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【今月の一冊】直木賞受賞必至!ノワール小説の傑作「テスカトリポカ」佐藤 究

2021.05.29

『テスカトリポカ』佐藤 究

 2013年、メキシコ北東部で勃発した二大麻薬カルテルの戦争。無辜(むこ)の市民をも巻き込み、批判的なジャーナリストや作家を惨殺し、血で血を洗うすさまじい抗争の果てに、2015年、ロス・カサソラスを仕切っている4兄弟の皆殺しを、新興のドゴ・カルテル側がドローンを使った空爆で試みる。たった1人生き残った三男のバルミロは命からがら国外へ脱出。インドネシア共和国のジャカルタで、移動式屋台のオーナーになり、〈調理師(エル・コシネーロ)〉と名乗る一方で、裏では安い麻薬を客に売りさばき、虎視眈々と復活と復讐の機会を狙う日々を送っていた。

 そこに裏商売のほうの客として訪れるようになったのがタナカという偽名を使う末永充嗣。もともとは優秀な心臓血管外科医だったのだが、コカイン常習による運転ミスで少年を轢き殺し、逮捕から逃れるために整形手術を受けてジャカルタへ。臓器売買のコーディネーターにまで身を落としていた。

 その2人が手を組み、ビッグビジネスを計画する。それは〈血の資本主義(ブラッド・キャピタリズム)に輝くダイアモンド〉である心臓の売買。日本国内で、様々な事情から戸籍を持たない子供たちを保護の名目で連れ去り、生きたまま心臓を摘出し、6億円以上もの高値で心臓病の子供を持つ世界の大金持ちたちに売るのだ。

 それを成功させるために、バルミロは故郷で失った〈家族(ファミリア)〉を再構築。自ら人材をスカウトし、それぞれにスペイン語の呼び名を与え、〈おれたちは家族だ(ソモス・ファミリア)〉の号令のもと、忠実な部下に育てあげていく。その最後の切り札ともいうべき存在が2mを超える巨漢の青年・土方コシモだった──。

臓器売買に手を染める偽りの〝家族〟の物語

 来る7月に発表される第165回直木賞を受賞すること必至の傑作が、佐藤究の『テスカトリポカ』だ。アステカの戦士の末裔である祖母から神々の物語を刷り込まれ、敵対者や裏切り者の心臓を生きたまま取り出しては究極の神テスカトリポカに捧げる儀式を行なうバルミロの物語。暴力団幹部の父親とメキシコ人の母親の間に生まれ、ネグレクトによって学校にもろくに通うことなく成長し、13歳で両親を殺して少年院に入所したコシモの物語。両者の運命を合流させる過程で、その他の脇役に当たる人々の〈家族〉にならざるを得なかった半生も丁寧に描き、陰惨なシーンが頻出する物語全体にアステカ神話を響かせることで昏(くら)い聖性と文学性をまとわせる。時に詩的といってもいいほどのすばらしい文章によって完成した、見事なノワール小説になっているのだ。

 とりわけコシモの人物造形がすばらしいし、痛ましい。日本語が不自由だから友達もできず、バスケットを見るのが好きで高身長かつ運動神経も抜群にいいのに、選手になるなんて夢を抱くこともしない。手先が器用で、いったんはカスタムナイフの職人のもと素質を開花させるのに、バルミロによって殺し屋(シャリオ)にさせられてしまう。読み進めるほどに、心の中で「コシモ、自分のために生きて!」と声をかけっぱなし。皆さんもぜひ、この稀有な小説の中で稀有な青年と出会ってください。

『テスカトリポカ』

著/佐藤 究 角川書店 2310円

『テスカトリポカ』

豊崎由美
7月に発表される直木賞がこの作品に授与されなかったら、トヨザキ、憤死するかもしれません。『テスカトリポカ』は歴代の直木賞受賞作と比べ遜色ないどころか、上をいく小説なので。

未来のため真実を直視しよう【編集部イチオシの3冊】

『だからヤクザを辞められない裏社会メルトダウン』

著/廣末 登 新潮社 836円

『だからヤクザを辞められない裏社会メルトダウン』

■ 日本の裏面で今、何が起きているのか?

現在の日本では、ヤクザを辞めたはいいが、普通の生活をできないのだという。その原因を元組員への取材や社会制度、人々の意識の変化から探り出す。人生、人間関係のあり方、日本という国まで考えさせられる良書だ。

『お空から、ちゃんと見ててね。──作文集・東日本大震災遺児たちの10年』

編/あしなが育英会 朝日新聞出版 1210円

『お空から、ちゃんと見ててね。──作文集・東日本大震災遺児たちの10年』

■ 人と人とのつながりは距離じゃない

東日本大震災から10年。震災で遺児となった子供たちが、あの日の恐怖や今は遠い親への感謝、未来への決意などを綴った作文集。「ケンカをぜんぶあやまるね」「超ハッピーな人生にします!」。飾らない言葉が胸に迫る。

『私の名前を知って』

著/シャネル・ミラー 訳/押野素子 河出書房新社 2860円

『私の名前を知って』

■ 全米批評家協会賞受賞作

米国の大学で起きた性暴力事件の被害者が味わった孤独感や羞恥心などを赤裸々に、勇気を持って語る。性暴力の卑劣さ、法制度の矛盾などはもちろん、被害者が立ち直るのがいかに難しいかを痛感させられる。

文/編集部

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