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「足し算」による解決策ばかりで見逃されがちな「引き算」の視点

2021.04.17

 最期に後日談的な話を盛り込めば面白くなるかもしれない。あとは“開発秘話”のエピソードも盛り込むとしようか。すると構成そのものを考え直す必要がある……。

所用を終えた快晴の午後に靖国通りを歩く

 御茶ノ水某所での打ち合わせが終わり、明大通りを靖国通りの方向へ歩いていた。4月も半ばに近いが外気はけっこうひんやりしている。快晴に恵まれた午後は歩くには絶好のコンディションだ。時間さえ許せばこのままどこまでも歩いてしまいそうである。

 日大病院の前を通り過ぎる。散歩日和なのだがそんなに時間があるわけではない。神保町を抜けて九段下から東西線に乗ろうと思う。

 仕事で日本の小惑星探査機の記事を書くことになったのだが、ある程度の分量を任されたため構成や章立ても考えねばならなかった。いろいろと盛り込みたい話やエピソードも出てきているので、各章の配分をどうするか検討しければならない。

 歩みを早める。通りの両側に大学の校舎が建つ文教地区だが、交差点を過ぎたあたりから飲食店なども見かけるようになってくる。地下鉄に乗る前にどこかで何かを食べてみてもよかった。

 記事の全体の文字量はすでに決まっているので話を盛り込むとすれば当然だが各章の文字量が減ることになる。しかしメインとなる肝心な話は書き足らないことがないようにしなければならない。そう考えれば、優先順位を明確にして全体のバランスをよく考えなければならないだろう。

 歩く先にはラーメン店やカレー店などが見えてくる。カレー好きの話によく出てくる人気のインドカレー店もある。さらにその先に構えているのは洋食店だ。この一角は三角州のようなエリアになっていて特に飲食店が多く密集しているようである。

 一周してみようかとも思ったがそんなにゆっくりもしていられない。いったん信号を渡って靖国通りを右に進む。この辺も飲食店が多い。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 一帯はオフィス街だけに近隣で働く人々や学生にとって昼食には事欠かない場所であるが、そのぶん今回のコロナ禍が街に与えたダメージは大きいと言わざるを得ない。昨年9月には有名な洋食チェーン店も閉店している。在宅勤務とオンライン授業でランチ需要が激減したことが理由であるのは明らかだ。

 その洋食チェーンはまさにここの神田・神保町が発祥で、秋葉原にあった店も同時に閉店している。そうしたことを考えれば出先で時間があれる時にはどこかで食べてみるのも微力ではあるが重要な経済活動だと言えるえだろう。とにかく何を食べるか決めよう。

“足し算”ばかりを検討し“引き算”を見落としている

 その洋食店があった「神田すずらん通り」には行かずに、靖国通りを道沿いに進む。左手にある大型書店に入りたくなるが、今は時間がない。そしてこの一帯は古書店街としても有名で、あちこちに味のある店構えの古書店があり、時間に余裕があればついつい長居してしまうエリアでもある。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 早いところ店を決めたいが、飲食店があまり目に入らなくなってくる。引き返して通り過ぎた洋食店に入ろうかという考えも浮かんだが、これから九段下まで歩くことを考えればそれはない。とりあえず進もう。

 洋食店のランチもたまには食べたくなるのだが、よくありがちなフライの盛り合わせの定食を食べていると、いったい自分は何が食べたかったのかわからなくなることがある。1つの皿にコロッケにエビフライ、ハンバーグ、場合によってはしょうが焼きなどが乗っているメニューがあるが、食べているうちに何が食べたかったのか曖昧になってきたとしても不思議ではない。もちろん美味しければそれで良いのだが、あまり印象に残らないランチになってしまいそうだ。

 そのようなメニューは食べたいものを加えていくことで、全体的な満足度を高めようという意図があることが仄見えてくる。満足度の高い食事を体験してもらうという問題の解決策に“足し算”を使っているのだ。しかし“足し算”ばかりでは全体像はどんどん曖昧になっていくともいえる。やはり“引き算”も時には必要なのだろう。

 どうして我々は、いわば欲張りな“足し算”を好むのだろうか。最新の科学的研究でもいかに我々は問題解決において“足し算”が好きであり、一方で“引き算”を見落としているかが指摘されている。時には“引き算”のほうが有効な解決策になることに気づけていないというのである。


 工学と行動科学の融合を研究しているクロッツはバージニア大学の3人の同僚とチームを組み、私たちが本質的にどれほど加算的であるかを示す学際的な研究を行いました。

 人々が体系的に加算をデフォルトにする2つの幅広い可能性を検討するとき、——両方の可能性のアイデアを生成し、減算ソリューションを不釣り合いに破棄するか、減算のアイデアを完全に見落とすかのいずれか——研究者は後者に焦点を当てました。

「加算的なアイデアはすぐに思い浮かびますが、減算的なアイデアにはより多くの認知的努力が必要です」とコンバース氏は述べています。「人々はしばしばせっかちに動いて、頭に浮かんだ最初のアイデアで作業しているので、彼らは減算をまったく考慮せずに加算ソリューションを受け入れることになります」

※「University of Virginia」より引用


 米・バージニア大学の研究チームが2021年4月に「Nature」で発表した研究は、人々は何かの改善策に取り組む時にいかに“足し算”をしようとし、一方で“引き算”を見落としていることを説明している。この研究結果は、人々が圧倒的な過密スケジュールに苦しんでいること、組織が官僚的形式主義の泥沼にはまり込んでいること、そして特に研究者にとって興味深いことに、人類が地球の資源を使い果たしているという根本的な原因を示唆するものになるということだ。

 我々がいかに“足し算”で問題を解決しようとするのかが明るみになった今回の研究なのだが、さらに厄介なのはこの傾向が個人の中で強化されるメカニズムもあるという。

“足し算”による解決策を採用することで、加算的なアイデアを探す習慣がますます強くなる可能性があり、“足し算”に依存することで長期的には多くの“引き算”による優れた解決策を見落とすことになるのである。ということは常日頃から意識的に“引き算”をしてみるべきなのだろう。

 たとえば洋食店の盛り合わせのランチメニューから冷静に一品一品、“引き算”してみると、自分は実のところはしょうが焼き定食を食べたかったのだと気づくことができるのかもしれない。

通りかかった十割そばの店でもりそばに舌鼓を打つ

 別に洋食店でなくてもよい。入る店を決めよう。

 数軒の古書店を通り過ぎると、十割そばのチェーン店が目に入ってきた。いいだろう。この店で食べるのも久しぶりだ。

 田舎の木造小屋を模した店構えの軒先のショーケースの中にはメニューの見本が並んでいる。親子丼や鯵ご飯などとのセットメニューや、天ぷらそばや鴨南蛮などもあるが、ここはシンプルにもりそばの大盛りにしたい。まさに“引き算”の解決策だ。

 この店には初めて入ったが、都心の店のわりには中はけっこう広い。購入した食券の半券を店の人に渡す。座ったカウンター席はこのご時世ゆえにパーテーションで仕切られている。お昼はとうに過ぎた中途半端な時間だが、お客はそこそこ入っていた。店の中ほどにある給水機でプラスチックのコップに水を入れて席に運びひと口飲む。

 食券番号を呼ばれてそばを受け取りに行き再び席に着く。樹脂製の箸を手に取り、さっそくひと口そばを啜る。麺はけっこう太く、噛み応えがあって美味しい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ポツリ、ポツリと1人客が断続的に店内に入って来る。いずれもビジネスマンには見えない。書店が目当ての本好きの人々なのだろうか。確かに古本屋めぐりで小腹が空いた時には確かにそばは好都合だ。

 そばを手繰る手が止まらない。途中でコップの水が尽き、食べるの中断して水を汲みに給水機までを往復する。給水機からはお茶も出るようだ。

 もりそばはまさに“引き算”の外食メニューだが、書店巡りの最中などにはぴったりの相応しい選択になり得る。しかし特にそば好きでない限りはこの選択肢に気づけないこともあるだろう。今回の研究が指摘するように我々はきっと多くの有効な“引き算”のオプションを気づくことなく見逃していそうだ。

 もうすぐ着手しなければならない小惑星探査機についての記事だが、多くのエピソードを盛り込むという“足し算”の案はもう一度考え直すべきかもしれない。むしろ“引き算”で章を減らして、伝えるべき話をじっくりと綴ったほうが読み物としてはうまくいく可能性もある。改善策を考える上で“足し算”ばかりに目が向いてしまうというのは、まさに今回の研究が指摘していることにほかならないのだ。

 久しぶりのもりそばは美味しかった。じゅうぶんに満足だ。洋食店のランチについてはまた次の機会にしよう。さて、店を出てからは記事の構成を検討しながら九段下まで歩こうか……。

文/仲田しんじ

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