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池上彰氏が語る「ヘイトクライム」も「トランプの時代」も終わらない理由とは?

2021.03.15

東アジア系の人を狙ったヘイトクライムが急増している

昨年、世界的な規模で感染が拡大したコロナウイルスですが、ようやく世界各地でワクチンの接種が始まりました。副反応(副作用)などの問題はありますが、少なくとも感染の封じ込めに向かい出したとは言えそうです。

一方、昨年後半くらいから、コロナウイルスに端を発する、東アジア系の人を狙ったヘイトクライム(特定の人種、民族などに対する偏見や憎悪から起こる犯罪行為)が欧米などで多発しています。昨年の前半にも東アジア系の人が欧米人などから暴言を吐かれるというようなことはありましたが、それが悪化し、暴力行為を伴うものに変化してきました。

日本人も他人事ではありません。ニューヨークでは昨年9月、ジャズピアニストの海野雅威さんが暴漢に襲われ重傷を負いました。また今年2月にはパリで日本人が硫酸をかけられる被害に遭っています。

東アジア系の人に向けられたヘイトクライムはなぜ起きたのでしょう。

さまざまな要因を挙げられますが、トランプ前大統領が、コロナウイルスのことを「チャイナウイルス」と繰り返し呼んだ影響は大きかったと言わざるをえません。

武漢でのウイルス発生を隠蔽したり、WHOの調査団に対して嫌がらせともとれる行為を行ったりした中国政府の行動は批判されても仕方がありません。しかし、コロナウイルスを「チャイナウイルス」と呼んだことで、「中国政府」だけでなく「中国人」、さらには中国人と似た外見の東アジア系の人までが非難や憎悪の対象となってしまいました。そこには当然ですが、日本人も含まれています。

 

トランプの発言で燃え広がったブラック・ライブズ・マター運動

昨年はコロナウイルスと並んで、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」運動(以下、BLM運動)が世界中に燃え広がった年でもありました。この運動は、昨年5月、ミネソタ州ミネアポリスで、偽札を使った疑いのある黒人男性が白人警官に押さえつけられ、死亡してしまった事件に端を発します。不幸な事件ですが、これまでも白人警官の過剰な暴力で黒人が死亡するケースは度々起きていました。それなのになぜ今回、この事件から始まったBLM運動は広がったのでしょうか。

理由の一つとして、SNSの普及があげられます。今回の事件では、通行人が一部始終を撮影し、フェイスブックに動画をアップして一気にSNSで拡散されました。

SNSがない時代には、警官が黒人を射殺したあとに「抵抗したから撃った、私は正当防衛だ」と言えば現場の警察官を信用するしかありませんでした。それが今では証拠映像がSNSに流れるようになったことで「黒人が言ってきたことは本当だったのだ」と多くの人が衝撃を受けたのでしょう。

もう一つは、この事件で発生したデモ隊をトランプ大統領が「悪党」と呼ぶなど敵視したことです。これにより抗議するデモ隊の気持ちを逆なでし、混乱に拍車がかかってしまいました(2020年5月30日日経新聞などによる)。結果として世界中にニュースが流れ、賛同者も増えた一方、BLM運動に反対する勢力も増えたのです。

昨年から広がる、人種差別に関する2つの動きですが、トランプ前大統領の持つ影響力が大きくかかわっているのです。

トランプの時代は終わっていない

今年1月ジョー・バイデンが大統領に就任しました。トランプが飛行機でフロリダに去る映像を見た人も多いでしょう。日本では「トランプの時代は終わった」と思っている人も多いようです。しかし、私はトランプ前大統領の政治への影響力は今も非常に大きいと考えています。

共和党では“トランプ詣で”とも取れる動きが始まっています。1月28日、共和党下院トップのマッカーシー院内総務がわざわざフロリダにトランプ前大統領を訪ね、来年の中間選挙の協力を求めました。トランプ前大統領の協力で議会の勢力が逆転したとなれば、彼の影響力は飛躍的に高まるでしょう。

批判にさらされる反トランプの共和党議員

今年1月の議会乱入事件をめぐり、トランプを弾劾訴追する決議案に賛成した共和党下院議員がいたことを思いだす人もいるでしょう。トランプの復権など起こりえないと感じるかもしれません。しかし、10名いた共和党下院議員はその後どうなったのかご存じですか。今、大変な目に遭っています。

例えばディック・チェイニー元副大統領の娘であるリズ・チェイニー下院議員は、下院のナンバー3の地位にある人物ですが、トランプ大統領の弾劾決議に賛成しました。そのため、この地位から退けという圧力にさらされました(結果的に地位ははく奪されず)。

それだけではありません。この10名には、地元の選挙区で「次の選挙では応援しない」「政治資金を出さない」などといった意見や抗議が殺到。脅迫もあったようです。

こういった事態を見てしまうと、来年11月に改選を迎える上院議員はトランプのいうことを聞くようになるでしょう。

2016年のトランプの大統領選挙の勝利は、人種による分断や貧富の格差があったからこそ起こったのだと考えています。そしてこれらの分断や格差は、世界的なものでもあります。ヨーロッパにおける極右勢力の伸長などもその表れです。

昨年の大統領選挙では、敗れたとはいえトランプの得票数は史上2位でした。分断や格差があるからこそ、トランプはこれだけの支持を得られたのです(昨年の大統領選や人種差別問題については『池上彰の世界の見方 アメリカ2』で詳しく書いたので、興味のある方はそちらをご覧ください)。

コロナ禍が収束すれば、東アジア系の人への目に見えるヘイトクライムは減るかもしれません。しかし、なくなるとも思えません。人種間の分断や格差は続くと見ているからです。そして、それを助長するトランプの復権は大いにありえるのです。

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【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。慶應大学卒業後、NHK入局。社会部記者などを経て1994年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務める。2005年NHKを退職しフリージャーナリストに。現在、名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、関西学院大学、日本大学、順天堂大学、東京大学などでも教鞭を執る。
主な著書に『池上彰のまんがでわかる現代史』シリーズ、『伝える力』、『私たちはどう働くべきか』など。近著は『池上彰の世界の見方 アメリカ2』。

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