デジタル・トランスフォーメーションが進む社会で、新しい金融機能として注目されている「ブロックチェーン」関連の取り組み。その一角にある「セキュリティ・トークン・オファリング」という仕組みを聞いたことがあるだろうか。
STOと略せる仕組みで、企業などがブロックチェーンを使って株式を発行し、資金を調達する仕組みである。
ブロックチェーンを使って発行した株式などを「セキュリティ・トークン」(ST)といい、それを募集する意味である「オファリング」が付く。
資金調達とくれば株式の取り扱い。株式と言えば証券会社ということで、2021年3月と5月に大手証券会社が相次いでSTOを取り扱うべく手続きを完了したと発表した。
ビジネスとして何が魅力なのだろうか。証券会社を動かす原動力は何か。まとめてみた。
■SBI証券とSMBC日興証券のSTO取り扱いの発表
・2021年3月26日 SBI証券、国内初となるSTO取扱いに係る変更登録完了のお知らせ/SBI証券
・2021年5月25日 セキュリティトークンオファリングの取り扱いに係る変更登録完了のお知らせ/SMBC日興証券
■STOのイメージ図解(LIFULL社の事例より)
引用元:LIFULL社プレスリリースより
大手不動産関連企業LIFULL社が立ち上げたSTOのプラットフォーム。不動産クラウドファンディングと記述があるが、図のSaaSの部分を一般企業と読み替え、STを発行した後、投資家を募るときに証券会社が募集を引き受けるのが、STOの仕組みである。
STOは絵空事ではない。すでに現実のものになっていた
ブロックチェーンと聞けば実証実験。と思い浮かぶ@DIMEの読者の皆さんは少なくないはず。
ではSTOも実証実験とか構想を述べただけで、実現にはほど遠い……というわけではない。
先に述べたSBI証券は、金融機関として一般投資家を対象に、2021年4月にSTOを実施。
社債と言う、会社の借用書を証券にして投資家へ販売するものをセキュリティ・トークン化。それをSBI証券が募集した形だ。社債の発行元がSBI証券であるため、一般企業が証券会社に依頼した事例ではないものの、反響を呼べたとみて間違いない。
■SBI証券のSTOの事例
引用元:SBI証券
募集の仕方などは、セキュリティ・トークンを使わない従来の社債の募集と同じで、購入したい投資家が申込を行い、対価を支払う形式。
従来の資金調達の仕組みIPOに比べてSTOは手続きが効率化できるメリットがある
なぜ証券会社はSTOを取り扱うのだろうか。ブロックチェーンや暗号資産ブームに乗じた収益源の獲得という見方もできるが、従来の資金調達の仕組みIPOに比べて、事務手続きを効率化し、金融機能で重要な取引の透明性や、流動性の向上が期待できるからだ。
IPOは「Initial Public Offering」の略称で、東京証券取引所などの取引所に株式を上場し、投資家が自由に売買できるようにすること。取引が非公開だった株式を公開することで、より多くの投資家を募ることができる。上場するためには、証券取引所の審査が義務付けられている。IPOを取り扱えるのはSTOと同じく証券会社だけとなっている。
■証券取引所での上場申請に必要な書類例
引用元:日本取引所グループ
10種類以上の書類提出が求められている。事務コストがかかる分、投資家には信頼を届けることができる。
IPOでも取引の透明性や流動性の向上が期待できそうだが、取引を行う証券取引所の取引時間や、取引参加者に比べて、より広範な投資家にアプローチでき、ブロックチェーンのネットワークが続く限り取引ができるSTOの方が、さらに透明性や流動性の期待値が高いというわけだ。
(参考)「IPO」とは何のこと?投資を始める前に覚えておきたいキーワード/@DIME
ところで、STOの発行元になる企業には、ブロックチェーンのネットワークを構築したりなど、IPOとは異なった手続きが必要なので、かえってコストがかかるかもしれない。という懸念がある。株主の管理や配当金の支払い事務などを丸ごとデジタル化し、透明性や流動性の向上で得られる便益の大きさとのコストをどう考えるかが課題となりそうだ。
改正金融商品取引法の施行から1年がたち、ビジネス本格化の兆しが見えてきた
証券会社がSTO取り扱いを表明した法的な原動力もある。
2020年5月1日に施行となった、改正金融商品取引法や関連法令で「電子記録移転有価証券表示権利等」が規定された。つまり、上場株式や投資信託や債券の取引勧誘をするときと同じように、STOを行うためのルールが明文化された。
この改正から1年がたち、いよいよ証券会社がビジネスを本格化できるようになってきたというわけだ。他の証券会社も追従して動き出すとみて間違いない。
文/久我吉史