
椎間板ヘルニアはシニアの病気ではなく、20代から40代に多く、特に女性より男性に発症が多いほか、喫煙者に多いなど、ビジネスパーソンは決して他人ごとではない病気の一つである。製薬会社の生化学工業主催の「腰椎椎間板ヘルニア」に関するセミナーより、テレワーク中などの日頃の予防策や手術不要の注射で治す最新治療法を紹介する。
椎間板ヘルニアは若年層に多い
長年、「腰椎椎間板ヘルニア(以下、椎間板ヘルニア)」の治療に取り組む慶應義塾大学医学部 整形外科 講師の岡田英次朗先生によると、慢性腰痛の中でも、椎間板ヘルニアは、20~40歳代の比較的若い世代がかかりやすいという。また、男性は女性に比較して、2~3倍多い傾向があるそうだ。
椎間板ヘルニアといえば、腰の痛みが激しい病気で、シニア世代がよくかかるようなイメージがあるが、実は、働き盛りの年代に多く発症しているそうだ。
椎間板ヘルニアになりやすいのは、激しいスポーツをする人や、重労働をする人、同じ姿勢で長時間仕事をしている人、肥満の人、喫煙者、体質的になりやすい人が挙げられる。
岡田先生によれば、現在コロナ禍で外出自粛やテレワークなど、生活様式が変わったことで、新たな患者が受診しているという。
椎間板ヘルニアとは
ところで、椎間板ヘルニアはどのような病気なのか。岡田先生の解説を元に、もう少し詳しく見ていこう。
慶應義塾大学医学部 整形外科 講師 岡田英次朗医師
腰椎治療のエキスパート。20年に渡り、数多くのヘルニア患者の治療にあたる。ヘルニアの最新治療法「酵素注入療法」など負担をかけない治療法を積極的に取り入れている。
テレビ、新聞、雑誌等メディア出演でも活躍し、著書に『ウルトラ図解腰・ひざの痛み―つらい痛みを軽くする最新治療と暮らしの工夫』がある。
慶應義塾大学医学部整形外科講師。順天堂大学卒業、2010年カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学、2011年東京都済生会中央病院整形外科医員、2017年慶應義塾大学医学部整形外科助教を経て、現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会外科指導医。
1.腰痛の中での分類
椎間板ヘルニアは、腰痛の2種類「急性腰痛」と「慢性腰痛」のうち、腰痛がおよそ3ヶ月以上続く慢性腰痛に分類される。そして「加齢や変性によるもの」の一つが、椎間板ヘルニアだ。
「椎間板」とは、背骨の骨と骨の間にあり、背骨のクッションの役割を担う部分である。その椎間板のうち、腰にあるのが「腰椎椎間板」で、その中にあるゼリー状の「髄核(ずいかく)」が何らかのきっかけで飛び出し、近くを通る神経を圧迫した結果、痛みやしびれが出る病気が腰椎椎間板ヘルニアだ。
2.原因
椎間板ヘルニアの原因は、主に、髄核が飛び出す日常生活による負担によるもの。特に腰椎へは、「前かがみの姿勢」「前かがみになって荷物を持ち上げる動き」によってストレスが大きくかかるといわれる。
また、髄核は20歳代から、線維輪(せんいりん)という髄核が突き破る組織は30歳代から老化がはじまるといわれる。普段から椎間板は消耗していき、線維輪は小さなひびが入りやすくなる。
椎間板ヘルニアの原因は、喫煙習慣や遺伝によるものもあるそうだ。
3.症状
椎間板ヘルニアの症状は、主に足の痛みやしびれ、腰痛などだ。
多くの場合、片側の足に症状がみられ、太ももの後ろからふくらはぎ、すねの外側などに痛みが走り、痛みの強さには個人差がある。
また、両足に症状がみられることもあり、足や腰の痛み以外にも筋肉の麻痺、足を持ち上げにくい、歩きづらい、足の感覚が鈍くなるといった症状が出ることもある。
重症の場合、尿が出にくいといった排尿障害が起こることもある。
4.治療法
椎間板ヘルニアの治療は大きく、「保存療法」と「手術療法」に分けられる。ヘルニアは自然に縮小したり、症状がおさまるケースもあるため、まずは、体の安静や痛み止めなどの薬を使用する「保存療法」が選択される。保存療法ではその他にも、コルセット、薬剤を注入して痛みを抑える神経ブロックなどがある。
保存療法で効果がみられなかった場合、従来は手術療法に移行していたが、2018年より、手術療法の前に、「椎間板内酵素注入療法(ヘルコニア®)」という新しい治療法が保険適用で使用することができるようになった。
●椎間板内酵素注入療法(ヘルコニア)
腰椎椎間板ヘルニア治療の新たな選択肢として登場したこの方法は、製薬会社である生化学工業が開発した、椎間板に酵素を含んだ薬剤「ヘルニコア®」を直接注射してヘルニアによる神経の圧迫を弱める治療法だ。
ヘルニアがある髄核に適切なヘルニコアを注入すると、酵素の力で髄核内の保水成分が分解され、水分による膨らみが適度にやわらぐ。その結果、神経への圧迫が改善し、痛みやしびれが軽減するという。
1回、注射を打つだけで終了し、場合によっては日帰りや1泊入院で済むケースがほとんどであるため、手術療法よりも負担が少なく受けやすい治療法といわれる。
現在、椎間板内酵素注入療法は脊椎外科の専門医のいる病院で治療を受けられる。
5.ヘルニアが疑われる症状
日頃、どんな症状が出たらヘルニアを疑い、病院を受診すべきか。
岡田先生によれば、次の3つの症状が見られたときが、受診すべきときだという。
(1)腰からお尻、太もも、すねのほうに広がる痛みやしびれがあるとき。それが咳やくしゃみで強くなるとき。
(2)痛みやしびれに伴い、足の感覚が鈍くなったり、足の力が弱くなり、歩くときなどに 不都合を感じるとき。
(3)足の激痛や強いしびれに伴い、尿が出づらくなったとき
→緊急での受診が必要
椎間板ヘルニアの日頃の予防策
生化学工業によるインテージヘルスケア調査の結果によると、椎間板ヘルニアによって「仕事を休職」「家事・育児が手に付かない」といった経験をした人はそれぞれ全体の約20%も存在していた。中には、仕事を退職した人が9.3%いた。
「自分は大丈夫」と思っていても、生活様式の変化などを受け、知らないうちに椎間板ヘルニアのリスクとなる日常生活動作や姿勢をとってしまっているかもしれない。
日頃からどのようなことに気を付ければ予防ができるのだろうか。
●前かがみの姿勢に注意
岡田先生によれば、日常生活の動作では、「前かがみ」の動作や姿勢には注意が必要だという。
特にテレワークで、低すぎる位置でパソコンを使用している場合、前かがみの姿勢を長時間とりがちだ。机やPCのモニターの高さを調整して、正しい位置にするほか、座り方もしっかりと坐骨をまっすぐにして、良い姿勢をキープするのがよい。
●1時間に1回はストレッチを
また岡田先生は、長時間のデスクワークをする際には、1~2時間に一度、腰のストレッチを行うのを推奨している。これは座りながらできるのでやりやすい。
1.腰椎をまっすぐに保って座る。
2.息を吸って、胸を張る。
3.ゆっくり5秒から10秒吐きながら、腰椎の後弯(こうわん)をつくる。
このようなストレッチを行い、腰椎に負担がかからないようにすることがポイントだという。
椎間板ヘルニアは、実は働き盛りに多い病気だということがわかった今、リスクを考え、日頃から予防策を実施しておくのがよさそうだ。
取材・文/石原亜香利