
二酸化炭素の化学固定化に寄与する脱水剤を使用しない触媒プロセスを新たに開発
大阪市立大学人工光合成研究センター 田村正純准教授、東北大学大学院工学研究科応用化学専攻 冨重圭一教授、日本製鉄株式会社先端技術研究所 中尾憲治課長らは、脱水剤を用いずに、常圧二酸化炭素とジオールから脂肪族ポリカーボネートジオールの直接合成を行なう触媒プロセスの開発に世界で初めて成功し、酸化セリウム触媒を組み合わせることで、高収率かつ高選択率で脂肪族ポリカーボネートジオールを合成できることを学会誌「Green Chemistry」上で発表した。
ポリカーボネートジオールは、プラスチックに代表されるポリウレタン合成の重要中間体であり、現在、ホスゲンや一酸化炭素を原料にして合成されているが、これら原料は有毒なため、グリーンケミストリーの観点から原料を代替する技術の開発が求められている。
代替原料に二酸化炭素を用い、ジオールと反応させてポリカーボネートジオールを合成する手法は、水のみを副生するグリーンな反応系として注目されているものの、高収率を得るには、高圧二酸化炭素や脱水剤を用いる必要があった。
本研究で見出した手法はこれら課題を克服するもので、酸化セリウム触媒を用い、ジオールに常圧の二酸化炭素を吹き込むことにより、生成した水を反応系外に除去することが可能になり、目的のポリカーボネートジオールを高選択率かつ高収率で得ることに成功したという。
本研究成果は、2021年7月26日(月)に『Green Chemistry(IF=10.18)』にオンライン掲載された。
【発表雑誌】Green Chemistry(IF=10.18)
【論文名】Direct synthesis of polycarbonate diols from atmospheric flow CO2 and diols without using dehydrating agents
【著者】Yu Gu, Masazumi Tamura, *Yoshinao Nakagawa, Kenji Nakao, Kimihito Suzuki, and Keiichi Tomishige
【論文URL】https://doi.org/10.1039/d1gc01172c
研究内容
二酸化炭素とジオールからのポリカーボネートジオール合成では、水が副生し、収率の向上には水の除去が必須となる。脱水剤を用いない水除去手法として、生成物やジオールと水の沸点差に着目し、常圧の二酸化炭素を吹き込み、水を蒸発除去することで目的のカーボネート合成が進行すると予想した。
結果、様々な金属酸化物触媒の中で、酸化セリウム触媒のみで高い活性を示すことが明らかとなり、脱水剤を用いることなく、また、高圧二酸化炭素を必要としない、非常にシンプルな触媒反応系の開発に成功した。
期待される効果
本技術により、添加剤を用いず、常圧の二酸化炭素を化学変換できる新しい触媒プロセスを提供。また、本技術は沸点が水の沸点よりも十分高い基質であれば適用可能であると考えられ、リチウムイオンバッテリーの添加剤やポリマー合成用原料として有用な有機カーボネート、カーバメート、尿素などの合成にも展開可能と考えている。
二酸化炭素から様々な化学品合成ルートを確立することで、二酸化炭素の化学固定化に寄与する触媒プロセスになると期待される。
今後の展開については、実用化に向けた固体触媒の改良、スケールアップを含めたプロセス検討を行ないながら、さらに研究開発を進めていく予定という。
本研究に関する問合せ先
大阪市立大学 先端研究院・人工光合成研究センター
准教授 田村 正純
TEL:06-6605-3725
E-mail:mtamura@osaka-cu.ac.jp
報道に関する問合せ先
大阪市立大学 広報課
担当:長谷川
TEL:06-6605-3411
E-mail:t-koho@ado.osaka-cu.ac.jp
国立大学法人東北大学大学院工学研究科・工学部 情報広報室
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構成/DIME編集部