児童買春や児童ポルノなど子どもが巻き込まれる性犯罪が後を絶たない。中には自分が性被害に遭ったと気づかないような幼い子どもが被害者になることもある。我が子が性犯罪に巻き込まれないために、今すぐ家庭で実践できることを「とにかく明るい性教育『パンツの教室』」代表理事、のじまなみさんに聞いた。
【取材協力】
のじま なみさん
とにかく明るい性教育「パンツの教室」協会代表理事。性教育アドバイザー。
(パンツの教室)
元泌尿器科看護師。3人の娘の母。性教育をもっと、明るく、開放的に子どもたちとしてほしいという思いから2018年に同協会設立。国内外10000人以上に、家庭でできる楽しい性教育を伝える。著書に「男子は、みんな宇宙人!世界一わかりやすい男の子の性教育」(日本能率協会マネジメントセンター)「お母さん!学校では防犯もセックスも避妊も教えてくれませんよ!」(辰巳出版)などがある。
子どもを取り巻くインターネット社会
自らを撮影した裸体をメールなどで送るなど、SNS利用による性被害が増加。昨年1年間で被害にあった18歳未満の子どもは2000人近くという。ネット空間で多くの人とつながることが可能になり、悪意を持って子どもに近づく大人もいる。このような事件が増える背景には新型コロナウイルス感染拡大の影響もあるとのじまさんは話す。
「在宅時間が増えたことで、子どもたちのSNSに触れる時間も多くなりました。長引く自粛生活で親はイライラが募り、仕事を失い生活に困窮する人も。大人が不安定になると、子どもは家庭に居場所がなくなり、インターネットに心のよりどころを求めます。このような子どもたちは、小児性愛者にとって恰好のターゲット。『君は悪くないよ、可愛いね』など優しい言葉を掛けられると、この人は理解者だと子どもは思い込んでしまうのです。
コロナ禍、学校では1人1台の学習用PCと高速ネットワーク環境の整備する取り組みが加速しています。また、スマートフォンは子育てに欠かせないものになりました。しかし、フィルタリング機能は万全ではありませんよね。音声検索を使いこなし、小さな子どもであってもアダルトサイトにアクセスすることは容易。性の情報に触れることを避けるのが難しいのが現状です。スマホやタブレットを手にする機会が多くなれば、ますます犯罪に巻き込まれる子どもが増えることが懸念されます」
身近に潜む性犯罪
親が子どもに言う「知らない人について行ってはいけない」だけでは子どもを性犯罪から守ることはできない。加害者は学校や塾の先生、子どもを見守る立場のボランティアなど顔見知りのケースも多い。
「信頼できる大人が加害者の場合、子どもは自分のされていることが犯罪だと気づかないこともあります。体を触られたり、写真を撮られたり…、『なんか変だな』と思っても、『内緒だよ』などと言われれば、誰にも相談できません。
さらに、子どもは親の性教育に対する拒否感を何となく感じています。防犯意識を持たせることはもちろん、何かあった時、親に話す環境をつくるためにも性教育は必要です」
性教育の3つのメリット
早期から性教育をするメリットについて、のじまさんは次の3点を挙げる。
1、自己肯定感が高まり、自分も人も愛せる人間になる
2、低年齢の性体験、妊娠・中絶のリスクを回避できる
3、性犯罪の被害者にも、加害者にもならない
それでは、のじまさんのアドバイスに従って性教育を始めてみよう。
プライベートゾーンの概念を持たせる
「自分の体には人に見せても触らせてもいけない自分だけの大切なプライベートゾーンがあるという捉え方は性教育に欠かせません。同協会では、小さな子どもでもイメージしやすいよう“水着ゾーン”という言葉で表現。水着で隠れる、“胸”“性器”“お尻”、そして“口”です。これは男の子も女の子も同じ。『水着ゾーンは大切だよ』と言い続けていると、何かあった時、『あれ、おかしいな』という第六感が働くようになるんです」
※「水着ゾーン」は株式会社TerakoyaKidsの登録商標
3歳から始める
「3歳は親の言葉を理解できる年齢。そしてこのような低年齢の子どもたちも、性別関係なく被害者になるということを念頭に置いておかなければなりません。また、どうしても被害者にならないように気を配る親が多いのですが、加害者になる可能性だってあります。
4~5歳になるとお友達に性器を見せたり、“カンチョー”や“スカートめくり”をしたり、小学校中学年・高学年以降になると、卑猥な画像や動画を送ったりと、だんだんエスカレートすることも。無知がゆえに悪戯感覚でやっていることかもしれませんが、相手の心に深い傷を負わせ、性に対する嫌悪感を抱かせてしまうことだってあります。そんな“うっかり加害者”にならないためにも性教育を始めるのは3歳がベスト」
日常生活あらゆる場面で
「水着ゾーンは着替える時やトイレなど様々な場面で教えることができます。中でも一番いいのはお風呂。テレビやスマホから離れ、親子でゆっくり話ができる時間ですし、子どもは大人との体の違いを確認できます。『自分の大切な場所は自分で洗ってね』、洗ってあげる場合は『水着ゾーン、失礼しまーす!』などと声を掛けてください。水着ゾーンの意識付けを図ることで、私の体は親でも同意がなければ触らせてはいけないもの、また触ってもいけないものだという感覚が身につきます」
お風呂でパンツを自分で洗う習慣を
「同協会では3歳から子ども自身でパンツを洗うことを提案しています。近い将来、男の子は精通で、女の子はおりものや経血でパンツを汚すことがあります。そんな時、焦らないように小さい頃から自分で汚したものは自分で後始末をする習慣を身に付けておくとよいでしょう。自立に向けた家庭教育にもなるし、自分の体を知るバロメーターにもなります。そして生理って、精通って、命とは…という話につなげることもできます」
恥ずかしいのは親ばかりなり
「性教育はまだまだタブー感が強いですけど、交通事故と同じくらい大きな傷を負うことになり、負わせることになります。性教育も交通ルールと同じように、やっていいこと悪いことを教え、第六感を養わせないといけない。親が知りうる限りのシチュエーションを伝えていくことで、子どもたちは初めて防止策をとることができるのです。
親はどうしても性教育=SEX教育だという思いがあるから、恥ずかしいという概念が生まれてしまう。しかし性教育は子どもたちにとって愛です。『大好きだよ』と言うのも、命の尊さを伝えるのも、身を守ることを教えるのも性教育。子どもに知識というお守りを持たせてあげるために、ハードルの低い所からスタートしてほしいですね」
のじまさんによれば、正しい性教育を受けた子どもは痛み、悲しみ、苦しみを理解できるようになるという。被害者にも加害者にもならないために、性に対するマナーやモラルは口を酸っぱくして伝えていかなければならない。
取材・文/佐野恵子