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エッジーなアーティストと拍子抜けするくらい真っ当なメッセージのギャップが面白いスパイク・リー監督の新作映画「アメリカン・ユートピア」

2021.05.08

■連載/Londonトレンド通信

 スパイク・リー監督がデヴィッド・バーンのステージを撮った映画『アメリカン・ユートピア』が、5月7日から公開予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け延期され、近日公開予定だ。磨き上げたステージを見せるエッジーなアーティストと、その真っ当なメッセージのギャップに驚く。

 スコットランドで生まれ、幼少時カナダ、アメリカと移り住んだバーンが世に出たのは、1975年結成トーキング・ヘッズのフロントマンとしてだった。中で体が泳ぐほどブカブカの大きなスーツを着て歌い踊るのが強烈な印象を残した。バンドというよりパフォーマンスアート的だ。

 トーキング・ヘッズのライブは、後に『羊たちの沈黙』(1991)で大成功するジョナサン・デミ監督により、ドキュメンタリー映画『ストップ・メイキング・センス』(1984)にもなった。これまでのコンサート映画とは全く別物と絶賛された。

 バーン自身もトーキング・ヘッズのアルバムと同タイトルのミュージカルコメディ映画『トゥルー・ストーリーズ』(1986)などを監督している。

 トーキング・ヘッズ解散後も、『ラストエンペラー』(1987)で坂本龍一、コン・スーとアカデミー賞作曲賞を受賞するなど活躍してきた。トーキング・ヘッズ時代にも関わったブライアン・イーノらが参加した『アメリカン・ユートピア』は、14年ぶりのソロ・アルバムだった。

 同時に開始したコンサートが、ブロードウェイでのショーとなった。新たな人の手が加わり、磨かれたショーは職人技とも言える完成度で、それをまた匠の技でリー監督が撮った。

 映画は昨年10月のロンドン映画祭でも上映され、バーンはオンラインでトーク・ショーをした。(以下「」内は全てトーク・ショーでのバーンの言葉を訳したもの)

 ステージは、脳の話で始まる。科学的な話に皮肉なオチまでついて、冒頭から引き込まれる。そこから流れるように演奏へと続いていく。

 「私自身かもしれませんが、最初に脳を持っている人物は、彼自身の中に閉じこもっているようでもあります。それが外に出ていきます。彼を助けてくれる小さなコミュニティー、人々がつながっている場に出て、さらに広い世界へとつながっていきます」

 バーンを盛り上げるのは、楽隊、歌い手、踊り手が混じりあった、動きながら演奏する、人種、性別様々な11人だ。バーン含め皆が同じグレイのスーツ姿で、裸足だ。

 色々に見せるステージ技術がまた面白い。例えば照明で、明暗2つに区切ったり、コマ割りしたり、浮き上がらせたり、沈ませたり、シンプルな空間が活かされる。

「マイクロホンもセットもなくしたかったのです。チェーンのカーテンを使って、三面チェーンの箱に私たちだけがいる。観客もわかったと思います。彼らが観ているのは、物ではなく、人なのです。それは大きなインパクトになります」

 リー監督は、コマを進んでいく動きを真上から捉えたショットを挟むなど、会場の観客には見えない面白さまで伝えてくれる。

「スパイク(・リー監督)とは知り合いではなかったのですが、いろいろな所ですれ違ってはいました。声をかけたら、ショーを観た2度目で『撮りたい』となりました。撮り始めるまでに7、8回はショーを観たと思います。とても詳しくショーを知ったわけです。彼は綿密にプランを立てて作っています」

 トーキング・ヘッズ時代の曲もある。『Once in a Lifetime』や『This Must Be the Place』といったヒット曲も、このステージの中ではさらに強く迫ってくる。

 バーンがカバーするジャネール・モネイの『Hell You Talmbout』には、リー監督がポートレート写真を添えた。人種差別、多くは警官に殺されたアフリカン・アメリカンの名前を歌いあげた曲で、歌われた人々に、曲が作られた以降に犠牲者となった人の写真も加えている。制作中にもその数は増えていき、足された写真にはジョージ・フロイドもいる。

 このシーンがハイライトの1つで、アメリカの酷い現状を印象付ける。『アメリカン・ユートピア』というタイトルは皮肉なのだろうか。

 「友人と大胆なタイトルだと話しました。アメリカ中心主義とか、悪くとられる可能性もある。でも最後には、『たくさんの問題が提起できるじゃないか。よし、それでいこう』と私は言いました。皮肉ではなく、まったく真摯に、願いを込めて、ユートピアです。達成するのは不可能としても、近づけていくことはできます。これまでの作品から、皮肉、冗談ととられるかもしれませんが、ショーや映画を観てくれたら、真剣とわかるはずです」

 映画の最期には、アメリカン・ユートピアを実現するには投票に行くことだとのメッセージが流れた。ロンドン映画祭は10月だったので、米大統領選挙に向けてのメッセージと思われた。オチ?前フリを見逃した?と戸惑ったほど、あまりにも真っ当なメッセージだ。

 「ただ単純に『みんな上手くいくさ』ではありません。なされるべきことが山ほどあっても、近づけていくことはできるのです」

TOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイント他で近日公開予定

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文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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