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マジョリティは差別に気づきにくい?ロンドンLGBTQ+映画祭で注目を集めた2本のドキュメンタリー作品

2021.04.17

■連載/Londonトレンド通信

 東京五輪委員会会長の発言、東京五輪クリエイティブディレクターのプラン、報道ステーションのCMが、立て続けに問題になった。それぞれ女性蔑視以外の何物でもないのに、平然とやらかすのは、蔑視と気づけないほど、ほんわかと男尊女卑な日常にいたのだろう。

 女性蔑視な発言、行動は、男性に限ったことではない。言い得て妙な『男尊女子』は酒井順子著作タイトルだが、女性にも意外に深く根付いている。やらかした彼らは、男尊女卑を容認する人がマジョリティの世界にいて、もっと大きな場に出したところ問題とされたのだろう。しみついた意識を変えるのは、簡単ではない。

 とはいえ、今回のそれぞれは、間もなく撤回されただけましだ。マジョリティは正常、マイノリティは異常と決めつけ、人権侵害という言葉では生易しいほどの残虐行為が続けられた時代さえあったのだ。

米精神医学会にターゲットを絞ったドキュメンタリー『Cured』

 この3月、オンライン主体で開催されたロンドンLGBTQ+映画祭で、その時代を写し撮った映画が上映された。パトリック・サモンとベネット・シンガーの共同監督による、米精神医学会にターゲットを絞ったドキュメンタリー『Cured』だ。

 1952年、米精神医学会は、精神疾患を列記した『Mental Disorders』を出版、その病名リストにホモセクシュアルを入れた。治療を要する病気とされたホモセクシュアルに対して、電気ショック療法やロボトミー手術まで行われた。前頭葉を切り取るロボトミーは、リスクが大きく、重大な副作用もあり、今ではホモセクシュアルに限らず廃止されている。

 治療だけでなく、ホモセクシュアルなら職務を全うできないとして、職種によっては解雇されることもあった。

 時代が進むにつれ、ホモセクシュアル病気認定への批判が高まっていく。デモ行進や学会の内部でも声を上げる人が現れる。1972年には、ジョン・フレイヤー博士が、覆面をし、音声を変えるマイクを使い、ドクター・アノニマスとして「私はホモセクシュアルです。私は精神科医です」で始まるスピーチをした。

 1973年、ついにホモセクシュアルが病名リストから外される。病気とされた人々が病気ではなくなったことを、Cured(治った)を見出しに使い、みんないっせいに治ったと、米精神医学会を皮肉る報道もあった。

 映画は、登場人物のその後にもふれている。米精神医学会の決定を受け入れなかったチャールズ・ソカリデス博士は、新たな団体を立ち上げ、ホモセクシュアルを認めない活動を続けた。

 さらに皮肉な後日談もある。ソカリデス博士の息子リチャード・ソカリデスは、ホモセクシュアルであることを公にして活動し、性的マイノリティ関連の問題について、ビル・クリントン元大統領のアドバイザーまで務めた。

 そんな時代に、マイノリティであることを隠し、マジョリティとして生きる人がいても不思議はない。

アイスリング・チン=イーとチェイス・ジョイントの共同監督による『No Ordinary Man』

 同じくロンドンLGBTQ+映画祭で上映されたアイスリング・チン=イーとチェイス・ジョイントの共同監督による『No Ordinary Man』は、その選択をしたビリー・ティプトンについてのドキュメンタリーだ。ジャズマンとして活動し、夫、父として家庭を営んだティプトンは、死亡時に女性だったことが判明した。

 1914年にアメリカ、オクラホマで生まれたドロシー・ルシール・ティプトンが、ジャズマン、ビリー・ティプトンになったのは1930年代で、現代のような性転換手術などない。ティプトンは、短髪にし、胸を固く締め付け、男らしくふるまう、ほぼ自力だけで男性になった。

 ジャズマンとしてレコードも出し、何人かの女性とつきあい、事実婚で夫になり、養子を迎えて父にもなったが、1989年、亡くなった時に、女性だったことがわかり、驚かれた。

 驚いた中に、妻子がいたことで、また驚かれた。元妻キティー・ケリーのテレビ出演シーンもある。最近はメーガン妃のインタビューで時の人になっているオプラ・ウィンフリーの番組だ。ウィンフリーに応えたケリーは「ビリー・ティプトンはその言葉の全ての意味において男でした」としている。スタジオ観客参加型の番組で、「自分がレズビアンであることを隠したいだけ」とケリーを嘘つき呼ばわりする観客もいた。

 映画はそこには踏み込まない。ティプトンの生い立ちや、どういうきっかけで、どのように男性になったのかさえ追求しない。概略を伝え、関係者やこの映画に携わった人など、周囲がどう見るかに比重を置いている。

 その中に、人はそれぞれの思いを託してティプトンを見るとの発言があった。レズビアンは女性同士で結婚までした人として、トランスジェンダーは社会的性転換の成功者として、男社会で割を食っている女性は、女性なのを隠すことで目指した仕事を成し遂げた人として、ティプトンを見るという。

 逆に言えば、レズビアン、トランスジェンダー、そして女性も、そのままでは生きづらかった、または生きづらいのだ。ばれることを怖れたのだろう、生涯、医者嫌いを通し、診察を拒んだまま逝ったというティプトンの最期とあいまって、複雑な気持ちにさせる映画だ。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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