人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

イライラ妻とオドオド夫の妙が面白いリアリティ離婚劇、映画「幸せの答え合わせ」の見どころ

2021.05.27

■連載/Londonトレンド通信

 ウィリアム・ニコルソン監督『幸せの答え合わせ』は、妙にリアリティのある離婚劇だ。リアリティを出しているのは、アネット・ベニング、ビル・ナイ、両ベテランの演技だけではない。ニコルソン監督の実体験が基と聞けば、腑に落ちる。

 作家でもあるニコルソン監督だが、脚本家として、より成功してきた。『グラディエーター』(2000)、『レ・ミゼラブル』(2012)など大感動作にも、脚本チームの1人として加わっている。

 だが、やはり脚本も書いた今回の映画に、感動はない。あるのは苦い悔恨だけ、それが結婚、だから離婚にも至る。とは言い過ぎかもしれないが、たぶん、この映画でビル・ナイが演じるエドワードにとってはそうだ。

 基になっているのは、ニコルソン監督が経験した両親の離婚だ。ジョシュ・オコナー演じるジェイミーが、監督の位置になる。成人して、独立もしているジェイミーが、母グレースと父エドワードの間に立ち、心を砕く。

 冒頭から、紅茶をめぐって、攻め口調のグレースと、弁解するエドワードが描かれる。どこの家でもありそうな暮らしの一コマだ。

 離婚劇にも、感動作はある。最近では、『マリッジ・ストーリー』(2019)が、離婚に向かう中にさえあるお互いへの想いで、心を揺さぶった。さかのぼっていくと、現在と出会いの頃を交互に描くことで切なさを募らせる『ブルーバレンタイン』(2010)、夫婦のどちらかが離れなくてはならない幼い息子への愛しさが涙を誘う『クレイマー、クレイマー』(1979)もある。それぞれタイプの違う映画だが、ざっくり言うと、別れとのジレンマで際立つ愛が感動になった。

 一方、『幸せの答え合わせ』に愛はない。少なくとも際立つほどにはない。際立つのは勘違い、すれ違いだ。ポンポン言うグレースの方は、夫婦の間で遠慮なく言いあっているだけで、愛はあると思っている。だが、エドワードの方は冷めている。

 原題『Hope Gap』 は、背景として登場する、夫婦が暮らすイギリス南部のシーフォード近くにある入り江だ。希望のずれと訳せば、夫婦の状態を暗示するようでもある。

 気の毒なのは、調停役にされてしまうジェイミーだ。ニコルソン監督は、以前にも同様の題材で舞台劇『The Retreat from Moscow』を書いている。よほど心に残る、ひょっとしたらトラウマになった体験なのかもしれない。

 エドワードに別れを切り出され、寝耳に水のグレースは大荒れだ。話し合いどころではない。夫婦それぞれが胸の内を明かせる相手は、息子ジェイミーになっていく。

 30年近い結婚生活のすえに、エドワードが別れを切り出したのは、ご多聞に漏れず、別の女性がいるからだ。

 職場で出会った、グレースより若い女性というのも、よくある話だ。オドオドするのも納得だが、そればかりが原因とも言い切れない。むしろ、グレースといてオドオドするのに疲れたところへ、安らぎを感じる女性が現れたというふうでもある。

 三者顔合わせとなるシーンが印象深い。女性はグレースに淡々と告げる。「前は3人の不幸な人がいました。今、不幸な人は1人です」。

 感情的な言葉を吐かず、数字で表すあたり、逆に妻の立場から、「私たちの結婚には3人の人がいました。ちょっと混んでいました」と語り、悲しく微笑んだダイアナ妃を思い出した。繰り返し流された“世紀のインタビュー”だが、イギリス人はこういう言い回しが得意なのだろうか。泣いたり、わめいたりするより、よほど訴える。

 さて、不幸な1人となったグレースはどうなるのか。そもそも、どうしたらよかったのか。それとも、惨いほど正直にエドワードが明かすように、最初から間違った結婚だったのか。では、新しい女性となら間違っていない結婚になるのか。それなら、間違った結婚でできたジェイミーの立場は。割り切れない思いを残す映画だ。

6月4日(金) キノシネマほか全国順次公開
提供 木下グループ 配給 キノシネマ
© Immersiverse Limited 2018

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

新型コロナウイルス対策、在宅ライフを改善するヒントはこちら

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2021年7月15日(木) 発売

DIME最新号の特別付録は「LEDリングライトPREMIUM」! 特集は「今、読むべき 観るべきマンガとアニメ」、「2021上半期ヒット商品大検証」

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 10401024号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。