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宇宙ベンチャーReaction Enginesがアンモニア燃料を使った飛行機のエンジン開発を進める理由

2021.05.23

アンモニア燃料を使った飛行機のエンジンを開発している宇宙ベンチャーが存在する。英国の宇宙ベンチャー企業、Reaction Enginesだ。彼らは、実は宇宙ベンチャー企業であり、ハイブリッドエンジンSabreを搭載した次世代輸送機を開発している。では、なぜ、宇宙ベンチャーである企業が、旅客機のアンモニア燃料のエンジンを開発しているのか、Reaction Enginesについて、そして、アンモニア燃料のエンジン開発の詳細、そしてアンモニア燃料社会の必要性についても踏まえながら少し深掘りしてみたいと思う。

次世代輸送機を開発するReaction Enginesとは?

Reaction Enginesとは、英国の宇宙ベンチャー企業で、ハイブリッドエンジンSabreを搭載した次世代輸送機の開発を実施している。1989年に設立、現在シリーズB、約160億円の資金調達を成功させている。欧州宇宙機関ESA、UK Space Agency、アメリカのDARPA、そしてBoeing、ROLLS ROYCE、BAE SYSTEMSの企業などがパートナーとなり、技術開発を実施している。

以下の次世代輸送機のイメージをご覧いただきたい。有翼型の完全再利用型の輸送機で、宇宙空間で胴体の蓋が開き、そこからさらに輸送機、OTV(Orbital Transfer Vehicle)、ペイロードなどが放出されるようだ。

ハイブリッドエンジンをご存知だろうか。ハイブリッドエンジンとは、大気中の飛行では飛行機のエンジンのように空気中の酸素を使い、空気のない宇宙空間の飛行ではロケットのように動作する2つの要素を備えたエンジン。大気中では限界のマッハ5を、宇宙空間ではマッハ25のスピードを実現できるという。2021年2月17日にも、ハイブリッドエンジンSabreの熱交換器と水素プリバーナーの試験を完了したプレスリリースも発表し順調のようだ。

Reaction Enginesの次世代輸送機のイメージ
(出典:Reaction Engines

Reaction Enginesの次世代輸送機の動画はこちら

実は、Reaction Enginesがすごいのは、このハイブリットエンジンの開発だけではない。それは、“熱交換技術”。ハイブリットエンジンの開発で得られた技術を応用した“熱交換技術”が、多くの産業で革新をもたらす可能性があるのだ。実際に彼らは、自らを「熱交換器製造の開発において世界をリードする専門家」と呼んでいる。

熱交換技術とは、例えば、次のような普通のロケットでも使われている。ロケットのエンジン部分は約3,000度の高温の燃焼ガスに曝され、耐熱合金で製造されたエンジンノズルスカートも溶けてしまう温度だ。しかし、液体水素などをノズルスカートの壁面のチューブに流すことで冷却している。

現在、Reaction Enginesでも、大気中のマッハ5での飛行時に想定されるエンジンのノズルの温度約1000度を“一瞬”にして急速冷却する予冷ターボ技術を実証したという。これらの技術開発から、他にも応用技術が得られているという。例えば、EVの電気自動車のバッテリーに活用が期待されるHXLIFE™ (Heat eXchange Lightweight Isothermal Flexible Extraction) foilsという軽量でフレキシブルな断熱フォイル。これにより熱管理が可能になり。急速充電を可能にしたり、バッテリーの小型軽量化に寄与できたり、バッテリーの寿命も延ばすことができたりするという。他にも自動車分野でも、発電分野でも応用可能という。そして、アンモニア燃料の飛行機エンジン。今、世界では、カーボンフリーが注目されている。これらの応用技術を紹介したいが、今回は、アンモニア燃料を使った航空機エンジン開発にフォーカスしたいと思う。

Reaction Enginesは、なぜ飛行機のアンモニア燃料を使ったエンジン開発を進めるのか?

では、なぜ、Reaction Enginesは、アンモニア燃料の飛行機エンジンの開発を進めているのだろうか。理由は、次のようだ。一つ目は、カーボンフリー。英国は、航空産業においても、2050年までにカーボンフリーな社会を実現することを目標としていること。余談だが、日本でも、アメリカが主催する気候変動サミットの前に、菅首相が温室効果ガスの削減目標を2030年度に2013年度比で46%削減すると表明している。他にも、日本は、2050年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を掲げている。

2つ目は、Reaction EnginesのハイブリッドエンジンSabreの開発で得られた熱交換技術を活用することで、カーボンフリーなアンモニア燃料の飛行機エンジンの開発の可能性があることだ。

Reaction Enginesのアンモニア燃料の航空機エンジンの原理は以下のようだ。主翼の内部などにある燃料タンクには液体アンモニアが貯蔵されている。この燃料タンクから、アンモニアは、Sabreで得られた熱交換技術によってエンジンの熱を利用することで温められ加圧されエンジンまで汲み出される。そしてアンモニアは、触媒によって化学反応を起こし。水素を分解する。そしてこのアンモニアと水素の混合気体が燃焼され、推力をえるのだ。そして、この燃焼によって排出されるのは、窒素と水蒸気のみとなるのだ。

飛行機のアンモニア燃料を使ったエンジン
(出典:Reaction Engines

現在の飛行機では、燃料はケロシンという軽油を使っている。軽油は、エネルギー密度が高い、価格が安いというメリットがあるが、二酸化炭素を放出してしまうのだ。一方、アンモニアは、軽油に比べてエネルギー密度1/3程度で、まだコスト高というデメリットもあるが、液化して保存するのが比較的容易、二酸化炭素を排出しないというメリットがある。

実は、すごく重要なアンモニア

アンモニアは、人の生活においても必要不可欠なもので、実はとても重要だ。例えば、カーボンフリーな社会の実現だ。今、カーボンフリーな社会を実現するべく、さまざまな技術開発が行われている。主に議論されているのは水素社会かもしれないが、アンモニアを燃料とする社会についても議論がある。他にも、アンモニアは、約8割が肥料の原料、残り約2割が食品・医薬品の原料などに利用され、アンモニアなしでは、人の生活は成立しない。しかし、100年以上前に発明されたハーバー・ボッシュ法というアンモニアの生成方法から現在までに大きな進展はなく、この方法は大型で高コストな設備を必要とすること、生産拠点から需要地までの輸送、保管コストがかかるなどの課題もある。

では、どうやってアンモニアを合成するのだろうか。実際に、太陽光発電で得られた電力を使って水を電気分解することで得られたCO2フリーな水素と空気中の窒素からアンモニアを合成することが可能なのだ。

この生産技術は、日本でも産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所、ベンチャー企業のつばめBHBやアメリカのStarfire Energyなどが同様な手法でアンモニアの合成に着手し、上記のハーバー・ボッシュ法での課題を解決することで、事業化を目指している。他にも、つばめBHBでは、ラオス国の余剰水力発電を活用して、アンモニアを合成し、現地の鉱山などのリンやカリウムを使って、肥料生産を手がけている。

アンモニアの製造技術
(出典:つばめBHB)

そして、Reaction Enginesのような宇宙ベンチャーも、主軸の技術開発から得られた“熱交換技術”という応用技術によって、アンモニアを使ったカーボンフリーな社会の実現に大きく貢献しようとしている。

目指すベクトル、活動している産業分野は違えど、共通項が存在するところがとても興味深い。とてもスマートなReaction Enginesの事業戦略、技術戦略を今後もウォッチしていきたい。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。

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