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原一男監督が今もなお水俣病に苦しむ人々の感情を描いた大作ドキュメンタリー「水俣曼荼羅」

2021.06.26

■連載/Londonトレンド通信

 6月4日から13日までイギリス中部の都市シェフィールドで開催された第28回シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭で、原一男監督『水俣曼荼羅』が上映された。水俣病を取り巻く状況を、まさに曼陀羅のように様々な面から、撮りも撮ったり、6時間超えの大作だ。

「長くしてくれて、ありがとう。観ていくほどに、好きになっていきます」と、オンラインでつないだQ&Aでのインタビュアーは原監督に礼を述べた。

 ドキュメンタリー映画を語る時に避けて通れない『ゆきゆきて、神軍』で知られ、イギリスでも新作が出るごとに注目される原監督に、インタビュアーからは「いつもながら、人間を中心に置いていますね」との質問も出た。

 原監督は「はい、そうです。師匠筋にあたる今村昇平監督は『映画というものは感情を描くものである』と言いました。映画をドキュメンタリーに置き換えて、それを信条として作っています」と答えた。

 信条を貫き、濃い感情の溢れる生々しい人間を描きながら、水俣病の歴史と今を伝える。かつてメチル水銀が垂れ流されていた海は、今、どうなっているのか。原監督は、水俣湾内も撮る。

 全体を通して流れる感情は、強い怒り、憤りだ。だが、意外にも、笑い、ユーモアも多く描かれている。どれほど理不尽な目にあっても、人はずっと怒っているわけではない。生きていく中には、笑いもあれば、涙もある。

 熊本県水俣市のチッソ水俣工場から、水俣湾に流された排水中のメチル水銀により、魚介が毒され、それを食べる猫に異常が起こる。白黒映像で残る、自由に体を動かせない猫の姿が痛ましい。同様な症状が人間にも現れ、水俣病として知られるようになったのは1950年代だ。だが、半世紀を過ぎた今も裁判は終わっていない。なぜなのか。

 損なわれるのは末梢神経とした、そもそもの水俣病診断が間違いで、損なわれるのは感覚を受け取る脳と明かした医学者は、「コンピューターも買えないよ」とぼやく。

 大きな研究成果にかかわらず、それによって診断基準が正され、それまで水俣病と認められなかった多くの人が認められるようにも、国やしかるべき機関から十分な研究費が医学者に回されるようにもならない。

 大阪での裁判で研究成果が認めれる形になっても、一気には進まないのだ。症状がある人でも水俣病患者と認められなければ、まず、認めてもらうために裁判を起こす。認められたとしても、満足な補償が受けられるとは限らない。それもまた裁判で勝ち取らなくてはいけない。

 それぞれが、それぞれの戦いを強いられる。冒頭の写真は、当時、環境大臣だった小池百合子現都知事に、対する水俣病関西訴訟原告団長だった川上敏行さんだ。

 映画には、水俣病の患者やその家族など当事者、研究者、サポーターが登場する。例えば、「ちゃんとしてください。お願いします」と涙声で行政に訴える女性がいる。元書道の先生だった原告、溝口秋生さんに、習字を教わる姉についてきていた妹だ。溝口さんは、テレビの前で正座していた小さい頃の彼女を覚えている。その幼子が長じて、テレビを見せてくれた、お姉ちゃんの先生をサポートしているのだ。

「国に従った」、「地域行政の管轄」などなど、チッソ、熊本県、国は、責任をなすりつけあう。責任の所在はあいまいにされ、きちんとした謝罪、しっかりした補償にたどり着くのは至難の業、被害者の側が、途轍もない時間、労力を要される。裁判での戦いに半世紀を費やした川上さんも溝口さんも、もう故人だ。

 たとえ裁判で勝ったとしても、それに費やした年月は戻らず、病が治るわけでもない。映画には、症状の重い女性が1年ぶりに外気に触れる様子もある。

 体の自由が利かない被害者に比べると、軽い症状に見える感覚障害が出ている被害者も、生きる喜びの大きな部分が奪われている。脳の研究や裁判時に顔を見せていた研究者兼サポーターであろう人が酔って「まったりとか言っても、わからない」、「(性交の俗語)してもわからない」と叫ぶように言い、泣くシーンがある。

 全ての被害者に謝罪と補償がなされるには、あとどれだけかかるのか。

「水俣問題に関わる人から撮ることを勧められたのですが、巨人、土本典明監督の後に撮ることには悩みました」という76歳になった原監督は、「20年かけて6時間の映画を作っても、やり切った思いがしないのです。土本監督、この映画の後に、若い監督に続いてほしい」としている。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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