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“もしもの話”が心に響かないのはなぜか?

2021.03.03

 そんなわけはないと思った――。ユニークで面白くはあるが、少なくとも個人的にそれはあり得ない。カレーライスがドリンクであるという一文を目にしてしまった以上は……。

冬の終わりが近づく街を歩きカレーが食べたくなる

 要町から池袋西口に繋がる大通りの歩道を歩いていた。正午過ぎの快晴の空の下、寒さも緩み春を先取りした気分にもなる。

 早々と所用が終わったのだが、こういう時こそ日常の中でできる限り歩こうと、東京メトロ有楽町線を要町で降りて池袋まで歩くことにしたのだ。どこかで昼食にしてもよいのだろう。

 ご多分に漏れず緊急事態宣言中で街中の夜は早いが、日中の人通りは普段とそれほど変わらないようだ。昼時ということもあり人気のラーメン店の前には7、8人の行列ができている。

 この通りは「池袋乱歩通り商店街」とも名づけられていて、飲食店が目立つがアパレル店やスーパー、コンビニ、酒屋、各種クリニックやレンタカー店など、付近住民やオフィスワーカーには一通りの用が済むバリエーションの店舗が通りの両側に連なっている。

 このご時世でたいていの店の軒先には時短営業の旨を告げる貼り紙などがあるのだが、表通りには見たところ休業している店は見当たらなかった。通りから路地に入ってみればまた事情は少し違ってくるのかもしれないが……。

 まだまだ肌寒いが、快晴の空の下を歩いていると冬の間着続けていたコートを脱ぎたい気にもなってくる。池袋に近づくほどに人通りが増えてきた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 時短営業を告げる貼り紙をよく読んでみると、始業時刻と終業時刻、そして定休日を記しただけのシンプルな告知もあれば、店によっては始業と終業の時刻が変わったり休業する場合があるという但し書きが加えられているケースもある。不測の事態に見舞われている現状だけに、不規則な営業になったとしても無理はない。

 しかしもちろん利用者側からすれば、こうした但し書きを加えられて可能性に言及されたとしても困惑するだけだろう。そもそも利用者側にはどうすることもできない種類の事柄だからだ。不足の事態は誰にだって、いつだって起こり得る。可能性ではなく事実を伝えてほしいのだ。

 歩き進むと通りは徐々に賑やかになってくる。どこかの店に入り昼食にしようと周囲を見回していると、奇妙な看板の店が目に入ってくる。店名と思われる文言は、カレーライスはドリンクであると主張しているのだ。そんなわけはない、とすぐに内なる心が反応した。

 とはいってもユーモアを解さないほど野暮だとは自覚してはいない。奇を衒ったネーミングにはインパクトもあり愉快である。その店はもちろんカレーライス専門店なのだが、どんなカレーを出すのか食べてみたい気にもなってくる。しかしながらそのメッセージには同意することはできなかった。

 このちょっとした一件で確かにカレーが食べたくなってきた。昼食はカレーライスにしてみてもいいのだろう。しかしこの店は気分的に今日のところは保留したい。奇を衒ったものではなくあくまでも普通の食事がしたかった。

 店の前を通り過ぎる際に店内の様子を窺ったが、なかなかのお客の入りだ。ファンが多い店であることは間違いない。遠目に見たところカレーも特に奇を衒ったものではなさそうだ。ぜひとも次の機会には入ってみようと思う。

“可能性”よりも“事実”により強く脳は反応している

“カレーライス欲”に火がつけられると、周囲にはほかにもカレーを食べられる店がいくつかあることに気づかされる。歩道の反対側を少し戻れば人気のカレーチェーン店がある。その隣には店頭でケバブを販売しているアジア系カレー店もある。

 信号待ちをして通りの反対側に渡る。某牛丼チェーン店もありご存知のように最近ではカレーにも力を入れていて、今は期間限定のカレーメニューを出している。

 久しぶりに牛丼チェーン店でカレーを食べてみるのもよかったが、視界の先にはまた別のカレーチェーン店も見えてきたのでもう少し歩いてみることにした。

 通りと路地の角の店頭で鯛焼きを売っているお店があったのだが、その店の路地側の隣にアジア系カレー店があった。店頭ではベトナムのサンドイッチも販売しているようで思わず足が向く。店先に出ているメニューを見ると確かに美味しそうだ。入ってみてみよいのだろう。ちなみに店名はストレートでわかりやすいネーミングだ。

 L字型のカウンターのみのシンプルなレイアウトの店内で、時節柄、座席は透明なアクリル板のパーテーションの衝立てで仕切られている。メニューを眺めて一番先頭にあるベジタブルカレーとサラダを注文した。

 それにしてもカレーライスが飲み物であるというのは普通に考えて“事実”ではなく“可能性”の1つだ。確かに可能性としてカレーライスを“流動食”にすることはできるのかもしれない。そしてもちろん、カレーライスをまるで飲み物であるかのように食べるという表現はそれはそれで面白いし、比喩として一面の真実を突く場合もあるのだろう。しかしそれは1つの可能性であり、少なくとも個人的にはすぐさま同意することはできなかった。

 サラダはすぐにやってきた。注文時に選んだトマトドレッシングがなかなか美味しい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 時短営業の告知の但し書きのように、カレーは飲料だという“可能性”の話をされても受け手側はなだんだかモヤモヤした気分になるだけかもしれない。やはり“事実”を伝えてもらいたいと感じるのではないだろうか。

 最新の研究でも我々の脳は“事実”を述べている言葉と、“可能性”に言及している言葉を明確に区別して認識していることが示されている。我々の脳はもちろん“事実”に重きを置いて強く反応しているのだ。


 これを調査するために、研究者は言語学の正式な意味理論を使用して、被験者が事実と可能性の両方として表現された一連の文とシナリオを聞く複数の実験を設計しました。たとえば「騎士は大きな剣を持っているので、従者もそうします」(事実)と「騎士が大きな剣を持っている場合、従者も持っています」(可能性)です。

 これらの実験中の被験者の脳活動を測定するために、研究者たちは脳磁図(MEG)を導入しました。これは脳が発生する電流によって生成される磁場を記録することによって、神経活動をマッピングする手法です。

 結果は、事実に基づく言語が神経活動の急速な増加につながり、脳はより強力に反応し、可能性を伝えるものと比較して事実に基づくフレーズやシナリオとの関わりを示しました。

※「New York University」より引用


 米・ニューヨーク大学の研究チームが2020年12月に「eNeuro」で発表した研究では、実験を通じて我々の脳は、事実を伝える言葉と可能性を伝える言葉とを瞬時に判別して、事実を伝える言葉に強く反応していることを報告している。事実を伝える言葉を耳目にした時に、実際に脳活動が活発になっているのである。

 実験参加者は脳が生成する電流を測定できる機器(MEG)を装着し、たとえば「ベッドの下にモンスターがいる」という事実について述べているステートメントと、「おそらくベッドの下にはモンスターがいる」という可能性に言及する文言について、それぞれどのように脳が反応しているのかが検証された。

 検証の結果、脳は事実に即した文言により強く、活発に反応していることが突き止められたのだ。逆に可能性に言及する文言について脳活動ははるかに弱々しい反応しか見せなかったのである。やはり我々は可能性ではなく、事実を欲しているのだ。

“カレー激戦区”でアジア系カレーを堪能する

 カレーがやってきた。トマトやナス、ピーマンやオクラなどが入ったカラフルな野菜カレーだ。みるからにヘルシーでサラサラしたルーがライスにすぐに染み込む。最も辛くない味を選んだが、じゅうぶんにコクがある。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 昼時ということもあり、食べていると次から次とお客が入ってくる。この店もファンが多い人気店なのだろう。お客の半数は女性だ。

 それにしてもこの周囲には飲食店がひしめきあっている“激戦区”である。それ故にこうした美味しいお店を苦もなく探せるのは考えてみればすごいことだ。利用する側にとっては都合がよいのだが、逆に飲食店の人々にしてみれば一筋縄ではいない立地であることは間違いない。

 とはいえさっきの店でもこの店でも、美味しいメニューをリーズナブルな価格で提供していれば固定ファンは確実につくのだろう。

 常連客らしきお客の注文を聞いていると、トッピングを1つ2つ追加しているオーダーがいくつか耳に入る。半生のスクランブルエッグやチーズのトッピングが多いようだ。今食べている野菜カレーはこのままでもじゅうぶん美味しいが、タンパク質に欠けているので卵やチーズ、あるいは豚肉(トッピングにチキンはないようだ)などを加えてみてもよかったかもしれない。次に来る機会があれば検討しよう。

 ともあれ日中はこうして外食を楽しめるが、はたして心おきなく夜に外で“ちょっと一杯”ができる日は近いのだろうか。しかしそれを案じてみてもそれは今のところは可能性の話に終始してしまう。そこに明確な事実は何もないのだ。

 仕事関係の人々と飲んだりすることなどすっかりなくなっているのだが、つい先日にはありがたいことに今のコロナ禍が終わったら久しぶりに飲みましょうという、やや社交辞令的な提案を頂いた。当然ながらこちらこそよろしくお願いします、楽しみにしていますと話を合わせたのだが、あくまでもこれは可能性の話であって今のところは現実味が感じられない。やはり可能性の話をされても心に響いてこないのだ。“もしもの話”には脳は特に反応せずに“スルー”しているということなのだろう。

 美味しいカレーにありつくことができてじゅうぶん満足である。午後のひと仕事に向けて勢いをもらうことができた次第だ。

文/仲田しんじ

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