■連載/石川真禧照のラグジュアリーカーワールド
1960年代、ニュージーランド出身のブルース・マクラーレンは、ヨーロッパのフォーミュラレースからアメリカのスポーツカーレースまで世界を股にかけて席巻した。彼はドライバーとしてだけでなく、レーシングカーの開発にも長けており、自身の名前の冠したマシンでも活躍した。現役を引退した後もマシン開発を続け、F1チームではホンダエンジンで世界チャンピオンにも輝いた。伝説のドライバー、アイルトン・セナもマクラーレンで有名になった1人だ。
レーシングカー造りの一方で、マクラーレンは公道を走ることができるスポーツカーの開発にも力を入れている。そのため、2010年にマクラーレンオートモティブという会社を立ち上げた。ここが世に送り出すクルマは公道だけでなく、サーキットでも超一級の性能を有したスポーツカーたちだ。
マクラーレン「720Sクーペ」は、同社の最新モデルの1台。2017年に英国で発表され、日本には2017年夏から納車が始まっている。マクラーレンの公道モデルは、スポーツカーシリーズ、スーパーカーシリーズ、アルティメットシリーズに分かれている。「720S」はスーパーカーシリーズの中心モデルだ。2018年暮れには、オープンルーフの「スパイダー」も加わった。「720Sシリーズ」はスーパーカーシリーズの第2世代として登場した。
そのパワーユニットは、車名からもわかるように720PSを発生する。マクラーレンはスポーツカーシリーズ、スーパーカーシリーズには、最高出力の数字をそのまま車名に使用することにしたのだ。
自社開発のV型8気筒、4Lエンジンはツインターボで武装され、720PSと770Nmの最大トルクを発生する。このV8エンジンはそれまでのスーパーカー「650」に対し41%のパーツが新しく設計だ。
ボディー構造の基本は、カーボンファイバー製のタブと上部構造の「モノケージⅡ」と呼ばれる部分が中心となっている。マクラーレンは1993年にマクラーレンF1というロードカーを発表しているが、この時からすべてのロードカーにはカーボンファイバー製のシャーシを採用した。これは軽量で強度と剛性の高いクルマ造りに欠かせない技術となっている。もちろんアルミニウム合金はシャーシだけでなく、ボディパネルなどに多く使われている。
新しいスーパーカーシリーズのボディの特徴としては、車体横にあるラジエターインテークを省いたことだ。このインテークは実用上でも小石などが飛び込むなど不都合な面もあった。新しくエンジンにフレッシュエアを送りこむのは、ハネ上げ式のデイヘドラルドアに装備されたダブルスキンというエアロダイナミクス形状。これはミッドシップのエンジンが冷却される。
ガラス製のキャビンは真上から見ると涙型で、明るいドーム状になっている。このガラスは瞬時に透明度を変えられるテクノロジーが採用されている。ダブルリンクで上方に開くドアを開けて、運転席に乗り込むとドアはルーフまで切れこんでいるので、乗降性はとてもよい。
ドアを閉めるときは内張りに装備されているベルトを引く。室内は頭上にも余裕があり、ガラスのキャノピー状になっているので斜め後方の死角も少なく、視認性はとてもよい。この手のスーパースポーツの中でも運転しやすさではベスト3に入れてもいいだろう。
V8、4Lツインターボエンジンは一発で目覚める。アイドリングはジェントルだ。走り出す前にモードを選択する。ハンドリング/パワートレインはコンフォートかアクティブを選ぶ。最初は、無難にコンフォートでスタートする。Dレンジをスイッチで選択し、アクセルを踏み込む。7速ATは静かに加速を始める。60km/hで6速1400回転。ツインターボはかなりフレキシブルだ。100km/h巡行では7速1800、6速2300、5速3000回転で走行する。この領域では本当に運転のしやすいクルマ、という印象だ。
「720S」が性格を変えるのは4000回転以上から。4000回転をオーバーすると、まずエンジンからの音が変わる。同時にアクセルレスポンスがかなり敏感になる。そのまま踏み続けるとあっという間に7000回転に達し、7300回転のレッドゾーンに飛びこもうとする。
サスペンションと電動油圧式パワーステアリングが一体となり、スポーツ性が向上したプロアクティブシャーシコントロールは、車速が高くなるほどにクイック感が増す。やや重めの操舵感+クイックな動きでのコーナリングはスポーツ感覚。サーキットでなければとても実力を試すことはできない。
ブレーキも制動力は十分だが、踏力を要求される。これもサーキットでは頼もしく感じるはずだ。マクラーレンの新世代スーパーカーシリーズ「720S」は、たしかにサーキットで楽しめるクルマだが、一方で街中でもとても乗りやすいスポーツカーでもある。個人的にはポルシェ「911」のライバルであってもおかしくない存在だと個人的には感じている。
■関連情報
https://cars.mclaren.com/jp-ja/super-series/720s
文/石川真禧照 撮影/萩原文博 動画/吉田海夕
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