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創業経営者が社長を務める小企業やベンチャーへの就職は慎重になるべき理由

2021.02.13

■連載/あるあるビジネス処方箋

創業経営者が社長をする100人以下の企業で頻繁に見られる流れ

 今回は新卒(専門学校、大卒、大学院修士)の就職活動において、創業経営者が社長をする中小企業やベンチャー企業への入社の是非をテーマに取り上げたい。特に正社員数が100人以下の企業とする。

 結論から言えば、このような小さな会社に新卒として入社するのは常に慎重であるべきと強く言いたい。中にはきちんとした会社もあるはずだが、多数ではない。だからこそ、冷静に慎重に考え、選択するべきだ。

 この原稿を書く数日前にも、このクラスの会社の新卒採用担当者のオンライン取材をした。採用担当者は、「過去5年以内に新卒で入社した11人全員が3年以内に退職をしている」と話していた。私が社員数100人以下で、創業経営者が社長をする会社の取材でこういう話を聞くケースは多い。この15年を振り返っても、50∼60件は確実にある。

 創業経営者が社長をする会社でも、社員が数千人を超えるメガベンチャー企業がある。こういう会社には、積極的にエントリーすることを勧めたい。組織である以上、会社に何らかの問題はあるのだろうが、広い視野で10年先まで見据えると、入社後に得るものは多いはずだ。

 創業経営者が社長をする会社で、社員100人以下の会社と社員が数千人を超えるメガベンチャー企業の間には、どのような差があるのか。それは、一言で言えば仕組みだ。

 仕組みはチームや部署が仕事を推し進め、成果や実績を残していくうえで大切なものだ。例えば、課長が部員と1対1のミーティングを毎週行い、2週に1回程、部員が全員参加する会議を開く。こういう話し合いの記録が、議事録やオンラインとして残る。それらを見て、課長と部下が話し合し、仕事力を向上させ、業績を拡大する。これら一連の取り組みは、仕組みと言える。

 仕組みを作るのは難しい。上司が作ろうとしても、部下たちの心を掌握できないといけない。上司が信用されない人では、部下はついてこない。部下は目の前の仕事に追われる。ミーティングや会議を忘れている場合すらある。

 だが、仕組みを作らないと部下たちは独自の判断で動き、部署は個々がバラバラとなる。社員間で共有することができないがためにムリ、ムダ、ムラの塊となり、高い成果や実績を残せない。部下たちも仕事を覚えることがなかなかできない。やる気を失い、辞めていく者も現れるかもしれない。この流れは、創業経営者が社長をする100人以下の企業で頻繁に見られる。

なぜ、次々と社員が辞めていく会社に行こうとするのか

 なぜ、仕組みを作ることができないのか。それは、創業経営者である社長が仕組みを作らせないからだと私はかねがね考えている。例えば、こういう会社に新卒採用をテーマにした取材でうかがったとする。大半のケースでは、社長が取材に応じる。取材1時間程のうち、50分程をひとりで話す。横に座る採用担当者はひたすら黙る。これでは、担当者のプライドやメンツが保たれないだろう。中堅、大企業、メガベンチャー企業で社長がこのような取材で話すことはまずない。採用担当やその上のマネージャー(管理職)が応じることが多い。

 発言の場すら与えられないようでは、担当者のこの場での仕事力はほとんど身につかない。ところが、社長は悪びれた様子がないようだ。それどころか、社長は担当者が決めた採用試験の方法やスケジュール、段取りを次々と潰す。担当者が決めたものを覆し、自分ですべてやり直すのだ。

 私が観察をしていると、常に隅々まで確認し、仕切らないと気がすまないようだ。自分よりも優秀な役員、管理職、社員を認めない傾向もあるように見える。創業した会社への愛着やこだわり、責任感、使命感があるのだろうか。確かに社員の定着率が低いこともあり、社員の仕事力には難が多いこともあるだろう。

 だが、社長だけで動かそうとする発想そのものに無理があると私は思う。だが、社員数が100人以下の会社の創業経営者で、社長をしている人は仕事への執着やこだわりが相当に強い。だからこそ、創業者として一定の成功を収めているとも言えるのだが、新卒者にとってはリスクがある。

 このような会社には健全なチームワークも、明確な役割分担も権限移譲もほとんどないように見える。創業経営者である社長があらゆる仕事に介入し、意のままに動かしていたいのだろうか。結果として、採用担当者の仕事を奪う。それで突然、放り出すことが多々ある。社長のところに社内のあらゆる仕事が集中するから忙しくなり、最後まで関わることができないのだという。このいい加減な態勢に採用担当者は不満を持ち、怒り、辞めていくケースが実に多い。

 だが、社長はその社員の責任にするようだ。「常に自分が正しく、常に相手が悪い」といった考えに凝り固まっているので、自らの過ちを顧みようとしない。この後も、同じことが形を変えて続く。採用担当者は嫌気がさし、数年ごとに辞めていく。

 これは、営業にも経理にも広報にも言える。社長はそれぞれの担当者の仕事をどんどんと奪い、仕切ろうとする。そして、中途半端に放り出すことがある。おそらく、悪気はないはずだ。むしろ、必死であり、真剣なのだろう。そして、部下になんとか、教えようとしているのかもしれない。ある意味で責任感や使命感が強すぎるとも言えよう。

 だが、このレベルの会社の創業経営者の多くは大企業で管理職をした経験がほとんどない。つまり、部下を育成しつつ、チームを作るいわゆるマネジメントの経験が極めて乏しい。だからこそ、部下の心もわからず、社長自らプレイヤーをして仕事を大量に抱え込む。部下の仕事をどんどんと奪っていく。

 社内には労働組合はない。反主流派の役員や管理職は圧倒的に少ない。社長に何かを言える人はほとんどいない。ある意味で、怖い者がない。シビアに見ると、裸の王様とも言える。だからこそ、同じことを繰り返す。採用、営業、経理、広報などの社員は不満や怒りを持ち、数年ごとに辞めていく。

 こういう会社は慢性的な業績難に陥りやすい。売上で言えば15億円以下で、多くは10億円の前の壁で行き詰まる。いわゆる、「10億円の壁」と言われるものだ。社員数では100人以下を推移する可能性が高い。これはある意味で当然のこと。仕組みが社内にはほとんどないのだから、行き詰まるようになっている。皮肉なことに、社長が仕事をするほどに部下は疲弊し、仕組みを作れない。

 私が知る中堅、大企業の社長(この場合の多くは、サラリーマン社長)で、こんな生活をしている人はまずいない。社内には役員や管理職が多数いて、それぞれが部下を持ち、部署やチームを動かす。それで、ある程度は動くのだ。そうしないと、この規模の会社はまず機能しない。社員が1000人を超えるメガベンチャー企業も、同じことが言える。

 ある意味で創業経営者が社長をする100人以下の会社は、組織が未熟なのだ。社長が1人で大量の仕事を抱え込むから、社員が育たない。仕組みが作れない。組織として機能不全に陥りやすい。私は新卒者がこんな会社に入社することには強い疑問を繰り返し呈したい。なぜ、次々と若い社員が不満や怒りを持ち、辞めていくところに行こうとするのか。このタイプの会社でも、中堅、大企業、メガベンチャー企業と同レベルの育成力の会社もあるのかもしれないが、相当に少ないはずだ。

 読者諸氏には、こういう会社に入ったことでみじめな思いをどうかしてほしくない。私は、創業経営者が社長をする100人以下の会社に新卒で入り、高い仕事力を身につけた20代の社員をこの30年程で見た記憶がほとんどない。

 以下は、厚生労働省の調査「新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」の結果だ。平成15年から平成30年まで、大卒の新卒者の離職率を勤務する会社の規模別に示したものである。社員数99人以下の会社は1000人以上の事業所の離職率が他と比べ、全般的に高いことがわかる。

https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000556488.pdf

 あなたに問いたい。大きな痛手を受けることがわかっている職場になぜ、入社するのか…。

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文/吉田典史

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