
悩めるビジネスマンのための映画案内『佐々木、イン、マイマイン』
「こんな人生を送るはずじゃなかった」…夢と現実の落差に落ち込んだ時に
学生時代にはさまざまな夢を描いても、社会に出ると多くの人はままならない現実の前に立ちすくむ。「こんなはずじゃなかった」と自分に失望し自己嫌悪に陥ってしまいそうな時に、抜け出すヒントを与えてくれるのが、映画『佐々木、イン、マイマイン』だ。
俳優を志して上京した石井悠二は、27歳になる今も芽は出ず、工場で箱を折るだけの単純作業で食いつないでいる。恋人のユキともうまくいかず、気まずい同棲生活を続ける中で偶然、高校の同級生で仲良しグループの1人だった多田と再会。悠二は、グループの中心にいて底抜けに明るくておバカなキャラクターだった佐々木を思い出す。
「やりたいことやれよ、お前は大丈夫だから」
悠二は、いつになく明るい表情で、ユキに彼との思い出話を語り出す。
「本当にアホでさ、誰かが佐々木コールをすると、どこでも服を脱いで、踊りだすんだよ」
悠二に「おまえ、役者になれ」と勧めたのも佐々木だった。そんなの無理、と驚く悠二に、佐々木は底抜けの笑顔で自信たっぷりに言い切る。
「やりたいことやれよ、おまえは大丈夫だから」
そんな佐々木の言葉に背中を押され、悠二は俳優を目指したのだ。
佐々木は父親と2人暮らしだったが、父は仕事でめったに帰ってこない。4人はそれをいいことに、佐々木のアパートをたまり場にし、他愛のないことで盛り上がって楽しく過ごしていた。そんな日々の陰で、佐々木の父親の息子への無関心さと無責任さ(荒れ放題の投げやりな汚部屋が物語っている)、気まぐれにふらりと帰ってくる父親とのふれあいを渇望する佐々木の痛いほどの寂しさも、繊細に描かれている。
「佐々木コール、来い!」
ある朝、教室で担任が、佐々木の父が亡くなったことを告げる。どう接していいかわからずとまどう仲間たちの前に、いつも以上に陽気に姿をあらわした佐々木。4人になった時、いつも通りに接しようとぎこちなくふるまう3人に、佐々木は突然、叫ぶ。
「佐々木コール来い!」
その時3人は気づく。佐々木コールは、深い孤独感を隠すための佐々木の、ぎりぎりの演技だったことに。その哀れさにただ涙する3人の姿に佐々木はさらに傷つき
「おまえら、しょうもねえや」
と捨てセリフを吐いて、去る。こうして4人グループの青春の日々は終わりを迎えた。
人は、誰かといても寂しい。その寂しさを救うのは、簡単なことじゃない
シーンは現代に戻り、悠二は彼の才能を信じる後輩の引き立てで、舞台作品に出演するチャンスをつかむ。彼が演じるのは、孤独の淵に落ちていく友人を救おうともがく男。佐々木との日々が蘇り、役と自分がリンクして演じることができなくなってしまった悠二に、演出家が諭す言葉が印象的だ。
「人は、一人でいる時だけが寂しいんじゃない。誰かといる時だって寂しいんだ。それを知っている君だから、この役を演じられる」
「(どんな苦しみを抱えていても、俳優は)表に立ったら、自分で輝け」
そんな時、佐々木の突然の訃報が届く。葬儀のためにひさびさに集まった3人。
「あの時、俺たちが佐々木コールをしていたら、佐々木は今も生きていたんじゃないか」
佐々木の孤独を救うことができなかった自分の無力さに苦しむ悠二。だが3人は、高校時代に通った思い出のバッティングセンターに立ち寄った時、佐々木が自分なりに前向きに生きようとし続けた証を目にする。
自分の人生に絶望した時は、別の誰かを演じてやりすごせばいい
映画の中で繰り返される「佐々木コール」は、次第に印象が変わっていく。最初は、無邪気で陽気で誰からも愛された佐々木の、輝きのオーラの象徴として。次に、佐々木の孤独の深さ、心の傷の深さの裏返しとして。だが映画のラストシーンでは、遺された仲間に向けた佐々木からのエールのように見えてくる。
人生がつらくてたまらない時は、無理をしてでも自分以外の“誰か”を演じることも、ひとつの乗り越え方であることを、この映画は教えてくれる。「こうだったよかった」と思う能天気で明るい佐々木が、現実の佐々木を鼓舞し励まし続けたように。そうやって人生の最低な瞬間を乗り越えていけば、いつか本当に輝ける日が来るかもしれない。「佐々木コール」は遺された仲間の胸にずっと残り、そう伝え続けているように思える。
大注目の新鋭監督&俳優が集結!
本作は、佐々木を演じた細川岳の高校時代の同級生とのエピソードが原案。細川が『ヴァニタス』という作品に出演した時、内山拓也監督に構想を伝えたことでプロジェクトがスタートした。
内山監督は、King Gnu “The hole” のミュージックビデオなどで知られ、2016年には初めて映像制作に臨んだ作品『ヴァニタス』が初の長編にしてPFFアワード2016観客賞を受賞した業界大注目の新鋭。本作はその内山監督による初の長編映画だ。
出演者オーディションでは、インディペンデント映画として異例の応募総数1,200越えを記録。内山監督の最新作への期待の高さをうかがわせた。主人公:石井悠二を演じるのは、『すじぼり』『his』『のさりの島』『関ヶ原』『ケンとカズ』の藤原季節。圧倒的な魅力を放つ佐々木を演じた細川岳をはじめ、萩原みのり(『お嬢ちゃん』『転がるビー玉』『街の上で』)、遊屋慎太郎(『帝 ーの國』)、森優作(『騙し絵の牙』)、小西桜子(『初恋』)、河合優実(『転がる ビー玉』)、井口理(King Gnu)、鈴木卓爾(『菊とギロチン』)、村上虹郎(『ソワレ』)など、20年代映画界を担う期待の新星から実力派俳優まで幅広いキャストが顔を揃えている。
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発売・販売:アメイジングD.C.
©「佐々木、イン、マイマイン」
文/桑原恵美子
編集/inox.
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