
今、世界的にブレークしているのがコンパクト、ミッドサイズのSUVである。ドイツの雄、フォルクスワーゲンにも、下からT-CROSS、T-ROCK、そして現在のフォルクスワーゲンSUVのトップレンジとなる、欧州でのベストセラーSUV、2017年にMQBプラットフォームを携えて日本で発売が開始されたティグアンがある。そのティグアンのマイナーチェンジモデルが2021年5月に上陸。今回、マイナーチェンジモデル導入記念車のTSIファーストエディションに試乗した。
新型ティグアンは、パッと見、エクステリアからはマイナーチェンジ前モデルとの違いが分かりにくいが、新型ゴルフにも採用されている、32個のLEDライトを個別にON/OFF制御する新LEDマトリックスヘッドランプ(IQ LIGHT)が与えられたフロント周り、新デザインのボンネットが新型らしさ。
そのエクステリアよりむしろ新鮮なのは、まずはパワーユニットだ。これまでのゴルフ7などにも採用されていた1・4L TSIエンジンに代わり、新世代の1・5L、気筒休止システム採用のTSIユニットを採用。スペックは150ps、25.5kg-m、WLTC総合モード燃費14・3km/Lとなる。また、DSGも6速から7速に進化した。ちなみにマイナーチェンジ前にあったクリーンディーゼル+4WDモデルは現在、ラインナップされていない。4WD=4MOTIONが必要なら、Rパフォーマンストルクベクタリングを搭載した、320psを発生する特別なティグアン、ティグアンR(684・9万円)が用意されている。
そして、マイナーチェンジモデルを決定づけるのが、新型ゴルフ同等のデジタルコクピット、運転支援システムやコネクテッド機能の充実ぶりだ。最高210km/hまでの速度域でドライバーをサポートする「トラベルアシスト」(全グレード)や、最新世代のインフォテイメントシステム、スマホと連動するモバイルオンラインサービスなどを使いこなせることになる。
また、車内の快適性では全グレードに3ゾーンオートエアコンを完備したことが新しい。前席では、フォルクスワーゲン最新のゴルフ8同様に、タッチスライダーによって設定温度などを操作できるほか、後席でも温度調整が可能で、前席左右、後席の3ゾーンで最適な空調環境が実現する。
ここで試乗したTSIファーストエディション(特別仕様車)は、TSIエレガンスグレードをベースに、専用エクステリアのジンジャーブラウンメタリックを初採用したほか、専用のレザーシート、デコラティブウッドパネル、エレガンスより1インチ大径の19インチタイヤ&ホイール、アダプティブシャシー(ダンピング)コントロールのDCCを特別装備。ボディカラーが気に入れば、実はかなりお得なモデル(エレガンスに対して)と言っていい。
さて、新型ティグアンを走らせれば、従来の1・4L時代との動力性能の違いは、例えば、ドライブモードのエコモードにセットすると分かりやすい。デォフォルトのノーマルモードでは、従来以上の分厚いトルクの立ち上がりの良さによるスムーズかつ十分以上の加速力、車内の静かさが印象的で、もちろん、新エンジンの有難みを感じることができるのだが、もし、マイナーチェンジ前のユーザーが乗り換えたとしたら、ノーマルモードでは極端な差は感じにくい、とも言えるのだ。が、エコモードにセットすると、マイナーチェンジ前の140ps時代のモデルではかなり穏やかな走りになってしまったところ、新型では歯がゆさのないパフォーマンスとエコを見事に両立。これは、エンジンだけでなく、DSGが6速から7速に進化したことも功を奏しているはずだ。
DSGのスムーズさそのものも高まっている。出足の飛び出し感、変速ショックの大きさは、もはや過去のものと言っていい。そしてクルージング状態で入る2気筒モードや、エコモードで可能になるコースティングモードに入り、そこから復帰した際も、乗員に気づかせない制御、マナーの良さが光るのだ。結果的に、実用燃費が向上することは言うまでもない。
ティグアンTSIファーストエディションは、足元の迫力を増す19インチタイヤを履いているが、DCCの効果もあって、乗り心地はフォルクスワーゲンの基準と言えるやや硬めのテイストとはいえ、速度域を問わず、フラットで快適なタッチに終始。足回りはしなやかに動くものの、カーブ、山道でのロールは最小限。軽快かつ安心感の高いハンドリングを楽しませてくれる。高速走行ではACCとレーンキープアシストによる「トラベルアシスト」の実力の高さも文句なしと感じた。巡航時の快適性、渋滞時のけっこう攻めた車間距離制御(割り込みされにくい!?)、手間暇いらずの再発進機能、そしてもちろんレーンキープ性能(の進化)にも大いに満足することができたのである。
言い忘れたが、ティグアンはパッケージも優秀で、後席頭上、膝周り空間のゆとり、ラゲッジルームの広さもこのクラスの平均値以上で、納得できるものと言っていい(ステアリング右下の蓋付収納の開けにくさ=オープナーに手が引っ掛かりにくいのは困ったものだが)。
同クラスの輸入(ドイツ車)SUVとして割安な価格設定も、フォルクスワーゲンラインナップの大きな魅力だろう。SUVでもFF、前輪駆動で問題なし、というなら、この524・9万円(インフォテイメントシステム=ナビ、モバイルオンラインサービス、ETC2.0車載器など標準装備)という価格の新型ティグアンTSIファーストエディションは、極めてお買い得と言って良く、かつ、イチオシにお薦めしたいグレードということになる。
文・写真/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。