
「ブルガリア」と聞いてどんなイメージが浮かぶだろうか。
ヨーグルトを真っ先に思い浮かべる人が多いと思うが、ブルガリアは東欧有数の、歴史の古いワイン生産国の一つだ。そして実は、日本への輸入量がじわじわと右肩上がりで増えているという。
千円台から購入できる魅力的な価格帯に加え、これから日本で益々親しまれることが期待される「ブルガリアワイン」をご紹介したい。
6000年の歴史を誇るブルガリアワインとは?
Bulgarian Winemaking & Export Association(ブルガリアワイン製造輸出協会)主催による「ブルガリアワイン・セミナー」は、これからブルガリアワインのブームを予感させるような大変興味深い内容だった。
講師は大橋健一MW(マスター・オブ・ワイン)。
【参考】日本在住でたった1人!ワイン業界で最も権威のある「マスター・オブ・ワイン」に36歳で挑戦、合格するまでに実践した3つのこと
マスター・オブ・ワインとは、ワイン業界において世界中の有識者が目指す最難関の学位であり、大橋MWは日本在住の日本人でただ一人その学位を保有している。
ブルガリアの基本情報
ブルガリアはギリシャの北に位置し、東側を黒海に面している。北緯42~43度で札幌市と同じ緯度にあるが、札幌ほど寒くない気候だ。日本の3分の1の国土面積で、人口は約700万人。親日国家としても知られている。主な産業は、ヨーグルト、乳製品、小麦・大麦、薔薇など。
ブルガリアワインの歴史
なんと6000年の歴史を持つブルガリアワイン。古代ギリシャ神話のディオニソスは、古代トラキアで誕生したお酒の神様である「デューニシウス」が起源とされる。また、ブルガリアワインは香り高くて甘いワインとして有名だったという。
14世紀にはオスマン帝国の支配下となり、長い間ワインの醸造が途絶えた時代もあった。独立後、1947年にワイン産業が国営化される。旧ソ連にワインを供給していたことから、旧ソ連が好む国際品種のブドウに植え替えられた。1980年代~1990年代にかけて、ヨーロッパを席巻するワイン輸出大国となり、世界第二位にまで上りつめたが、その後はその勢いがやや後退している。
ブルガリアのワイン用ブドウ畑は約2万haで、フランスのアルザス地方と同程度だ。
現在270のワイナリーがあり、その面積の29%でブルガリアの土着品種が栽培されている。
そして、ブルガリアはワイン業界での女性従業比率が最も高い。カリフォルニアでは14%のところ、ブルガリアは47%だ。女性が活躍している国だということも知っておきたい。
ブルガリアワインの輸入量は右肩上がり
現在、ブルガリアからワインを最も輸入する国はドイツだが、日本への輸入量はこの5年間に右肩上がりで増えてきている。
その理由として、インコタームズ(国際貿易取引条件)のCIF価格の安さが挙げられる。輸入ワインでCIF単価が最も高額なのは1リットル当たり約1700円のアメリカで、ブルガリアは約400円だ。
「CIF単価がスペインより高いにも関わらず、ブルガリアワインの輸入がどんどん増えているということは、ブルガリアで生産されているワインは品質が高いということを日本が理解していると言えるのではないだろうか」と大橋MWは解説した。
日本では小売よりも、イタリアン、ビストロなどの飲食店でブルガリアワインがよく売れている現状がある。スーパーなどで見かけることはまだ少ないが、飲食店に従事する「ワインのプロ」がブルガリアワインに注目し、提供している事実も覚えておきたい。
ちなみにブルガリアでは、自分の庭で栽培したブドウからワインを造ることも認められており、ワインショップやレストランでも売ることができる。そのような意味でもとてもユニークな国である。
ブルガリアワインを代表する6つの土着品種
ブルガリアで生産されるブドウは、黒ブドウがやや多く、1位はメルロで、以下カベルネ・ソーヴィニヨン、ミュスカ・オットネル、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランの順になる。
ミュスカ・オットネル以外は世界中で栽培される国際品種で、過去に国際品種を大量に生産していた歴史を物語っている。
「メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンが多いのは、一つの優位性になります」と大橋MWは話す。過去によく売れたワイン用ブドウの樹齢が、古くなってきたのだ。全ブドウの栽培面積の半分以上が樹齢30年を超え、今では良質なブドウを生み出す傑出したアドバンテージになっている。
次に、土着品種の復興熱が上がってきている今、ブルガリアを代表する6つの土着品種をご紹介したい。
1.メルニック(Melnik:黒ブドウ)
ストゥルマ・ヴァレーで栽培され、偉大なワインを造ると言われていることで有名なブドウ。
2.レッド ミスケット(Red misket:白ブドウ)
甲州のようなピンク色をしているのが特徴。非常に晩熟で耐寒性に弱い。アルコール度数も低く、酸も低めになる。
3.マヴルッド(Mavrud:黒ブドウ)
ブルガリアを代表するブドウの一つ。晩熟で耐寒性に弱く、高い酸が特徴。ブルガリアにおけるカベルネ・ソーヴィニヨンのようだとも言われている。
4.ディミャト(Dimyat:白ブドウ)
ニュートラルで多産。耐寒性に乏しいので、黒海沿岸で栽培されている。
5.ルビン(Rubin:黒ブドウ)
シラーとネッビオーロを掛け合わせたブドウで、リッチでパワフルなワインを造る。カベルネ・ソーヴィニヨンに含まれるポリフェノールの1.5倍も含まれており、非常にタニックである。
6.ギャムザ(Gamza:黒ブドウ)
ブドウの皮は薄く、ラズベリーやクランベリー系の赤い果物の香りがし、タンニンも控えめ。ピノ・ノワールのようだと言われている。
5つのワイン産地
東側が黒海に面するブルガリアは、7月でも気温は23~24度ほどとなり、中部イタリアや南仏よりはやや濃いワインを造るのが特徴だ。
5つのワイン産地があるが、押さえておきたいのはトラキアン低地だ。マヴルッド、ルビンなどの土着品種を造り、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど国際品種においてPDO(※)に認可される産地もある。最近ではオーガニックに向けて動くワイナリーも多い。
(※)ブルガリアでは、フランスの原産地呼称制度のような法律が存在しており、保護地理的表示「PGI」や、保護原産地呼称「PDO」のロゴが付いたワインは高品質なワインであることが分かる。しかし、これらの保護されている地域をまたぎブレンドでワインを造ることが多いため、実際にはPGIやPDOのワインは少ないのが現状だ。
ブルガリアワインの気になる味わい
3つのワイナリーから送られてきた計10種類のワインを試飲した。その中でも特に印象に残ったワインをご紹介する。
1.Sonata Chardonnay and Sauvignon Blanc 2017(ブドウ品種:シャルドネ60%、ソーヴィニヨン・ブラン40%)
Winery:Katarzyna Estate
シャルドネとソーヴィニヨン・ブランのブレンド。
フルーティで凝縮感があり、よもぎやハーブの香りもする。熟成感のある、綺麗にまとまっている印象の白ワインだ。「余韻に感じる熟成感は、古き良き時代のボルドーのグラーヴを思わせる印象がある」と大橋MWはコメントした。
6.Mavrud 2017(ブドウ品種:マヴルッド100%)
Winery:Katarzyna Estate
7.Bulgarian Heritage Mavrud Reserve 2016(ブドウ品種:マヴルッド100%)
Winery:Via Vinera Winery
Mavrud(マヴルッド)を比較試飲した。
6.(上の写真左)は、熟したイチジクのような甘い香りと、スパイス、スミレなどのとても優美な香り。タンニンはしっかりとあり、余韻は非常に長く、アルコールの強さも感じる(14.5%)。アメリカのカベルネ・ソーヴィニヨンのようなジューシーな甘みも感じた。
7.(上の写真右)は、マヴルッドで有名な2007年創業のワイナリーのワイン。6.と外観は似ているが、ベリー系の香りとインクや土のような香りもする。やや乾き気味のタンニンの主張もある。
「両方ともジュージーで、高品質なブドウ果のようなグレーピーなニュアンスがあります。タンニンはかなりしっかりとしており、口内に滋味深さをもたらしてくれます。二つの共通は『ジューシーさ、酸は保持しながらもタニックであること』です」と大橋MWは解説した。
ほかにもメルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーなどの国際品種で造る赤ワインは、リッチでボリューム感と厚みを感じるワインが多く、その発見も実におもしろかった。
興味深い! ブルガリアの食文化
ワインに欠かせないのが食事だが、最後にブルガリアの代表的な料理をいくつかご紹介したい。
・Shopska salad with rakia(ショプスカサラダ)…野菜に水牛のフレッシュチーズを散らし、ラキアという果物から造るスピリッツをかけながら食べるサラダ
・Mish-mash(ミッシュ マッシュ)…トマト、パセリ、にんにく、チーズなどを卵と合わせ炒めた家庭料理。ブルガリア版スクランブルエッグ。めちゃくちゃという意味の料理。
・Gyuvech(ギュヴェッチ)…唐辛子、豆、なす、ひき肉を煮込んだシチュー
・Meshana skara(メシャナ スカラ)…ミクスドグリル。いろいろなソーセージ類を一緒にグリルする。
ブルガリアは「とにかくお肉をたくさん食べる国」だそうだ。特にソーセージやサラミなど「ひき肉」を使った料理が多いので、フルボディの赤ワインとの相性は特に良さそうだ。
ブルガリアワインはこれからブームの予感!?
2007年にEUに加盟し、現在では各国にワインのプロモーションを展開するブルガリア。
今回セミナーに参加し、ブルガリアワインを今から知っておくとお得かも? と感じた。
その理由は、今は比較的安価にワインを購入できて、今後さらなる品質の向上を期待できることだ。
現状、ブルガリアワインのほとんどがテーブルワインで、千円台から購入できる。はじめにカベルネ・ソーヴィニヨンなど、フランスとブルガリアの同じブドウ品種の飲み比べを楽しんでから、「マヴルッド」などの土着品種の個性を味わうのもおもしろいだろう。
また、諸外国で経験を積んだワインメーカーが、続々とブルガリアでワイン造りに励んでいる。ワインの品質は日々向上しており、土着品種から造られるワインの価値向上、中価格帯や長期熟成可能なワインのさらなる誕生など、今後の発展に目が離せない。
そして、日本の女性審査員による国際ワインコンペティション「SAKURA AWARD」において、ブルガリアワインの「ENIRA RESERVA 2015」(メルロやシラーなどの国際品種をブレンドした赤ワイン)が、最高峰の「ダイヤモンドトロフィー賞」を今年初めて受賞したことも記したい。
ポテンシャルも高く確実に注目されてきているブルガリアワイン。成城石井、イオンでワイン、トラキアトレーディングなどの通販サイトでも購入できる。今、価格も手頃なうちにぜひ1本試してみて欲しい。
※記事内の情報は記事公開時のものです。
(参考)【試飲ワイン一覧】
①Sonata Chardonnay and Sauvignon Blanc 2017, Katarzyna Estate
②Bulgarian Heritage Rose Mavrud 2019, Via Vinera winery
③Gramatik Melnik 55 2015, Rupel Winery
④Gramatik Merlot 2015, Rupel Winery
⑤Via Vinera Syrah and Cabernet Franc 2017, Via Vinera Winery
⑥Mavrud 2017, Katarzyna Estate
⑦Bulgarian Heritage Mavrud Reserve 2016, Via Vinera Winery
⑧Gramatik Ekzarh 2015, Rupel Winery
⑨Encore Syrah 2016, Katarzyna Estate
⑩Question Mark Cabernet Sauvignon & Merlot 2016, Katarzyna Estate
【講師紹介】
大橋健一MW
酒類専門店の株式会社 山仁(栃木県宇都宮市)代表取締役社長。自らのコンサルタント会社株式会社Red Bridge をベースに国内外のワイン&日本酒業界で活躍。世界最大級のワイン・コンクールとなるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)のパネル・チェアマンも務める。日本酒の分野でも(独)酒類総合研究所の清酒専門評価者の資格も保持している。名実ともに日本酒とワイン、双方のシーンに深く精通した数少ないThe Wine & Sake Expertである。
【主催】
Bulgarian Winemaking & Export Association
https://wineexport.bg/
【協力】
株式会社Red Bridge
取材・文/Mami
(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート
https://mamiwine.themedia.jp/
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