2020年4月、最初の緊急事態宣言が出てから企業では「テレワークの導入」に関する課題が急浮上した。一年以上経った今では以前よりも浸透しつつあるものの、まだ「自宅で働くことに慣れない」「社内のコミュニケーションが上手くいかない」という方も少なくないだろう。
テレワーク向けリモートアクセスサービスを開発・提供するe-Janネットワークス株式会社は、コロナ禍以前(2000年創業)から自社製品を活用したテレワークに力を入れていた。コロナ禍においては、在宅勤務の環境改善を目的に雇用形態問わず「テレワーク環境準備一時金」として10万円を支給。社員のテレワーク満足度は96%だという。
今回、同社で働く二人の社員にテレワークの課題を解決するためのポイントについてお話を伺った。前後編に分けてその内容を紹介したい(今回は後編)。
<リンク>すぐに実践できる!テレワークの達人に聞いた、自宅で仕事をするための気持ちの切り替え方と仕事環境を整えるポイント【前編】
【李東奎さんの場合】家でいかにオフィス環境を模倣できるかがポイント
e-Janネットワークス株式会社 テストエンジニア 李 東奎さん
大学などで研究員をしていた李さんは、アルバイトで同社に入社し、現在は高知テクニカルセンターで正社員として勤務。テレワークは週2回程度で、残りは出社する〝ハイブリッド型〟で働いている。テレワークをする上では、「いかに出社時のワークスペースを自宅で模倣できるか」を大切にしているそうだ。
――テレワークをする上で特に意識されていることはありますか?
李:快適な業務環境には個人差があると思うんですけど、僕が一番テレワークで大事にしているのが、「いかに出社時のワークスペースを自宅で模倣できるか」です。そう考えることで、何が足りないかが見えてきます。僕の場合はデスクの上にモニターを何個も置いて広々と使うスタイルなので、自宅でそれを再現するために、まず大きくて長いテーブルを買いました。
――仕事をする場所は特定の場所に決めていますか?
李:はい、決めています。気持ちの面でのオンオフは、テレカンで良く使うグリーンバックですね。仕事中は、後ろに緑の布をいつも張っているんです。僕はそれを立ててスタジオみたいな気分にして「よし、仕事始めよう!」みたいなスイッチにしています。
――快適にテレワークをするために取り入れているガジェットはありますか?
李:僕の場合、出社とテレワークがハイブリッドな感じですが、家の中に居つつも社内の雰囲気を感じ取れる、コミュニケーションガジェットを取り入れています。家ではiPadを社内のFaceTimeに繋げて、ずっとオンの状態にしています。その際、首型のロボット「kubi」が重宝していますね。
kubiは、遠隔で首を横に振ったり、縦に振ったりができるんです。「◯◯さん」って社内にFaceTimeで呼びかけると、kubiが向きを変えて「◯◯さん」って呼びかけてくれて。僕は家にいるんだけど、社内に呼びかけてコミュニケーションを取ることができます。社内のロボに自分が乗り移れるので、場所の物理的な距離が消えますよね。
――アルバイトから入社されたとのことですが、入社して驚かれたことはありますか?
李:社会全体がテレワークの方向に動くとなった時、普通の会社だったら「いや、そんなのできないよ」となるのがほとんどじゃないかなと思います。弊社の場合、どうにかして実現したいという気持ちが先にあって、そこにみんなが向かうために、ルールを改正したりテレワークに関する制度を整備したりと、前向きに捉えていました。会社の中で、「みんなが同じ方向を向いて行くぞ!」みたいな熱量がありますね。社員が家族の一員みたいな感じで。
――高知オフィスでお仕事をされているとのことですが、周囲でもテレワークは浸透していますか?
李:高知ではまだ十分に浸透していない印象です。「仕事と言えば出社でしょ」みたいな雰囲気はありますね。だから弊社が地方でテレワークしていること自体が、とても革新的だと実感しています。私のいる高知テクニカルセンターでは積極的にテレワークを行っていて、自宅の環境を整備するなど、今でもいろいろとチャレンジをしているところです。
地方でテレワークを普及させるためには、まず「テレワークという存在を認知してもらうこと」が大切だと感じています。家でテレワークしていると、近所の人に会った時「最近仕事してないんじゃない?」と言われることもあって(笑)。反対に、「これはテレワークと言って、最近は家で仕事もできるんですよ」と、近所のおばちゃんから普及させると、ガっと広がると思います。自分が実践することで周りにも認知させて、地方でもテレワークが普及していく流れを作っていきたいですね。
――テレワーク環境準備一時金(※)の10万円は何に使いましたか?
※e-Janネットワークスでは独自の福利厚生として、継続的なテレワークを見据え、社員の自宅環境改善をサポートする目的で今年4月に「テレワーク環境準備一時金」10万円を支給した。
李:僕の部屋は、ミニマリストというかシンプリストというか、全然物がないんです。今まではテレワークの時も、ちゃぶ台の上にモニターとパソコンを置いてカタカタと作業をしていたんです。座椅子すらありませんでしたし。「腰が痛いな。やっぱりちゃんとデスク構えよう」と思い、業務で使っている環境に近づけるために、広い長いデスクを揃えました。
テレワークでは情報共有や評価し合う場が欠かせない
――テレワークで円滑なコミュニケーションを行っていく上で、役に立っている自社の取り組みがあれば教えてください。
李:フレックス制度や副業も認めてくれるというのもあり、ワークスタイルに多様性を持たせてくれている点もとても良いですね。高知の企業さんではまだ導入していないことも多いので、そうした制度も広めていきたいです。
あと、「e-Janアワード」と「トピックレポート」という二つの制度も僕はとてもユニークだと思っています。
e-Janアワードというのは、その年度の最後に、自分が関わったプロジェクトの内容を全社員に成果報告するイベントです。テレワークって、他の社員が何をしているのかなかなか見えづらいですよね。だから、年度の最後に自分の成果をアウトプットして「実はこういうことをやって成果を上げていたんだよ」というのを社員に紹介、アピールする場になっています。
個人でエントリーしたりグループでエントリーしたりするんですが、最後に全社員による投票が行われて表彰式も行います。表彰されると「よっしゃ!来年も何か新しいことやってみようか」とか「これ達成しよう!」とかモチベーションアップに繋がるので、とても良いイベントだと思います。
「トピックレポート」というのは、その年のプロジェクト遂行中にあった苦労話や裏話を共有するイベントです。例えば、何か製品をリリースする時に、開発からリリースまでの間「こんなところでとても苦労をした」とか「実はカッコよく言っているけど、こんな笑い話があって」とか、そういう裏話を聞けます。そこから得られる教訓を自分のプロジェクトに還元できますし、とても価値のある場だなと思っています。
――テレワークで見えない部分が増えて来ているからこそ、そうした共有する場があることはとても大切ですね。貴重なお話、ありがとうございました。
プロテレワーカー2人に共通していたこと
インタビューを終えて、二人の話に共通していたのが「仕事に切り替えるための自分なりのスイッチを持っていること」「できるだけ職場に近い環境を作ること」だった。加えて、自宅で仕事に集中するためには、デスクにものを置かないという〝ミニマリスト的思考〟も欠かせないようだ。
また、「複数のコミュニケーションツールをシーンによって使い分けること」「テレワークで見えない部分、情報を社員間で共有すること」も、社内コミュニケーションで大切な要素だとわかった。
二人の実践しているこれらのテレワークのポイントは、誰でもすぐに実践できるものばかり。まずは、真似しやすいものから取り入れてみてはどうだろうか。
【テレワークのプロが実践していること】
・仕事に切り替えるための自分なりのスイッチを持っている
・自宅内を実際の職場に近い環境を整えている
・机の上をできるだけキレイに保っている
・あらゆるガジェットやツールを活用し、社内のコミュニケーションを意識的にとっている
取材・文/久我裕紀
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