
新連載/TOKYO 2040 SideB
テレワークって今だけのもの?
テレワークについて、緊急事態宣言で推奨されたこともあり、この一年で日常的になった方もいれば、どうしても現場でしなければいけない業務のために、実施が難しかったという人もいらっしゃると思います。
今回は原点に立ち返って、そもそもテレワークって何のためにするものなのか? というところを見つめてみます。
コロナ禍はまさに、災害と呼べる事態です。今まで以上に長期化すれば、そのうちに発生する風水害や震災とも重なる恐れがあります。
ですので、テレワークはコロナ禍が解決すれば出番が無くなるというわけではありません。企業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の中でも要といえますし、自然災害の多い日本においては、平常時にも有効な「BCP(事業持続計画)で用いる手段の一つ」と考えておくと良いのではないかと思います。BCPについては中小企業庁のページが詳しいです。
<参考>中小企業BCP策定運用指針
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html
BCPの重要性は理解できつつも、テレワークの浸透に関連した調査などを見る限り、この一年で「テレワークをしても能率が上がらない」という(おもに偉い人の)感想のもと、結局オフィスに出勤せざるを得ない……という状況に多くの人が置かれていることが容易に想像できます。
テレワークの推進にとって必要なのは、予算や期間の課題をおいておくと、残るものは平常時に緊急時の想定をしつつ「顔をつきあわせての雰囲気が必要なんだ」という精神論やしがらみをどれだけ棄てられるか、という話に集約されます。
「D」よりも「X」が重要
パソコンやインターネットを用いたツールばかりが目立ちますが、DXの主役はビデオチャットやグループウェアではありません。その先に行動変容があるかどうか、ということが何よりも重要です。
例えば、職場で行っていた会議。これをビデオ会議にして自宅から皆でアクセスするのは、パソコンなどのツールさえあれば、力業でできてしまいます。
ところが紐解いてゆくと、家に充分なスペックのパソコンや回線が無いなどの環境面での不足に気づきます。「ビデオ会議のせいでスマホのギガが尽きた」と言うスタッフもいるかもしれません。
そこだけがクローズアップされてしまうと、ノートパソコンを急遽調達したはいいが予算の上限からスペックの劣るものが支給されたり、自宅回線を何とかしろという指示が出て右往左往したりなどの本末転倒な対策に走りがちです。
DXの観点に立つと、ビデオ会議をする前にすべきだったのは、果たしてその会議の開催は妥当なのか、という検討です。あるいはもっとすべきだったのは、上司が「さらに偉い人への説明」に、詳しくわかっている部下を付き合わせて会議と称して時間を奪ってこなかったか、という反省です。
「資料を読み上げるだけの会」であれば、ビデオ会議にせずにメールやビジネスチャットを使って「回覧」に置き換えることができます。
わかりやすい説明動画を事前に撮っておき、それをグループウェアにアップロードしておけば偉い人から「あれもう一度説明してくれる?」と言われても、会議を設定するまでもなく瞬時に対応ができます。
リアルでやっていたことをデジタルツール上で再現するだけではDXは進みません。
仕事のやり方そのものを変えていくこと、その力強いツールとしてデジタルを最大限に活用すること。「デジタルのD」よりも「行動変容のX」が重要である理由はここにあります。
DXの極意「可視化」
では、どのように進めたらよいでしょうか? テレワークをはじめとしたDXにおける第一歩は、「その仕事の本質は何なのか」ということを丹念に可視化していくことにあります。
ですが、多くの人にとって、怖いことは「自分の仕事を他者によって可視化されること」だったりします。
仕事をしている振りとまでは言いませんが、自身が抱え込むことで「他者ではできない感」を醸したり、非効率であっても慣れたやり方で時間を費やす人は、大人数の職場であれば、上司や部下の中に一人や二人、見つけることができます。
人間関係の軋轢が発生しそうなので、そこを明らかにしてしまうのは怖いかもしれませんが、そこは職場全体の仕事をより一層充実させるためと割り切って、踏み込んで可視化をしていくべきでしょう。できれば「偉い人」にこそ、旗振り役をやっていただきたいところです。
誰がどんな業務に何時間かかっているかをピックアップし、その中で仕事のやり方を変えることで、その結果としてどれくらい使える時間を増やせるのかをチェックします。
この「ちょっと怖くて、なかなか明らかにしたくない」作業が完了すると、同時にDXできる部分、できない部分、しなくてよい部分がハッキリします。そこで初めて、デジタルツールを検討していくと、時間もお金も無駄がなくなります。
もしかしたらこの可視化によって、時間が増やせそうだとなった途端、これまで手が回っていなかったことや、あたらしいことをするには「デジタルのD」すら不要で「行動変容のX」だけを上手くやれることがわかるかもしれません。それでいいのです。
テレワークについても、能率が上がったかどうかという感想をもとにするかしないかを決めるのではなく、業務の可視化を進めていって判断したほうが、結果は一緒だとしても企業や組織が得られる知見はずいぶん変わります。
未来へ向かってDX!
急ぎ足で説明しましたが、テレワークは何のためにするのか? ということについて追求していくと、BCP観点という具体的な理由がありつつ、その裏にはDXの本質が隠れていたことがわかります。
コロナ禍で過ごした一年を振り返りつつ、まず「可視化」という第一歩を踏み出していきましょう。職場全体は難しくても、個人で、チームで、小規模でも成功体験を積んでいくことが大切です。
さて、月刊『DIME』の連載小説『TOKYO2040』では、少子高齢化により「老老介護」が当然となった20年後を想定した世界を描いています。それは、組織において実績のある中高年になればなるほど、テレワークを余儀なくされる時代になることを意味します。
人が長寿でいられる幸せと、それを災害と並列に語ることができる残酷さが、未来の社会には待っています。
コロナ禍は一つのきっかけではありますが、明日誰もが自在に動けなくなる日を想定して、今から準備していくことで、乗り越えていけることはたくさんあると考えています。
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。ぜひ、最新号もチェックしてみてくだい。
※電子版には付録は同梱されません。
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