地球を周回する衛星は、通信・放送衛星、測位衛星、リモートセンシング衛星に大きく分類される。では、なぜ、衛星は宇宙へと打ち上げられるのだろうか。衛星という名称のとおり、地球上の人々、モノなどに対して通信のための情報を送信したり、測位情報を送信したり、宇宙から撮影した画像を送信したり、地球に対して何らかのサービスを提供するために打ち上げられるのだ。
しかし、近年のNew Spaceの時代においては、これらのカテゴリーに属さない新しい発想の衛星が登場している。その新しい発想の衛星は、スペースデブリを除去する衛星、燃料が枯渇した衛星に燃料を新たに注入する衛星、故障した衛星を修理する衛星、軌道上で衛星を製造する衛星、多数の小型衛星を所望の軌道へと運ぶ衛星などだ。これらの衛星のサービスを「軌道上衛星サービス」とここでは呼ぶことにする。これらを計画もしくは実施するのは、どんな企業なのか、将来、彼らのビジネスは将来どのようになっていくのか、今回は、そんな話題について紹介したいと思う。
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軌道上衛星サービス企業ってどんな企業?
繰り返しになるが、軌道上衛星サービスとは、衛星などがスペースデブリを除去したり、燃料が枯渇した衛星に燃料を新たに注入したり、故障した衛星を修理したり、軌道上で衛星を製造したり、多数の小型衛星を所望の軌道へと運んだりとするサービスのこと。軌道上衛星サービスは、Old Spaceの時代にはなかったサービスで、New Spaceの時代に生み出されたものと言っても過言ではない。ちなみに、軌道上衛星サービスは、巷で呼ばれている名称ではなく、筆者がわかりやすい表記として考えたものとご理解いただきたい。では、次から個別にみていこう。
スペースデブリ除去ビジネスとは?
スペースデブリは、宇宙空間を漂うゴミのこと。United States Space Surveillance Networkによると、現在確認、追跡できているもので、約20,000個、10cmを超えるものが約34,000個、1cm未満の推定1億2800万個の破片があるという。もし衝突すれば、ロケット、軌道上を飛行する衛星、国際宇宙ステーションISS、将来の宇宙ホテルやスペースコロニーなどに甚大な影響を与えてしまう。そしてその衝突により、さらに新たなスペースデブリを発生させてしまう。
このようにスペースデブリを除去することは宇宙環境を保つ上で重要なのだ。スペースデブリ除去ビジネスとして、世界を代表する企業としては、Astroscaleが挙げられるだろう。Astroscaleは現在、民間世界初となるELSA-dという衛星を打ち上げ、スペースデブリ除去の実証を行なっている。主なミッションは7つのフェーズに分けられていて、フェーズ3からメインのデブリの除去に関する技術実証が計画されているようだ。ELSA-dのPRESSKITに詳細が記載されているのでぜひご覧いただきたい。
ELSA-dのフェーズ4におけるCapture with Tumblingミッション
(出典:Astroscale)
他にも、日本では、人工流れ星を計画するALEは導電性テザー型で、スカパーJSATはレーザーアブレーション型で、世界ではスイスのClearSpace、広告表示衛星を計画するロシアのStartRockeなどが尽力している。
宇宙のガソリンスタンド、衛星燃料注入ビジネスとは?
ひと昔前までは、衛星はどうにもならない故障が発生し、寿命をむかえる、そんなことも少なくなかった。しかし、今の時代、衛星は、”小さな”故障さえ発生するが、故障で寿命をむかえる、そのようなことは技術発展や運用ノウハウの蓄積などにより、稀となった。そのため、あらかじめ設計時に決めた設計寿命を全うし、衛星の寿命は、衛星に搭載している燃料の枯渇によるものとなった。衛星の燃料は、衛星の軌道を制御したり姿勢を制御したりするために使われる。この燃料がなくなると制御不能となるのだ。つまり衛星に燃料を再注入できれば復活できる。
そこに商機を見出した企業がいる。例えば、MAXAR傘下のSpace Systems Loral(SSL)は、NASAとともにOSAM-1(旧名称:Restore-L)という燃料注入衛星を開発している。他にもNorthrup Grummanの子会社であるSpace LogisticsはMEV-1という燃料注入衛星をIntelsat901にドッキングし燃料注入に成功している。また、ベンチャー企業としてOrbit Fabも有名だ。
SSLのOSAM-1
(出典:MAXAR)
また、衛星修理・製造ビジネスはどうだろうか。このフィールドは、MAXAR、SSLが強い。実は、先ほど紹介したSSLのOSAM-1は、宇宙空間で衛星の機器などを製造することができるミッションも担っているのだ。高度なロボティクス技術がないと実現は不可能だろう。
小型衛星輸送ビジネスとは?
この小型衛星輸送ビジネスが生まれた背景を少し述べたいと思う。まず、Old Spaceの時代には、大型のロケットが大型の衛星を宇宙へと輸送する、これが主流であった。主に政府事業などだ。そして小型衛星が登場する。小型衛星は、宇宙空間へと輸送されるためには、大型のロケットに搭載されなければならない。しかし、大型のロケットのミッションは、大型の衛星をしっかりと宇宙空間の所望の軌道へと投入することだ。そのため、少し乱暴な言い方をすれば大型ロケットから小型衛星は、“適当”に宇宙空間へと放出されていたのだ。
そこで、小型ロケットが登場する。小型ロケットは、小型衛星を宇宙空間の所望の軌道へと投入することができる。しかし最近、大型ロケットで多数の小型衛星を綺麗に整頓された形でフェアリング内に搭載し、所望の軌道へと投入できるサービスが登場した。それが小型衛星輸送ビジネスだ。上記では、衛星が多数の小型衛星を軌道へ投入すると申し上げたが、この輸送する衛星は、Orbital Transfer Vehicles(OTVs)と呼ばれている。宇宙での空飛ぶタクシーのようなものだ。OTVs以外にスペースタグボートなんて呼ばれかたもしている。例えばドイツのEXOLAUNCH。大型ロケットにOTVsを搭載。これに小型衛星を多数機搭載する。宇宙空間でOTVsが放出され、このOTVsが多数の小型衛星をそれぞれの所望の軌道へと運んでくれるのだ。
EXOLAUNCHのOTVs キャプ
(出典:EXOLAUNCH)
この小型衛星輸送ビジネスは、他にも三井物産の傘下であるSpaceflightやMomentusなどが同様のサービスを提供している。
軌道上衛星サービスの未来は?
これまで軌道上衛星サービスを紹介してきたが、彼らに共通することは何だろうか。それは、表現が正確ではないが、宇宙空間をある程度自由自在へと移動でき、目標物に接近でき(ランデブー)、そしてドッキングすることができる技術を持ち合わせていることだ。この技術をこれから実証していく企業も存在するが、正直、この技術は、参入障壁が高く、どの企業でもそう簡単に実現できる技術ではない。
そのため、この軌道上衛星サービスに参入している企業は、この共通する技術を保有するとすれば、この中の他のサービスへ参入することは他社が参入するよりも障壁は大幅に下がるだろう。現にスペースデブリ除去ビジネスのAstroscaleは燃料注入ビジネスへの参入を表明しているし、燃料注入ビジネスのOrbit Fabはスペースデブリ除去ビジネスへの参入を表明している。
今後、これらの企業は、これらの軌道上衛星サービスを全て実施することを計画する可能性が高いだろう。ただ、個人的には、この遠隔もしくは自律によるロボティクス技術だけは難易度が高く感じられるので、衛星製造・修理サービスは少し除外したい。もしかしたら、M&Aなどの統合が進んだり、もしくは、事業連携が起きたりすることもあるかもしれない。
いかがだっただろうか。今回は、軌道上衛星サービスとその将来について言及してみた。あくまでも予想だが、今後、Old Spaceの人間には思いつかない斬新なサービスが生み出されることを期待してやまない。
文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。