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なぜ、人間は楽しかった思い出を繰り返したくなるのか?

2021.03.27

 もう何十年も前からこの通りを歩いていたことを急に思い出して感慨深くなる。この世界有数の歓楽街を小学生が1人で歩いていたかと思うと我ながら痛快だ。

新宿・靖国通りを歩き少年時代を思い出す

 新宿三丁目近辺での所用を終え、靖国通りを新宿に向けて歩いていた。東京に住んで働いている者として何度となく歩いている通りで、単なる移動という以上の意味はほとんどないのだが、通りの反対側にある老舗の映画館の前を通り過ぎると、自分でも意外な記憶がよみがえってきた。自分がまだ小学生の頃の記憶だ。

 先日には桜の開花が宣言されたが通りを歩く人はまだコート姿が多い。しかし今日の自分はジャケットだけにしている。いい加減コートを着るのは飽きた。空気はまだひんやりしているものの風もない快晴の午後、都会の街中を歩くぶんにはまったく寒くはない。

※画像はイメージです(Unsplashより)

 今の自分はあくまでも日常生活の中で移動をしているにすぎないのだが、道路越しに映画館を見かけたところではるか昔の記憶がよみがえってきてしまった。自分が小学生だった頃の記憶である。小学生の高学年の頃、住んでいた東京都下の某所から1人で電車に乗って新宿にやって来て映画館で映画を観た記憶が確かにあるのだ。

 今まで思い返してみることもなかったが、こうしていったんよみがえってくると、いろんなことが思い出されてくる。観た映画は空手のドキュメンタリー映画で、お客の入りはそれほど多くはなかった。館内では抽選をやっていて運よく当選し、その映画の主題歌のシングルレコードを貰ったことも思い出されてくる。

 自分でも意外な記憶がよみがえってきたのだが、この体験で味をしめたということなのか、その後も1人で新宿にやって来ては定期的に映画を観ていたことも思い出されてくる。中学生時代は月に1、2度は新宿で映画を観ていたように思う。よく観ていたのはジャッキー・チェンのカンフー映画や、アガサクリスティのミステリー映画、当時の角川映画などがまず思い浮かぶ。中学生になってからはクラスの友人と行くこともあったが、1人で行くことのほうが断然多かった。

 もちろん新宿以外でも映画を観たことはあったが、行くのやはり圧倒的に新宿がメインだった。シネコンがまだなかった時代だけに、観たいと思う映画は新宿に行けばまず間違いなく見ることができたのだ。この時に培われた体験も影響しているのか、今でも映画館に行くとなればまず第一に新宿ということになる。個人的に新宿は映画の街なのだ。

 こうした思い出深い記憶の数々が映画を観る際には新宿という場所を選ばせるのだろう。最新の研究でも、懐かしかったり、心地よかったりする思い出が意思決定に重要な役割を果たしていることが報告されている。個人的で主観的な生々しい記憶は意思決定の基礎になっているというのである。


 記憶には、特定の詳細(誰が、どこで、いつ)を思い出すことと、過去の出来事を思い出して感じる気持ちの両方が含まれます。新しい研究は、これらの客観的および主観的な記憶が独立して機能し、脳のさまざまな領域を活性化し、主観的な記憶に基づいて決定を下すことを示しています。

「この研究は私たちがどれだけよく覚えているかと、どれだけよく覚えていると思うかを区別し、意思決定は主に記憶の主観的な評価に依存することを示しています」

※「University of California, Davis」より引用


 米カリフォルニア大学デービス校の研究チームが2021年3月に「eLife」で発表した研究では、実験を通じて意思決定は正確な客観的記憶に基づいているのではなく、生々しい主観的記憶により強く依存していることを報告している。我々は正確な記憶よりも、思い出深い記憶に基づいて判断を下しているというのである。

小腹を満たす店を求めて“ゴジラロード”を歩く

 実験では脳活動を測定する機器(fMRI)を装着した状態の参加者がさまざまなモノを写した一連の画像を見て記憶し、意思決定を下す課題を行った。そして収集されたデータを分析し、正確で詳細に憶えている客観的記憶と、印象強く生々しく憶えている主観的記録とが判別されたのである。

 研究の結果、参加者は記憶に基づく意思決定において、客観的な正確さではなく、どのように感じたかに基づいて判断を下している傾向が強いことが浮き彫りになった。つまり客観的記憶よりも主観的記憶に基づいて判断を行っているのである。

 そしてfMRIデータで客観的記憶と主観的記憶が頭頂葉と前頭前野の異なる皮質領域を動員したことが示された。主観的記憶に関与する脳の領域は意思決定にも関与し、2つのプロセスの間の関係を強化していたのだ。

 少年時代に新宿で数多くの映画を観てきたことはきわめて個人的で主観的な体験なのだが、主観的であるからこそその後も映画観賞では新宿を選びやすくなっていると言えそうだ。

 歌舞伎町へ近づくほどに人通りも多くなってくる。部屋に戻ってからする仕事はまだ残っているが、小腹も減っているしどこかで何か食べて帰ってもよかった。残念ながら映画を観るまでの時間はない。

 道行く人が増えるにつれて飲食店の数も多くなってくる。個人的には結構好きな牛たんのチェーン店があるのを認めるが、もう少し歩いてみたい。

 十割そばの店の先には某コーヒーチェーンの大きな看板が見える。ビルの1階はドラッグストアでコーヒー店は2階にあるようだ。コーヒーにサンドイッチか、あるいはホットドックなどで軽く済ませる案も浮かんできたがもう少し店を探してみたい。

 コーヒー店が入ったこのビルのテナントを見てみると“監獄”がテーマのレストランが入っている。このレストランはネットの記事で見かけたことがあった。もちろん今1人で入るという選択はないが、ホラーな演出が施された“監獄”の中で行う食事とはいったいどんな体験になるのだろうか。

 賑やかな軒先の某ディスカウント店を右折する。奥に見えるビルの上にゴジラが顔を覗かせていることから“ゴジラロード”と呼ばれている通りを歩く。とにかく飲食店が多い。

※画像はイメージです(筆者撮影)

網走の旅を思い出しながら海鮮丼を賞味する

“監獄”といえば、かつて訪れた「博物館 網走監獄」が思い出されてくる。殺伐とした監獄内は臨場感に溢れ見応えがあった。独房の格子は向かい合った独房から中の様子が見えないように斜めになったブラインド状であることなども知り勉強になった。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 その時の旅行では女満別空港からまずバスでJR網走駅に行ったのだが、到着後に駅構内のレストランで食べたいくら丼が美味しかったのを覚えている。普段なら個人的にはまず食べることはないメニューだということもあるが、さすがは北海道の海の幸だと思わせられる食体験になった。そしてもちろん、旅先という特別な場所で食べたいくら丼であるからこそ、生き生きとした印象的な思い出になっているのだろう。

 ともあれゆっくりはしていられない。どこかで食べるなら早いところを店を決めて入店しなければならない。

 辺りは飲食店だらけだが居酒屋が多い。昼からやっていそうな店もありそうだが、今の時点でアルコールを飲むわけにもいかない。

 通りの右手に某寿司チェーン店と焼肉屋が見えてくる。その先には海鮮専門店と、こってり濃厚なスープで人気の某ラーメン店がある。そういえばここのラーメンは久しく食べていなかった。しかしながら海鮮専門店の看板から壁から窓と、これ見よがしに提示されている海鮮丼の写真の数々に目が誘い込まれる。さっきまで網走のいくら丼を思い浮かべていただけにツボにはまる感じだ。貼り出されているメニューにはいくら丼もある。ここは迷わずに入ってみよう。

 2階もあるようだが1階は中央に両側から座れるカウンタ—があり、左右にいくつかのテーブル席と座敷席がある。店の人に迎え入れられ、カウンター席に座る。両側はパーテーションで仕切られている。

 さっそくいくら丼を注文しようとも思ったのだが、店員さんによればいろいろとお得なメニューもあるということなのでいったんメニューに目を通す。

 いくら丼でもよかったのだが、この店の一番人気のメニューであるという「うに・いくら・ねぎとろ丼」を注文。店員さんに「あおさのみそ汁」を勧められてそれもお願いする。入店時にはお客の姿はなかったのだが、自分が注文を終えた後に立て続けにお客が入って来た。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 丼が到着する。なかなかのボリュームだ。3分の1とはいえ、久しぶりに丼のいくらを味わえるのも嬉しい。もちろん、うに、ねぎとろも美味しい。

 網走のいくら丼を思い出していなかったら、この店を素通りしてラーメン屋に入っていたかもしれない。まさに個人的で主観的な思い出のパワフルな影響力の成せる業なのだろう。

 行き当たりばったりで食べた海鮮丼だったがじゅうぶんに満足だ。ほかのメニューも食べてみたくなるが、次の機会はぜひとも映画館で映画を観た後に来てみたいものである。

文/仲田しんじ

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