の有無も物件探しの際に目安にしてもいいだろう。蓄電システムは室内外に設置するが、室内の蓄電池はスリムで場所を取らないため、クローゼットの中に置くこともできる。
窓は戸建住宅同様に大きく取ってあり開放感がある。高断熱複層ガラス+高断熱サッシで、夏の日差しを軽減し、冬は暖房を切っても長時間暖かさが続く。実際にこちらの賃貸住宅3階で冬場に行った温度測定の実験では、暖房を22時にオフにして翌朝5時の段階で、外気温0℃に対し、室温は16.4℃と断熱性が実証された。
複層ガラスなので結露の心配がないこともユーザーからの評価が高い。遮音性にも優れており、窓を閉めるとセミの鳴き声や車の騒音が全く聞こえなくなったほどだ。
「他社も含めて今後賃貸ZEHは確実に増えていくと思われるが、ZEHは住んでから良さや快適さが実感できるもの。今は家賃を抑えても体感、認知してもらうのが重要な時期だと考えており、周辺の相場と比べても5000円~1万円高い程度。将来的には賃貸物件のサイトでZEH専用アイコンができ、ZEH賃貸物件同士で比較してもらえるぐらい増えればいいと思っている。
コロナ禍で在宅時間が増え、光熱費は誰もが気になるところ。同じ賃貸に住むのだったら、地球環境にベストな、しかもお財布にも優しくなる選択肢があるということを若い世代にも知ってもらいたい。賃貸でZEHの良さを体験して、いずれ戸建てを建てるときもZEHにしたいというファンを増やしていきたい」(井阪さん)
再生可能エネルギーや注文住宅ZEHは環境に良いことはわかっていても高価で簡単にアクションできないが、賃貸ZEHはエコバッグや紙ストローと同じように、みんながアクションできる、手が届くエコ。普通に生活するだけで環境保全に貢献できる部屋探し、地球温暖化防止のためのエシカルな選択肢として、20~30代の若い世代にも注目してもらいたい。
文/阿部純子