
新連載/TOKYO 2040 SideB
雑誌DIME4月号から始まった新連載「TOKYO 2040」は作家であり、IT関連企業役員でもあり、昨年東京都知事選に立候補したことでも話題になった沢しおん氏による小説です。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進行していく社会の変化を見つめながら、その行き着く先である二十年後の生活や行政の姿を小説として描いています。@DIMEでは雑誌の連載を補完するものとして、小説の背景にある世の中の動きや現象を解説していきます。
コロナウィルスのワクチン接種にマイナンバーを使わないのはなぜ?
3月4日、各新聞では「マイナンバーカード 健康保険証としても利用可能に」との見出しが躍りました。一部の医療機関で検証が始まり、マイナンバーカードが健康保険証としても利用できるようになったからです。これまでなかなか普及しておらず、交付率が26%程度と言われていたマイナンバーカードですが、この一年、DXとともにじわじわと注目されています。
昨秋に「デジタル庁」発足が話題となるとともに、健康保険証や、今後は運転免許証とも一体化させ、スマートフォンへマイナンバーカードの機能を搭載していく方向性が矢継ぎ早に打ち出されました。これはDXの加速よりも「もっと早くからしておけばよかった」という社会的な後悔や反動があると思っています。
もちろん、その背景には新型コロナウィルスの流行があり、昨年の「特別定額給付金」の手続きにおける全国的な混乱で、「マイナンバーと銀行口座が結びついてさえいればこんなことにはならなかったのではないか」という議論を目にした方もいらっしゃるかと思います。
加えて、昨年夏の東京都知事選時は、効果的なワクチンや薬ができるには二年や三年かかるであろうという予測のもとに、だからこそ政治が防疫としてできることを全てしなければならないとの観点で政策を打ち出す候補者が私をはじめとして多かったと思います。それが半年という短い期間でmRNAワクチンが輸入されることになりました。
うまくすれば特別定額給付金の時のような混乱は避けられるのではないか、という期待も生まれそうなものですが、接種管理は各自治体に任されることになっていて、そこにはマイナンバーのDXによる国を挙げての利活用といった指針は見えてきません。
予算のある自治体であれば、急造とはいえ、ワクチン接種の予約から事後の追跡まで想定したシステムを詳しい業者に作らせることができるかもしれませんが、県民・市町村民の「個人情報」をどのように扱うかは大変デリケートなことです。
人の命を守る防疫・保健を早く正確に進めたいという観点がありつつ、これを機会とばかりに個人情報に関わるDXをゴリゴリと拙速に進めるのはいかがなものかという観点は同時に成り立って当然です。
マイナンバーとマイナンバーカードは別物
しかし、そういった議論の前に「そもそもマイナンバーってそんなにホイホイと使われていいものなの?」という疑問が浮かびます。というのも、マイナンバーは誰にも教えてはいけないと交付される時に教わるからです。
それなのに「マイナンバーカード」は健康保険証にもなれば運転免許証にもなるという。便利になればなるほどカードを出す機会、人に見せる機会、多くなりませんか? ニセモノの受付機械みたいなものにうっかり入れてしまったら個人情報が盗まれるのでは? と考えてしまいます。
ですがこれらの懸念は「マイナンバー」と「マイナンバーカード」はそもそも違うものなのに、混同してしまうことから発生します。ぶっちゃけ、違うものなのに似たネーミングをしたことは失策ではないか、それ故に「マイナンバーカード」の普及率も低いのではないか、とさえ思っています。
「マイナンバー」は、国民それぞれに付与された固有の番号を指します。世代にもよりますが、1990年代に「国民総背番号制」を巡って国会が紛糾したことを覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。30年という長い期間をかけて、個人情報というものが何なのかという議論が進み、マイナンバーは「社会保障、税、災害対策の法令で定められた手続のために、国や地方公共団体、勤務先、金融機関、年金・医療保険者などに提供するもの」と定義されています。
本人でさえ、おいそれと使えない番号ですし、その番号だけでありとあらゆる個人情報を照会できるかというと、そういう作りにはなっていません。
かたや「マイナンバーカード」は、自分に関する個人情報を引き出すための「キー」がカード状になったものと考えるのがよさそうです。
もし本人ではない人が手にしてしまったとしても、暗証番号を知らなければ何もできません。銀行のキャッシュカードと同じですね。キャッシュカードの中にお金が記録されているのではなく、お金そのものは銀行口座にあるのと同様、マイナンバーカード内に個人情報が記録されているわけではなく、引き出す個人情報は、病院なら病院内のシステムに、稼働前なので断言はできませんが運転免許証ならおそらく警察(公安)のシステムにそれぞれ蓄積される、ということになります。
DXが進むにあたって、個人情報がセキュリティとして慎重に取り扱いされることは当然としつつも、「マイナ○○」が一体何なのかという丁寧な説明は続けていって欲しいと切に思います。なぜなら、ここまで書いておきながら「マイナポータル」と「マイナポイント」が一体何なのか、わかっていないからなんです……誰か教えて! (次回以降、解説できるようにしておきますね!)
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します
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