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変異株だけじゃない!恐ろしいウイルス「HPV」の知られざる真実

2021.07.14

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は一般的なウイルスで、米国立がん研究所によると、感染によって子宮頚がんをはじめ、口腔がん、肛門がん、陰茎がんの原因になることが分かっています。HPVは性交渉によって感染することが多く、性経験のある女性は生涯のうちに50%が感染するというデータもあります。また、感染している母親の出生児の口腔内のHPV感染率は22.8%とする衝撃の報告も。今回は、HPVの真実について、わかりやすく解説します。

ウイルス感染症のしくみ

 病気を引き起こす病原体が体内に侵入し、症状が出ることを感染と言い、病原体となるものには細菌やウイルスがあります。細菌は糖などの栄養と水がある環境では、自活して増殖することができます。他方、ウイルスは細菌と異なり単独では生存できず、細胞の中に侵入し、寄生虫のように他の生物の力でしか増殖できません。

 そして、細胞から他の細胞へと、まるで合鍵で扉を開けるように容易に移動して、侵入を加速させます。侵入された細胞はウイルスに機能を乗っ取られ、どんどんウイルスのコピーを増殖させられてしまいます。それによって細胞がオーバーワークとなり、次々と死滅することによって、生物は耐えることができずに死に至ります。例えば、新型コロナウイルスで死亡するケースは、肺の細胞に侵入したウイルスが肺中に広がり、肺機能障害を引き起こすことで呼吸ができなくなるのが原因です。

 ウイルスの対策として、免疫をつけることがあります。免疫とは、その病気に対する抵抗力のことで、感染症に対する免疫ができるのがワクチン接種です。ウイルスのワクチンには、生ワクチンと不活化ワクチンがあります。生ワクチンとは、ウイルスの毒性を弱め、人体に悪影響を与えない状態にしたものです。

 水痘ワクチンや麻しん風しん混合ワクチンがこれに当たります。不活化ワクチンとは、ウイルスから免疫を作るのに必要な成分を取り出したものですが、これを摂取してもウイルスは増殖しません。インフルエンザワクチンや日本脳炎ワクチンがこれですが、ワクチンごとに決められた回数を摂取することで免疫ができます。

 ちなみに新型コロナワクチンで日本で真っ先に導入されたファイザー社のワクチンは、ウイルスの遺伝物質のメッセンジャーRNAを使っているので「mRNAワクチン」と呼ばれます。これはとても画期的な開発で、コロナウイルスの作り方が書かれたレシピ本の一部を体内に摂取するような方法なので、ウイルスそのものは使用しないため安全であり、有効性は他のワクチンと比べて格段に高い90%以上です。

発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)とは

 子宮頸がんの95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因です。また、他のがんの原因になることが分かっています。その中の1つが口腔がんです。これまで、口腔がんの発症には飲酒や喫煙が関与しているとされていました。しかし近年の研究では、飲酒・喫煙と関連がない口腔がんが増加していて、第3のファクターとしてヒトパピローマウイルス(HPV)が挙げられています。

 パピローマとは「イボ」を意味し、パピローマウイルス(HPV)はイボを作るウイルスで100種類以上の型があります。手足などの皮ふにできるものを皮ふ型、性器や粘膜、直腸など体内にできるものを性器・粘膜型と呼びます。

 特に口腔内の粘膜の表面が白いレース状(網状)となった慢性炎症の状態(扁平苔癬)では、HPVに感染しやすくなっているため、がん予防の観点からも注意が必要となります。HPVに関連した口腔がんは高齢者では少なく、若い世代に多いことが特徴です。HPV感染は濃厚な接触で起こるので、キスや性行為などの直接的な接触を介して、パートナーとHPVを共有することになります。

 英国保険サービス(NHS)は、口腔がんの4分の1はHPVと関連しており、オーラルセックスが口腔HPV感染の主な原因としています。今年1月にオーラルセックスとHPVとの関連を解析した研究が米国から発表されました。オーラルセックスのパートナー数とHPV関連のがんの発症リスクには関連が深く、性的パートナーが10人以上いる人では、10人未満の人に比べ4.3倍リスクが高くなります。

 また初めてオーラルセックスを行なった年齢が18歳以下の場合、20歳以上と比べリスクが1.8倍に。1年に5回以上のオーラスセックスを行うことでも、リスクは2.8倍です。性的パートナーが高齢、あるいは婚外者でもリスクが高くなることもわかっています。この研究から、オーラルセックスとHPV関連のがんの発症の関連が浮き彫りになりました。

感染経路は性行為だけではないのか?

 性交渉によって感染することが多いHPV感染は性感染症の1つです。米国でもHPV感染が性感染症の中で最も多いとされ、HPVの感染は稀なものではなく、通常の生活で男女両性ともに感染機会があります。感染率のピークは30歳代前半と60歳代前半の二峰性の特徴があり、米国の調査では、実は女性より男性の感染率が有意に高いことが判明しています。また、男性包皮環状切除で、パートナー女性のHPV感染リスクが28%減少したとする報告があります。

 しかし、性行為を行わない年齢の小児でも口腔HPV感染が起こることがわかりました。出生時(有病率22.8%)から生後36ヶ月(同8.7%)までの感染が確認され、平均持続期間は20.6ヶ月にもなります。感染経路として最も可能性が高いのが分娩中の産道を介しての感染です。また妊娠中の胎内感染の可能性も考えられています。

有効な対策は母親のワクチン接種

 HPVワクチン(不活化ワクチン)は2006年に欧米で生まれ、日本では2009年12月にワクチンが承認されました。世界保健機構(WHO)はワクチン接種を推奨していて、現在では100カ国以上で公的に予防接種が行われています。イギリス、オーストラリア、カナダでは女性の接種率は約8割にのぼります。

 日本でのワクチンの対象者は小学6年性?高校1年性の女性ですが、接種率はわずか0.3%に留まっています。これは国民性もあるかもしれませんが、接種導入時の合併症に関する誤情報の影響が大きいと言えます。ウイルスやワクチンに対する正しい知識をつけて、ワクチン接種しないリスクも考えて判断することが賢明でしょう。

 また性行為により感染することを考え、男性への接種を対象として推奨している国も多い中、日本では男性は予防接種対象者になっていませんでした。しかし2020年12月25日にようやく日本でも男性にもワクチン接種の承認がおりました。

 HPVの感染予防はパートナーと一緒に感染対策を行う協働作業であり、独りの努力では不十分です。また産道を介しての感染や、胎内感染の可能性を考えると、母親のワクチン接種は有効な対策となります。

文/宮本日出(歯科医)

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