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企業が大卒の初任給を引き上げる本当の理由

2021.03.28

■連載/あるあるビジネス処方箋

 大卒の初任給に変化が見られ始めている。2021年3月16日の朝日新聞によると、大和証券は新入社員の初任給を月額40万円以上(30時間分の固定残業代を含む)にする人事制度を始めるという。成果を重視した報酬体系で、トレーダーであれば実績次第で年収が5千万円になることもある。対象は、自社の資金で株や債券を運用する自己売買部門のトレーダーやIT分野に携わる人材を想定して設ける「高度専門職」。2022年4月入社から適用予定。

 今回は、このような大卒の初任給の変化について私の考えを述べたい。

 新卒時における「高度専門職」は特に金融機関やITやコンサルティングの業界などを中心に増えるはずだ。これらの業界の市場や環境は速いスピードで高度化、専門化している。企業としては20代前半の段階で潜在能力の高い学生を専門職として採用し、英才教育をしていき、戦力にできるだけ早くすることが狙いと思われる。

 総合職は今後もこれまで通りに採用をしていくが、専門職といったコースを設けてキャリア形成に幅を持たせることも考えているはずだ。企業イメージを向上させ、エントリー者数を総合職、専門職ともに増やすことも狙いにあるのだろう。他の企業との差別化を図り、学生の目につきやすい存在になることも願っているに違いない。時代に流れに乗っている「新しい会社」といったイメージを印象づけることもできるかもしれない。

 さらには、いずれは、高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働)の対象になる人材の採用と捉えることもできる。この制度では、収入が一定額(現時点では年収1,075万円を想定)以上の専門職の人事評価を労働時間ではなく、成果で評価する。従って、本人の意志で労働時間を柔軟に決めるようになる。

 ここまでを考えると、キャリア意識が高く、潜在能力が他の学生よりも高い、将来有望な人材には好ましいコースが作られつつあると言えるかもしれない。新聞やテレビ、ネットニュースなどのマスメディアは、ここから先は踏み込んで報じないようだ。実は、私はここから先こそが、多くの会社員や今後、新卒で入る学生にとって重要であると思う。結論から言えば、「高度専門職」のコースを設ける大企業や中堅企業を中心に総合職のあり方を変える動きが顕著になるはずだ。

総合職の課題は多い

 これまでは、通常は新卒採用の場合、総合職が主流だった。大企業や中堅企業の場合、入社後、一定の期間(2〜5年)ごとに人事異動で部署を異動し、30代前半から40代前半で同期生の半数程は管理職(この場合は課長)になる。早い人は40代前半で部長、後半で役員になる。その意味で総合職は、管理職予備軍と言える。

 1980年代後半~90年代以降は団塊の世代(現在の70代)が40~50代になり、管理職のポストが必要以上に増えた。そこでいわゆる、「部下のいない管理職」が生まれた。部長→課長→一般職(非管理職)がオーソドックスなヒエラルキーで、「ラインの管理職」と言われる。80年代後半~90年代には副部長、部長代理、次長、推進役、課長補佐、課長代理などと次々と「非ラインの管理職」、つまり、部下のいない管理職が作られた。

 90年代前半にバブル経済が崩壊し、後半に金融不況となる。この頃から経費を削減する機運が高まり。総額人件費を厳密に管理する企業が増える。余剰人員とも言われる「非ラインの管理職」の存在は、リストラのターゲットになることが多かった。現在、コロナウィルス感染拡大で不況が深刻化する中、リストラのターゲットになるのは、バブル世代(現在50代前半から50代後半)のうちの「非ラインの管理職」のケースがやはり多い。

 さらには、総合職には「非ラインの管理職」になることすらできない人たちがいる。40代半ばになっても、一般職(非管理職)のままの社員だ。リストラの時に真っ先に狙われるのは、この人たちが圧倒的に多い。

 役員や人事部は、管理職になることができない人や非ラインの管理職の扱いに長年、手をこまねている。この人たちを専門職にしようとしても、40代以降になってから何ができるのか、それで人件費をねん出できるのか、などの課題は多い。とはいえ、解雇(特にこの場合、普通解雇か、整理解雇)にするのは裁判の判決を見据えると、会社にとってリスクが大きい。役員や人事部は、こんな忸怩たる思いを少なくとも1990年代後半から現在に至るまで抱え込んでいる。

部下のいない管理職

 部下のいない管理職を降格させ、一般職にすることも容易ではない。能力を基準に降格にするのは、法律面からすると難しいのだ。そこで15年程前から、一部の大企業は仕事を基準にした評価をすることで賃金のコンロトロールをしようとしている。その1つが、役割給だ。「従事する仕事の価値が下がれば、その社員の評価も下がり、賃金も下がる」といった考えにもとづくものだ。

 この論理に従い、大企業でも65歳定年を導入したケースがここ数年、目立つ。現在の60歳から65歳に延長したものだ。50歳以降60歳までの基本給の上昇を緩やかにして60歳以降も社員として雇用を継続する。大体、60歳定年時の年収の7割程にする。この65歳定年制度の対象者は、50歳以下の社員に限っている。

 2021年2月に、著名な人事コンサルタントに取材したところ、このように話していた。

「50歳から65歳までの賃金が相対的に下がるために、50歳前の優秀な人材が不満を持ち、辞める人が現れる場合がある。そこで役割給を導入し、基本給や賞与が増えるようにする。従って、中年層の社員間でこれまで以上に賃金を始めとした扱いに大きな差が生まれるはずだ。部下のいない管理職のような社員は減っていくと思われる」

 65歳まで雇用を守る代わりに、50歳以降の給与を下げる、といったものだ。ラインの管理職などで中枢の管理職には役割給になっているから、これまで以上に高い給与を払うケースが増えるかもしれない。傾斜配分、つまり、優秀な人には一層の報酬を、そうでない人にはそれなりに扱うようになるはずだ。総合職を個々の社員の働きに応じて、いくつかのグループにわけて、総額人件費の厳密な管理をしたいのだろう。

 このグループわけは総合職だけでなく、専門職も対象となる。その1つが、前述の「高度専門職」と言える。読者諸氏もそのグループわけの対象となる。新卒の初任給の変化の底流には、今回述べたようなことがあるはずだ。

文/吉田典史

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